角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

“会心の作”とは…。

2007年11月19日 | 実演日記

<生地詳細・素材感>

今日の草履は、一般綿生地シリーズMサイズ23cm土踏まず付き〔4000円〕
辛子色の絣風をベースに、緒は赤茶基調のひらがなプリントです。まず普通はこの逆配色が一般なんですが、最近この手にハマってます。おそらく近々また元に戻るでしょう。

11月10日のブログにご登場の北村画伯に、『こりゃあ売り物にできないなぁ…、なんてものが出来たりしないの?』と訊かれたことがありました。まさに「ものづくり」に携わっている人の質問ですね。「ものづくり」ばかりでなく、たとえば楽器の奏者にもそういうことってあるんじゃないですかね、『うわぁ~、今日の演奏は人に聴かせられるものじゃなかったよぉ』みたいな。

北村画伯はどうかと言うと、『ボクはあるんだよねぇ、どうしても気乗りしないで終わった作品。見た人はどこがダメなの?って言うけど、そういうのは売り物にしないね』。
プロとしてのプライドがそうさせるんでしょうね。

草履の「失敗作」というのは、実はないんです。これは私の草履が「美術品」とは違う、およそ庶民的なモノだからと思うのですが、その日そのときの精一杯を出し切っている証しとは言えるんですね。ただ、「そのときの精一杯」は年々変化するんです。たとえば二年前の草履を今見てみると、仮にそれが「今日」作ったものであれば間違いなく「失敗作」ですね。二年前に草履をお買い上げくださった方々にはホントに失礼な話なんですが、これも年々「腕を上げている」ということでご理解いただけるとありがたいです。

失敗作はありませんが、ときに“会心の一作”と出会うことがあります。これはとても微妙な話で、北村画伯の画と同様に、見た人はきっと『どこが違うの?』って言うでしょうね。
配色じゃないんです、草履のかたち、それもかなり細かい点です。「つま先の丸みと踵の丸みがコンパスで描くように整い、側は一直線に編まれ、さらにイ草で綯った芯がきれいに隠れている状態」、あえて言葉にするとこんな感じでしょうか。

これが出来るときの条件はかなり厳しいですね。布地の厚み、イ草の乾燥状態、そのときの湿度、そして手に疲労感がないとき。おそらくまだほかにも微妙な条件があるように思います。
“会心の一作”というのは、日常の中に生まれる稀な現象、まさに「偶然の産物」と言えるでしょうね。

これからご注文予定のみなさま、『会心の一作をください』というのはどうかご容赦ください。
お母さんたちも、『今朝は会心の目玉焼きを作ってよ』と言われても困るでしょ

コメント
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