晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『旅情(1955)』 85点

2012-07-12 12:16:40 | 外国映画 1946~59

旅情(1955)

1955年/イギリス

D・リーン監督、K・ヘップバーン主演で、ラブストーリーの名作になった。

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆85点

英国のデヴィッド・リーン監督がブロードウェイで大ヒットしたアーサー・ローレンツの戯曲を映画化。ヴェネチアを舞台にした大人のラブロマンスで、主演は「アフリカの女王」のキャサリン・ペップバーン。
いまでは珍しくないが、独身女性が海外観光旅行をすることは希有な時代。38歳の米国人独身女性ジェーン(K・ペップバーン)は長期休暇を取って念願のヨーロッパ旅行を実行。ロンドン・パリを経由してオリエント急行で憧れのベネチアに到着する。彼女は8ミリ片手にサンマルコ寺院やドゥカーレ宮殿など名所を少女のような純粋さで歩き回る。そして秘かに期待していたアバンチュールのトキメキは、骨董店で見つけた赤いゴブレットがキッカケでレナート(ロッサノ・ブラッツィ)との恋が始まる。
本作はD・リーンがハリウッド資金を得て、フンダンに製作費を使い全編オールロケした大作。このあと「戦場にかける橋」(55)、「アラビアのロレンス」(62)、「ドクトル・ジバゴ」(65)を世に出した押しも押されぬ大監督だが、本国英国では「逢いびき」(45)というラブストーリーでカンヌ・グランプリを受賞しているので、この手の映画は得意。これを観た独身女性がべネチアに憧れ訪れたため、元祖・観光映画として美しい<水の都・ヴェネチア>を世界に広めたといえる。のちの「ベニスに死す」とは違って街がイキイキとして人々も陽光に照らされて明るく映えて写る。
K・ペップバーンは当時48歳で役柄よりも10歳年上だが、アラフォー独身女性の雰囲気がぴったりで流石の演技。とくに8ミリ片手で後ずさりして運河に落ちる名シーンは、大女優にしてスタントなしで演じたため後遺症に悩まされたというほど体当たりの演技は賞賛もの。映画史に残るラスト・シーンと併せ彼女ならではの役柄で余人を持って代えがたい。
相手役のロッサノ・ブラッツィは外国人から見た典型的なイタリア男。妻子がありながら「空腹ならあるものを食べる」という口説き文句は驚きだ。それでもそんなに不誠実な男ではなさそう。どこか一途さがあって別れてから悪印象は持たれないタイプか。
マウロという孤児の少年が随所に出てくるがなかなかの名演。このドラマの狂言廻しとして貴重な役割を果たしていた。
ゴンドラ、運河、ブラーノ島、橋、路地、駅と今も変わらぬベネチアを背景に、<赤いゴブレットと白いくちなしの花>が小道具として彩りを添えている。<サマータイム・イン・ベニス>の音楽が甘美に流れ、ラブストーリーの名作として輝かしい足跡を残した。


『少年は残酷な弓を射る』 80点

2012-07-09 15:22:36 |  (欧州・アジア他) 2010~15

少年は残酷な弓を射る

2011年/イギリス

憎悪と愛情の違いは両極ではない

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

映画化は難しいと言われた英国オレンジ賞(女流作家の最高賞)を受賞したライオネル・シュライヴァーのベストセラーをリン・ラムジー監督、ティルダ・スウィントン主演で実現。製作は2人にスティーヴン・ソダーバークが加わった意欲作。
いかにもヤツレきったエヴァ(T・スウィントン)の住まいには赤いペンキが掛けられ車の窓にもベッタリとついている。小さな旅行代理店で面接を受け雇われるが社員達の冷たい視線が痛い。おまけに通りすがりの初老の女性から顔を殴られてもじっと我慢するエヴァ。
こんな出だしで、<これは何が起こったのだろう>と観客を惹きつけたまま物語は始まる。どうやら息子(エズラ・ミラー)が事件を起こして刑務所に入っていたらしい。面会はお互い目を合わせることもなく殆ど会話にならない。
物語はエヴァの視点で現在と過去をカットバックさせながら母と息子の関わりを紐解いて行く。旅行作家として世界中を自由奔放に飛び廻っていたエヴァ。夫・フランクリン(ジョン・C・ライリー)はエヴァを追いかけてきて結ばれるが、勢いで結婚し予期せぬ時期に妊娠。心の奥にもっと自由に仕事を続けたいという想いを抱えながら息子・ケヴィンを生む。無邪気に喜ぶフランクリンをよそに漠然と不安を予感させるエヴァの表情が対照的。
息子が生まれる前の2人の幸せな時代からケヴィン誕生、NY郊外の瀟洒な住まいでの3歳・6歳・そしてあと3日で16歳になる冒頭シーンをシャッフルしながら18歳になろうとするエンディングまで。ペンキ・トマト祭り・イチゴジャム・ケヴィンの唇など絶えず血を想わせる赤が刺激的な映像。鬼気迫るT・スタントンの演技に魅了されながら3人が演じたケヴィンの心情を想像することを余儀なくされる。ケヴィンを演じた3人の上手さにもびっくりで、妹・セリアも可愛い。
ネタバレ違反すれすれの邦題だが、生まれたときから育児ノイローゼになるほど泣きやまないケヴィン。エヴァを困らせながら唯一6歳のときロビン・フッドの読み聞かせで母に甘えた心の奥を題材にしたしたともいえる。愛情表現が上手く出来なかった似た者同士の母と息子。憎悪と愛情はまるっきり両極にあるものではなく案外近くに存在するのかもしれないが<本気で抱きしめて欲しかっただけ>ではこのドラマはスッキリしない。世の中の不可解な常軌を逸した猟奇的犯罪が総て原因究明されるものではないが、もう少し救いが欲しかった。
楽天的で物事を深く考えないフランクリン。そもそも、服装からみても性格が違う2人には本当の会話がないまま16年一緒に暮らしていたことが窺える。自分がフランクリンだったらどうするだろうか?観終わって<家族>について改めて考えさせられた。


『御用金』 75点

2012-07-07 12:51:27 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

御用金

1969年/日本

随所に冴えを魅せた五社演出

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★☆☆70点

「三匹の侍」の五社英雄監督による日本初のパナビジョン(70ミリ)時代劇。
天保2年、越前鯖井藩の漁村で30数名が突然いなくなり、年季奉公明けの<おりは>(浅丘るり子)がたった一人生き残った。領民たちは<神隠し>に遭ったと噂し合う。3年後、大道芸で暮らしていた元鯖井藩の浪人・脇坂孫兵衛(仲代達矢)は何者かに命を狙われ、次席家老・六郷帯刀(丹波哲郎)の指図であることを知る。
主演の仲代を始め、丹波哲郎、浅丘るり子、司葉子、それに特別出演の中村錦之助という豪華キャスト。フジTVが初めて映画製作に関わっただけに失敗は許されず、その力の入れ具合が大画面からホトバシリ迫力充分。
豪華キャストの場合、スターの見せ場を作る都合上往々にしてシナリオが纏まりのないものになりがち。本作は仲代・三船敏郎の2大スター競演が売り物だったからなおさらである。撮影中仲違いのため三船が途中降板し、急遽錦之助が3日間で代役をこなしたという曰くつき。ベテラン田坂啓の脚本がかなり辻褄合わせにならざるを得ず粗探しをすればキリがないが、五社の力量で何とか完成に漕ぎ付けたので大目に見たい。
荒涼とした海辺のロケが大画面映像美と何度か繰り広げられる殺陣が最大の見せ場でファンにはシーン・シーンで本格時代劇の味を堪能できる。仲代・丹波・錦之助の殺陣は超一流だし、最初に登場する西村晃の居合抜きも見事。
主演の仲代は相変わらずリキミ過ぎの感は拭えないが、その風貌や立ち居振る舞いは三船やC・イーストウッドに見劣りしていない。対する丹波は藩の困窮を救うべく「大の虫を生かすには小の虫を殺さなければならないときもある」という武家社会の不条理を実践し、単なる悪家老ではない人物像をスタイリッシュに演じて魅せている。
女優では、浅丘るり子が純情な娘と鉄火な壺振り師の振り分けを鮮やかに演じ、彩りを添えている。錦之助は相変わらず軽妙な演技で見事な代役、司は武家の妻らしい気品を披露していたが、見せ場が少なく気の毒な役になってしまった。
随所に凄みのある五所演出は人物像の描き方に不満を残しつつも大作を作れる監督としてその力量を発揮した作品だ。


『ウホッホ探険隊』 75点

2012-07-02 11:21:04 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

ウホッホ探険隊

1986年/日本

新しい形態のホーム・ドラマを作った根岸・森田コンビ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

干刈あがたの同名小説をデイレクターズ・カンパニー設立者10人うちのひとり「遠雷」の根岸吉太郎監督が「家族ゲーム」の森田芳光シナリオで映画化。単身赴任者が原因で離婚がみられるようになった80年代、新しい形態のホームドラマ。キャッチフレーズは「優しい離婚」で題名からコメディを感じさせるが、子供の視点からの原作を大人へ変換したため、トーンはどちらかというとシリアス。
しっかりもので雑誌のインタビュア・ライターの榎本登起子(十朱幸代)は、食品会社の研究員である夫・和也(田中邦衛)が単身赴任中も、2人の息子の母親として奮闘中。たまに帰ってくる和也は、どことなく自分の居場所がなくなっているのを感じている。いままでの仕事一筋で家庭を顧みない父親像とは違う優しい父だが、なんとなくぎこちない。
この頃良くTVで観た「ホーム・ドラマ」とは設定が違うだけでなく、独特の空気感があって食事シーンや家族で過ごす休日の雰囲気が不思議な空間を感じさせる。日常会話を切り取った斬新な台詞廻し、アングルがユニークな丸池納の映像がその要因だろう。それは森田脚本と根岸演出が必ずしも融合せず、混在しているためなのかもしれない。
現在はあまり珍しくないが単身赴任先での不倫はオープンにはならず、当事者同士の秘密だった時代。夫は知らずにこのままいるのは良くないと妻に告白、おまけに3人でありのままの心境を話し合おうと提案する。2人の息子たちはそれなりに受け止めるのも予期せぬ展開で、森田シナリオの本領発揮だ。ただ登起子のインタビューを受けるロック・ミュージシャン(陣内孝則)とその妻(斉藤慶子)のシークエンスは、全体のトーンとは違った存在で浮き上がってしまった。
原作は離婚した夫婦の物語だが、映画は離婚するまでの設定なのでこういうエンディングにしたのだろう。ピンボケのエンドロールはその象徴か?
1億8000万の製作費で3400万の収入は興行的には失敗したが、この年のブルー・リボン作品・主演男優賞(田中邦衛)を獲得して名誉挽回。田中はミスキャストすれすれだったが見事に克服、十朱の好演、息子役の2人(村上雅俊・本山真二)の自然体がこのドラマのリアリティさを支えていた。
余談だが、柴田恭兵(人気プロ野球選手・景浦)が原辰徳とダブってみえた。