晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『御用金』 75点

2012-07-07 12:51:27 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

御用金

1969年/日本

随所に冴えを魅せた五社演出

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★☆☆70点

「三匹の侍」の五社英雄監督による日本初のパナビジョン(70ミリ)時代劇。
天保2年、越前鯖井藩の漁村で30数名が突然いなくなり、年季奉公明けの<おりは>(浅丘るり子)がたった一人生き残った。領民たちは<神隠し>に遭ったと噂し合う。3年後、大道芸で暮らしていた元鯖井藩の浪人・脇坂孫兵衛(仲代達矢)は何者かに命を狙われ、次席家老・六郷帯刀(丹波哲郎)の指図であることを知る。
主演の仲代を始め、丹波哲郎、浅丘るり子、司葉子、それに特別出演の中村錦之助という豪華キャスト。フジTVが初めて映画製作に関わっただけに失敗は許されず、その力の入れ具合が大画面からホトバシリ迫力充分。
豪華キャストの場合、スターの見せ場を作る都合上往々にしてシナリオが纏まりのないものになりがち。本作は仲代・三船敏郎の2大スター競演が売り物だったからなおさらである。撮影中仲違いのため三船が途中降板し、急遽錦之助が3日間で代役をこなしたという曰くつき。ベテラン田坂啓の脚本がかなり辻褄合わせにならざるを得ず粗探しをすればキリがないが、五社の力量で何とか完成に漕ぎ付けたので大目に見たい。
荒涼とした海辺のロケが大画面映像美と何度か繰り広げられる殺陣が最大の見せ場でファンにはシーン・シーンで本格時代劇の味を堪能できる。仲代・丹波・錦之助の殺陣は超一流だし、最初に登場する西村晃の居合抜きも見事。
主演の仲代は相変わらずリキミ過ぎの感は拭えないが、その風貌や立ち居振る舞いは三船やC・イーストウッドに見劣りしていない。対する丹波は藩の困窮を救うべく「大の虫を生かすには小の虫を殺さなければならないときもある」という武家社会の不条理を実践し、単なる悪家老ではない人物像をスタイリッシュに演じて魅せている。
女優では、浅丘るり子が純情な娘と鉄火な壺振り師の振り分けを鮮やかに演じ、彩りを添えている。錦之助は相変わらず軽妙な演技で見事な代役、司は武家の妻らしい気品を披露していたが、見せ場が少なく気の毒な役になってしまった。
随所に凄みのある五所演出は人物像の描き方に不満を残しつつも大作を作れる監督としてその力量を発揮した作品だ。