蛍の航跡
軍医たちの黙示録
帚木蓬生(著)2011年11月発行
『蠅の帝国』に続く「軍医たちの黙示録」としての第二巻。
前作は、日本国内、満州、東南アジア圏、樺太という任地での軍医たちの記録でしたが、
二巻目となる本作は、主に南太平洋、東南アジア圏が中心となっています。
果てしなく広い中国大陸の地図を眺めただけでもうんざりするのに、
赤道から更に南に位置する東部ニューギニアやあの有名なガダルカナル島もある
ソロモン諸島周辺、トラック島のあるカロリン諸島、フィリピンの島々、
スマトラ、ジャワ島まで、、、
資源のないちっぽけな国が、いかなる勝算がありどんな戦略戦術計画をもって
こんなにも広大な範囲まで侵略していけるのか・・・疑問、不思議、謎です。
大東亜共栄圏の名の下に侵略された住民の被害は勿論ですが、
無謀なる戦略の駒、戦闘員として派兵された日本兵、軍医たちの運命も悲惨でした。
武器はなく食料も薬の支援もなく、熱帯の島に取り残され、マラリアや赤痢に苛まれ
圧倒的有利な敵の攻撃に晒され逃げ惑う日本兵の姿は、、、もう何と言っていいのか、
言葉がありません。
読み終えて、個人的に、この二冊は、
よりリアルに戦争というものを知るための教科書としてもいいのではないか、
と思いました。
他にも、大岡昇平の「俘虜記」や戦記ものなど先の戦争を描いた数冊が思い浮かびますが、
教科書にはどうか、と迷います。
その点、この二作は、
戦場や現地の様子を直接その場に居て体験しそれを語った軍医たちの声を聴き取り、
それらを冷静に描いているという点で、まさに大東亜戦争の記録といえます。
単に戦争を批判する、ということではなく、まずこの戦争の実態を知ることが大切で、
正しい情報を知ることにより、はじめて思考が可能になるのですから。
中学生に無理なら、せめて高校生の副読本として推薦したいものです。
今回も著者の「あとがき」から一部抜粋してみます。
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日本軍の将兵は、風呂敷のように拡げられた身不相応の判図に、点々とばらまかれた。
そして将兵の赴く所、必ず軍医もいた。地を這う軍隊、海に浮かぶ艦隊と潜水艦を
持ち場として、軍医たちもまた、死力を尽くして戦わなければならなかった。
戦う相手は、戦傷というよりも、病魔と飢餓だった。医療器具も医薬品も、そして
食い物もない。ないない尽くしのなかで、軍医たちは、武器弾薬の尽きた将兵同様、
音を上げることができなかったのだ。
軍医たちの眼には、戦争の大局は見えない。見えるのは、傷つき、病に倒れ、飢え死に
していく将兵、あるいは住民たちの姿だった。
戦争の実相とは、つまるところ、傷つきながら地を這う将兵と逃げまどう住民、そして
累々と横たわる屍ではないのだろうか。軍医はその前で立ちすくみ、医療に死力をふり
しぼりながら、ついには将兵や住民と運命をともにしたのだ。
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わがまま母