運動靴と赤い金魚
1997年/イラン
清々しさと深い余韻が残った
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shinakamさん
男性
総合
90点
ストーリー
90点
キャスト
90点
演出
90点
ビジュアル
85点
音楽
85点
イランの気鋭マジッド・マジディ監督・脚本による97年の作。妹の修理靴を持ち帰る途中立ち寄った八百屋で無くしてしまった兄が、親には内緒で何とか取り戻そうと奮闘するストーリー。
モントリオール国際映画祭のグランプリ受賞作で99米アカデミー外国映画賞候補となった。ちなみに同候補はオスカー受賞の「ライフ・イズ・ビューティフル」(イタリア)と「セントラル・ステーション」(ブラジル)。何れも強力なライバルで子供が主役もしくはテーマとなっている。
イランは周知の通り宗教・政治・性の表現には厳しい規制があり表現の自由がないため、子供向けの作品として仕立てるという独自の知恵と工夫を凝らした作品が多い。第1人者のキアロスタミの「友達のいえはどこ」が代表作だ。
マジディ監督は貧富の差を巧みに取り入れながら庶民の家族のひたむきに生きる姿を等身大で映し出してくれた。兄妹の家は家賃を滞納、惣菜もつけにしてもらうほど苦しい生活ながら決してヒトのモノを盗んだり、騙したりすることはない。父はモスクで使う大量の砂糖を砕きながら自分の紅茶にはアメを使って我慢する。隣人の老夫婦にはスープを分けてやり、口やかましいが腰を痛めた母を気遣うなど優しい男である。そんな父に靴をなくしたことが分かったらどうなるのか?叱られる恐怖感と家が貧しいのに心配をかけるという子供ならではの複雑な機微を感じ内緒にしようとする。親にはいえず、何とか自分で解決しようとして大変な想いをする経験を巧みに取り入れドラマは進む。
無駄がなくしっかりと伏線を施しながらハイライトのマラソン大会のクライマックスへと進む。3等賞品が運動靴なので3等狙いなのだ。あざといほどのマラソンシーンで観客を夢中にさせ、皮肉な現実に引き戻す手法と清々しい余韻の残るエンディングは秀逸だ。
兄妹と父親は素人でオーディションで監督が人選したという。兄のアリは小学校で叱られ泣いていた少年を見出し、妹は可愛らしいルックスで決まったが引っ込み思案でなかなかOKがもらえなかったとか。画面では健気で子供らしい純真さで溢れていて本当の兄妹のよう。父親役にはトルコ人を捜したがなかなか見つからず苦労したらしい。やる気があるが甲斐性がない旧世代の典型で、庭師の副業に懸命に勤しむ姿が涙ぐましく、この作品をしっかりと支えている。
自分の子供時代とダブるせいかトキドキ思いだして見たくなる作品だ。
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