角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

ときには“静”も…。

2007年11月01日 | 実演日記

<生地詳細・素材感>

今日の草履は、10月20日、千葉県四街道市からお越しくださったお母さんのオーダー草履です。
当地がご実家で現在千葉県にお住まいのお母さん、ずいぶん前にお立ち寄りになり、『家族の配色希望を聞いてからまた来るわね~』とおっしゃっていました。今月20日に再度お越しになり、ご家族分のオーダーです。
「青系でお任せ」がこちら、ほかの「赤系でお任せ」と「緑系でお任せ」の合わせて3足、本日の便で出発しました。

山形県尾花沢市からお越しのお年寄りグループ、おじいちゃんとおばあちゃん合わせて10数名でしょうか。実演を見つけるなり、『おやおやおや~、なんと懐かしいごどしてらぁ~』、一斉に取り囲まれました。それぞれに昔のワラ草履時代を語り出し、おそらくですが他の人の話は耳に入ってないと思いますね。私への質問も、答えが終わらないうちにまた別の質問に入ります。
結局どのくらい理解してくれたのか分かりませんが、まぁ賑やかなのは実演席の常、お年寄りが元気なのもイイことでしょう。

ときどき、少し距離を置いて実演に見入る方がいます。『良かったら腰をかけてどーぞ!』と実演ベンチに招き、ほとんどの方は笑顔でお座りになります。
どちらからお越しの方か分かりませんが、今日もひとり遠巻きに見入るおばさまがいました。物静かな上品さを感じさせるおばさまに、いつものように実演ベンチに招きましたが、ニコっと微笑むだけでそこから動きません。中には時間のない方やお手洗いを待っている方もいますから、そのまま実演に没頭しました。

草履を編みながらでも、周囲の状況はだいたい分かるものです。こちらのおばさまがそのままずーっと観ているのも分かりました。とうとう片方を編み上げ、こちらのおばさまに『出来立ての草履、触ってみません?』とお声を掛けると、今度は満面の笑顔で近寄ってくれました。草履を触りながら、『時間を忘れて見入ってましたぁ、素晴らしいですねっ!』。

賑やかにおしゃべりしながら見学される方が多い中で、今日のおばさまは静粛に実演を観てくださいました。「観る」と「見る」の違いとでも言いますか、こういうのもときにはイイもんです。

先日行われた三女の学習発表会、6年生の子どもたちに先生が「振り返りカード」なるものを記入させていました。今年の発表会で頑張ったこと、残念だったこと、得たこと、感じたことなどを書くんですね。
昨日学校から渡されたおたよりの一部に、ある児童の「感じたこと」が抜粋で紹介されています。

『今年はみなさんが静かに見てくれたので、頑張って良かったです』

小学校の学習発表会を観るのは今年で九回目ですが、いつも感じていたのはギャラリーの騒音でした。小さな子どもが走り回る、ケータイの着信音が鳴る、そしてお母さんたちの私語ですね。
今年はこれらがすっかり鳴りを潜め、実に気分良く子どもたちのステージを観られたんです。おそらくそう感じた人がほかにもいると思いますが、一番感じていたのは子どもたち自身だったのかも知れませんね。

静かにひとりじっと実演を観てくださったおばさまへ、草履職人から一言。『頑張って良かったです!』。

コメント
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