晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『天空の草原のナンサ』 75点

2011-06-30 16:09:49 | (欧州・アジア他) 2000~09

天空の草原のナンサ

2005年/ドイツ

失いつつある遊牧民生活への郷愁

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

モンゴルのビャンバスレン・ダバー監督・脚本によるドイツ映画。遊牧民バットチュルーン一家の伝統的生活を重んじながら雄大な自然のなかに暮らす深遠な世界を描いている。
素人でありながらカメラを意識していない一家の自然な演技は監督との信頼感の賜物だろう。
原題は「黄色の色の洞窟」で監督が祖母から聴いたモンゴルに伝わる「黄色い色の伝説」がヒントとなっている。病気の娘が犬を洞窟に置いてくると元気になった。犬は人間に生まれ変わる最も近い動物とされ、娘の結婚を邪魔した犬のハナシだ。モンゴルの輪廻転生思想と遊牧民の大切な羊を襲う天敵・狼を近ずけないという教えの比喩なのだろう。ここでは一家の長女ナンサが犬とともに迷子になり独り暮らしのおばあさんからその話を聴く。
都市化が進むモンゴルでは一家の暮らしは決して楽ではない。父は街で働こうかというが母はそれでは一家が食べて行けないという。幼い妹、よちよち歩きの弟の世話をするのはナンサの役目だが実家から学校へ通うことが決まっているらしい。子供たちはこうして離れて行くのだろうか?移動住居・ゲルでくらす遊牧生活は10年続いたTV番組「世界ウルルン滞在記」を思い出させるシークエンスだ。
何気に感動したのは母の逞しい生活力と夫や子供への愛情の深さ。一日中働き詰めだが、大らかな自然に育まれた優しさに満ちている。ナンサに手のひらをかませようとさせ、できないと人間に生まれることはそのぐらい難しいことだと言って生まれたことを感謝しなさいと諭す。おばあさんの「針の上の米」といい人生哲学を子供へ伝えるモンゴル文化は同じモンゴリアンである日本の心にも通じるものがある。雲を観て動物を想像する姉妹、豊かな想像力をもった大人に成長して欲しいと願わずにはいられない。
カンヌ映画祭でパルムドッグ賞を受賞したツォーホルの名演技も犬好きには見所のひとつ。


『チベットの女 イシの生涯』 80点

2011-06-29 10:38:37 | (欧州・アジア他) 2000~09

チベットの女 イシの生涯

2002年/中国

50年間の夫婦愛からチベットの精神性を描いたシェ・フィ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆80点

中国の巨匠シェ・フィ監督がチベット人の心情や宗教観に魅せられ美しい情景をふんだんに取り入れ描いた女・イシの生涯。原作者ザシワダとともに脚本化したのはひとりの女が関わった3人の男をとおしてトキを超えて許し合う人間の寛容精神がいっぱいの人間ドラマだ。
3人とは夫のギャツォ、元荘園の若旦那クンサン、そして幼なじみだった僧侶サムチュ。イシ夫婦がチベット仏教の聖地・大昭寺(ジョカン)へお参りしたとき、観光案内していた男に衝撃を覚える。夫は知らぬそぶりだったが、イシには50年前寵愛を受けた荘園の若旦那クンサンではないだろうか?と気になって仕方ない。夫はいまは穏やかな老後を過ごしているが、若い頃はならず者でイシを略奪して夫婦になっている。
50年前のチベットが封建的であったことが再現されるが、あくまで中国が作ったチベット映画で政治色は極力抑えられているが、このあたりは見え隠れしているのが覗える。上映時間が105分と短いのもカットされた部分があったらしい。
イシは借金のカタで見受けされたが美しい歌声の持ち主であったのもクンサンのお気に入りの理由のひとつ。ツァンヤンギャオツ(ダライラマ6世)の恋歌が得意で、ならず者ギャツォも一目惚れ。その詩集をくれたのが初恋の人サムチュだった。
最大の魅力はチベットの透き通った風景とダライラマの住まいボタラ宮殿や大昭寺、元領主の館ギャンツェ博物館や八角街(バルコル)などの名所旧跡。なかでも若きイシが水浴びをするトルコ石の湖・ヤムドク湖や夫を追って旅する途中で映った標高4700Mにあるナムツォ湖の美しさは貴重な映像。こんな豊かな自然に囲まれたチベットだから自然崇拝と輪廻転生を信じる宗教観が生まれたに違いない。
フィ監督は50年後の中国を表現するために北京にいる孫娘の大学生ダワを登場させ現代の恋愛観やインターネット通信を取り入れたりしている。このあたりはワン・チュエンアン監督の「再会の食卓」(09)と比較しても弱い感じがするのは10年間の差が物語っているのかもしれない。
イシを演じたテンジン・ドカーは穏やかな老後を迎えながら波乱万丈な人生を思い出させる戸惑いとワクワク感の複雑な心情を演じていた。
夫の青年時代リンチェン・トゥンドュブが溌剌としていて、いかにもチベットのならず者らしい演技で目を引いた。


『運動靴と赤い金魚』 90点

2011-06-28 10:52:51 | (欧州・アジア他)1980~99 

運動靴と赤い金魚

1997年/イラン

清々しさと深い余韻が残った

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 90

ストーリー ★★★★☆90点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

イランの気鋭マジッド・マジディ監督・脚本による97年の作。妹の修理靴を持ち帰る途中立ち寄った八百屋で無くしてしまった兄が、親には内緒で何とか取り戻そうと奮闘するストーリー。
モントリオール国際映画祭のグランプリ受賞作で99米アカデミー外国映画賞候補となった。ちなみに同候補はオスカー受賞の「ライフ・イズ・ビューティフル」(イタリア)と「セントラル・ステーション」(ブラジル)。何れも強力なライバルで子供が主役もしくはテーマとなっている。
イランは周知の通り宗教・政治・性の表現には厳しい規制があり表現の自由がないため、子供向けの作品として仕立てるという独自の知恵と工夫を凝らした作品が多い。第1人者のキアロスタミの「友達のいえはどこ」が代表作だ。
マジディ監督は貧富の差を巧みに取り入れながら庶民の家族のひたむきに生きる姿を等身大で映し出してくれた。兄妹の家は家賃を滞納、惣菜もつけにしてもらうほど苦しい生活ながら決してヒトのモノを盗んだり、騙したりすることはない。父はモスクで使う大量の砂糖を砕きながら自分の紅茶にはアメを使って我慢する。隣人の老夫婦にはスープを分けてやり、口やかましいが腰を痛めた母を気遣うなど優しい男である。そんな父に靴をなくしたことが分かったらどうなるのか?叱られる恐怖感と家が貧しいのに心配をかけるという子供ならではの複雑な機微を感じ内緒にしようとする。親にはいえず、何とか自分で解決しようとして大変な想いをする経験を巧みに取り入れドラマは進む。
無駄がなくしっかりと伏線を施しながらハイライトのマラソン大会のクライマックスへと進む。3等賞品が運動靴なので3等狙いなのだ。あざといほどのマラソンシーンで観客を夢中にさせ、皮肉な現実に引き戻す手法と清々しい余韻の残るエンディングは秀逸だ。
兄妹と父親は素人でオーディションで監督が人選したという。兄のアリは小学校で叱られ泣いていた少年を見出し、妹は可愛らしいルックスで決まったが引っ込み思案でなかなかOKがもらえなかったとか。画面では健気で子供らしい純真さで溢れていて本当の兄妹のよう。父親役にはトルコ人を捜したがなかなか見つからず苦労したらしい。やる気があるが甲斐性がない旧世代の典型で、庭師の副業に懸命に勤しむ姿が涙ぐましく、この作品をしっかりと支えている。
自分の子供時代とダブるせいかトキドキ思いだして見たくなる作品だ。


『トーマス・クラウン・アフェアー』 70点

2011-06-27 12:21:22 | (米国) 1980~99 

トーマス・クラウン・アフェアー

1999年/アメリカ

「リメイクに良作なし」を打破できず

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★☆☆70点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆80点

5代目ジェムス・ボンドのピアース・ブロスナンが製作にも加わり、S・マックイーン主演の「華麗なる賭け」(原題はリメイク作と同じ)のリメイクに挑んだ。ワイルドでスーツ姿よりジーンズがぴったりなイメージのマックイーンよりお洒落な大都会の大富豪にぴったりな甘い2枚目ブロスナン。この役ははまり役だったと思うが、危険な香りがしないのが致命的。残念ながら「リメイクに良作なし」を打破できなかった。
オリジナルが銀行強盗だったのに対し名画泥棒に変えスマートさを狙ったのは悪くない。相手役でジェーン・フォンダが演じた保険調査員をレネ・ルッソも頑張っている。なのに2人のラブ・サスペンスの緊張感がなく、後半の盛り上がりが削がれてしまった。レスリー・ディクソン、カート・ウィマーという達者な脚本が上手く噛み合わなかった。
投資会社の若きオーナーでヨットやグライダーの休日を過ごし、英国調のインテリアに囲まれチュブリアーニで食事する主人公。007なら観客がその気でいるので高揚感を持つスチエーションだが、時代が相応しくないと思わせてしまいそう。
ミッッシェル・ルグランのフレンチ・JAZZでお洒落な雰囲気を盛り上げた前作。本作のビル・コンティの音楽も負けてはいない。オスカーを獲った「風のささやき」も懐かしく効果的に流れていた。懐かしいといえば、J・フォンダが精神科医で特別出演していたが、本人は喜んでいたのだろうか?
ネタバレにならない範囲で書くが、ラスト・シーンは類似のシークエンスがあったので驚きにならなかったのも残念!


『バンク・ジョブ』 80点

2011-06-26 15:34:56 | (欧州・アジア他) 2000~09

バンク・ジョブ

2008年/イギリス

70年代イギリスの雰囲気を堪能

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

’71イースト・ロンドンで起きた銀行の金品強奪事件をもとにしたドラマで、9割が事実という触れ込みだが、ディック・クレメントとイアン・ラ・フネの大胆な脚色があっただろうと思わせるほどドラマチック。
地下金庫には大金・宝飾品のほかに王室がらみのスキャンダラスな写真が隠されていた。イギリス諜報部(MI-5)は取り戻すために麻薬所持で空港で逮捕されたモデル・マルティーヌを使い、中古車ディーラーのテリーを筆頭とする7人の小悪党集団に写真を盗ませようと仕掛ける。
地金庫には表に出せない金や資料が多く警察以外に政府高官、犯罪組織、悪徳刑事などが犯人探しに躍起となりテリー達は命の危険にさらされる。
監督は「リクルート」「世界最速のインディアン」のロジャー・ドナルドソン。70年代イギリスの雰囲気を再現してくれて、こんなことがあったのかと想わせる上質なエンターテインメント・ドラマを堪能することができた。何しろ大事件にもかかわらず真相は英国政府からD通告(国防機密報道禁止令)により2054まで明らかにされないのだから。
主演は「トランス・ポーター」で強靭な肉体と派手なアクションでお馴染みのジェイソン・ステイサム。本作では経営難の中古車ディラーのオーナー役で、7年振りに再会したマルティーヌ(サフロン・バロウズ)に誘われ妻子のために乗った一世一代の大仕事。小悪党ながら冷静沈着なリーダー・シップを発揮して、独特の風貌がリアルさを増していた。仲間は写真家・大部屋俳優・元軍人の詐欺師・掘削のプロそして従業員とさまざま。このあたりはフィクションだろうが、隣の空き店を借りて掘削する手法といい前半の緊張感を盛り上げるには充分な顔ぶれとなっている。犯罪組織のポルノ王に「名探偵ポアロ」で名高いデヴィット・スーシエが扮していたり、銀行の貸金庫係の端役にミック・ジャガーが主演していたり、自称革命家で麻薬ディーラーのマイケルXのパーティにジョン・レノン、ヨーコ夫妻らしきそっくりさんが映っていたり遊び心も豊富だ。こんなスキャンダラスなストーリーの映画化を認めた(無視した)英国と英国王室はつくづく大人の国だな!と感心させられた。


『ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(バプリック・エネミー)No.1と呼ばれた男...』 75点

2011-06-25 11:55:37 | (欧州・アジア他) 2000~09

ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(バプリック・エネミー)No.1と呼ばれた男 Part2 ルージュ編

2008年/フランス

銀行強盗が革命家を目指す哀れを演じ切ったV・カッセル

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

PART1が60年代中心であったのに対し、PRT2はフランスに戻ってからの70年代。銀行強盗と脱獄を重ねメディアにも登場、英雄気取りのジャック・メスリーヌ。警察はブルサール警視(オリヴィエ・グルメ)をリーダーに彼の逮捕に躍起となる。ジャックと警視の初対決があるが、情婦を逃がし偽パスポートを焼却する猶予を与えた警視とシャンパンで乾杯するシーンは如何にもフランスらしいユニークさ。
新しい仲間との出会いと別れを繰り返し、そのたびに自己顕示欲が膨らみ反政府活動家チャーリー・ボーエル(ジェラール・ランヴァン)との出会いで革命家かぶれとなってゆく。父との別れに涙し、娘の成長に父としての喜びを感じる家庭人としての愛着も覗えアンバランスな魅力を兼ね備えている。致命的だったのは記者ジャック・ダリエに瀕死の重傷を負わせマスコミを敵に廻したこと。マスコミで大衆のヒーローとなり最後は社会の敵NO1と呼ばれるようになってゆく。
V・カッセルはアナーキーでありながら陽気なジャックの晩年を20キロも増量・髭とカツラで変装し、独特の存在感を魅せている。PART1でのジェラール・ド・パルデューのような大物はいないが、反政府活動家J・ランヴァン、ブルサール警視・オリヴィエ・グルメや脱獄王ベスを演じたマチュー・アルマリックなど地味ながら個性派で脇を固めV・カッセルの引き立て役に徹している。女優ではPRT1に引き続きセルシド・フランスと最後の情婦シルビアに扮したリュディヴィーヌ・サニエが登場する。サニエは「スイミング・プール」「ピーター・パン」より少し大人になり、愛人より愛犬の死を心配する女の不思議な心情を披露している。
銀行強盗32回、脱獄4回を繰り返し庶民の英雄となったジャック。革命家かぶれで哀れな最後を迎えようとしているが、それを予期するように獄中で自伝出版したのが彼のケジメの付け方だったのだろう。


『ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(バプリック・エネミー)No.1と呼ばれた男...』 75点

2011-06-24 16:48:01 | (欧州・アジア他) 2000~09

ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(バプリック・エネミー)No.1と呼ばれた男 Part1 ノワール編

2008年/フランス

ネタバレ

戦争で殺人を犯した男の刹那的な軌跡

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

長い題名はのちに封切りのジョニー・デップ主演の米映画「パブリック・エネミーズ」と混同されるのを避けたせいか。60~70年代実在した凶悪犯ジャック・メスリーヌの自叙伝をもとにジャン=フランソワ・リシェ監督で映画化された前篇。自伝は美化され過ぎていたため、大幅に脚色されてはいるが、足取りは事実をもとにしているためエピソードを積み重ねた構成。アルジェリア戦争で初めて殺人を犯した男の刹那的な軌跡が窺える。
観客は恰幅の好い髭の中年男が射殺されるシークエンスで始まり、この男がジャックだと知らされる。
除隊したジャックが父親の探した地道な仕事には馴染めず、幼ななじみの悪友と窃盗や銀行強盗を重ね、益々悪の道に進んでゆく様がテンポよく描かれて退屈はしない。
結婚して子供も生まれ、いちどは堅気の仕事に就くが運悪くリストラされる。家族を愛しながら地道な生活は長く続かずまた元の道へ。
女好きで博打で大金を湯水のごとく使いながら居場所がなくなってゆく男が、女には優しく仲間への信頼が厚いため妙な魅力がある。
ヴァンサン・カッセルが本人に乗り移ったような演技を見せて大奮闘。ボスのギドには貫録たっぷりなジェラール・ド・パルデューが扮し裏社会の掟の凄みを効かせていて流石の存在感。ウマが合うパートナー・ジャンヌ(セシル・ド・フランス)が登場してモントリオール、アリゾナと悪事の旅へ。自己顕示欲の高いジャックは金持ちから金を奪って何が悪いとメディアに伝えることで一躍有名人となってゆく。
待っていたのはUSC(特別懲罰刑務所)で拷問に遭うが耐え抜いて脱獄するというヒーロー振り。USCへ襲撃するという破天荒なことまでする。ある意味で絶頂期の人生を迎えた半生で前篇を終える。ここまで観るとどうしても後篇が見たくなる。


『脱出(1972・アメリカ)』 80点

2011-06-23 12:57:42 | 外国映画 1960~79

脱出(1972・アメリカ)

1972年/アメリカ

想定外の事態で狼狽する姿に緊迫感

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

原作者ジェームズ・ディッキーが脚色、アメリカン・ニューシネマの異才ジョン・ブアマンが監督したサスペンス。ジョージア州北部のカフラワシー川がダム建設で人工湖になる前に、川下りをカヌーでしようとした4人が事件に遭遇。4人の男がどう対処しようとしたかがとても興味深く観客を巻き込んだ緊迫感が最後まで続く。
日頃のストレスを解放するため、自然に触れたいと想う都会人が美しい雄大な風景とはウラハラの厳しい環境に遭遇した戸惑いは、いま日本人なら誰でも思い当たる状況。この公開時期はベトナム戦争の最中でアメリカ人の厭世感が蔓延していたころ。地味ながらこの作品は共感を呼んで、ヒット作となり、AFIが選んだスリラー映画ベスト100のうち15位にランクされている。
4人の男はエド(ジョン・ボイト)、ルイス(バート・レイノルズ)とボビー(ネット・ビーティ)、ドリュー(ロニー・コックス)の個性派揃い。なぜこの4人が無謀な計画を行ったかは定かではないが、それぞれの生活に行き詰って孤立感を一掃したかったのだろう。初日は現地に住むスコッチ・アイリッシュの人との交流もあり自然を謳歌。劇中のブルーグラスの名曲「デュエリング・バンジョー」は異様な雰囲気から心を慰めてくれる。
2日目から様子が一変、まるで戦場にいるような理由もなく殺すか殺されるかという緊迫感。
のちに似たような作品で「激流」があったが、それを上回る想定外さ加減が川の流れの恐ろしさを倍加させる。
序盤リーダー役だったルイスがケガをした途端影が薄くなり、どっちつかずのアヤフヤ男のエドが火事場の馬鹿力を出すところは人間の不思議さが見えて面白い。原作者のJ・ディッキーが保安官役で<川が真実を語る>という含蓄のある台詞をキメテ自然には勝てない人間の弱さをさりげなく語っているのが印象的。


『光のほうへ』 85点

2011-06-18 15:50:54 |  (欧州・アジア他) 2010~15

光のほうへ

2010年/デンマーク

悲惨な暮らしに微かな救いがあった

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「光のほうへ」は邦題で原題「SABMARINO」は<水中に頭を突っ込まれる拷問>を意味するらしい。まさに拷問を受けるような、悲惨な生活を送っていた兄弟がそれぞれの人生を必死にもがく生きザマを描いている。ヨナス・T・べグトソンの原作をデンマークのトマス・ヴィンターベア監督が映画化。福祉先進国家デンマークの影の部分をドラマチックに切り取ったヒューマンドラマだ。
兄弟の少年時代、兄の今の暮らし、弟の今の暮らし、再会そしてエンディングの4部構成は極めてシンプル。これでもかというほど続く兄弟の極悪な環境。兄・ニックは恋人アナと別れたことがキッカケで暴力沙汰で刑務所から出所して3カ月。臨時簡易宿泊所暮らしで酒とスポーツジム通い以外は当てのない生活。離れて暮らす弟に電話するが子供の声がトラウマとなって切ってしまう。その弟は息子マーティンと2人暮らし。クスリ漬けの毎日は子供をまともに育てることも覚束ない。
こんな2人が久々再会したのは母親の葬儀で2回目が刑務所というのはこのドラマを象徴的に描いている。こんな2人に救いとなったのは弟の子供マーティン。救いようのない展開なのに周りの人々は優しく、最後はまさに一条の光が射してくる。
監督はデンマーク映画運動「ドグマ95」の創始者のひとり。この作品でも撮影は全てロケーション、照明は使わない、カメラは手持ちという精神は生きていて、他の映画とは一線を画している。米アカデミー外国語映画賞受賞のスサンネ・ビアといい「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラース・フォン・トリアといいデンマーク映画からは目が離せない。
兄・ニックのヤコブ・セーダーグレンが何もかも諦めながらも品のある優しい眼差しが印象的。弟のペーター・プラウボーはナイーヴな風貌そのままで息子を溺愛しながら育てることができない不安定な父を好演している。助演というより、出番も多く2人主役という感じ。息子マーティンを演じたグスタフ・フィッシャー・ケアウルフが愛くるしく観客の父(母)性本能を満たしてくれそう。


『雨に唄えば』 75点

2011-06-15 16:51:26 | 外国映画 1946~59




雨に唄えば


1952年/アメリカ






D・オコナーのボードヴィルが最高!





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
75



ストーリー

★★★☆☆
70点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
75点




ビジュアル

★★★★☆
75点




音楽

★★★★☆
80点





アーサー・フリードが「巴里のアメリカ人」製作中に’20~30年代のヒット曲を使ったミュージカルを思いつき、翌年ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネンに監督を委託して製作した。
もっとも有名なG・ケリーが独りで唄い踊る雨のシーンは映画史に残る名場面。「ザッツ・エンターテインメント」で一躍名声を得て、以来他の映画でも良く引用されている。その前のシーン、G・ケリー、ドナルド・オコナー、デビー・レイノルズの3人による「グッド・モーニング」もテンポも良く、これぞミュージカル映画という気分。
なかでもD・オコナーのボードヴィリアン振りは素晴らしく、ソロのシーンも含め完全にG・ケリーを喰ってしまった。ほかではシド・チャリシーのセクシーなダンス・パートナー振りと、マリリン・モンローを想わせる悪声?というより奇声を発揮した無声映画のヒロイン、ジーン・ヘイゲンの頑張りが目立っていた。D・レイノルズもダンスができなかったとは思えないほど見事な踊りを見せてくれたが、如何せん華がない。
ハリウッドがトーキーに移る内輪話をもとにしたシナリオがもう少し出来が良ければ、<MGM映画の集大成>作品として評価されたと思う。