角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

芸術家って変わり者!?

2007年11月10日 | 実演日記

<生地詳細・素材感>

今日の草履は、一般綿生地シリーズMサイズ23cm土踏まず付き〔4000円〕
深緑基調の麒麟プリントをベースに、緒は辛子色の絣風です。どちらも落ち着いた色の組み合わせですから、中高年の女性にいかがでしょう。

「職人は偏屈」「芸術家は変わり者」、どこかにこんな先入観ってないでしょうか。
西宮家米蔵では、手に技を持った人たちの展示会が定期的に開かれます。そうしたほとんどの人が私の実演ベンチに腰を掛け、いろんな話をして行かれます。
そんな人たちのイメージでまず共通するのは、作品の美しさや厳かさと裏腹に、普段は実に「飄々」としてますね。案外子どもみたいな話題も多いですし、仕事さえきちんとやれば、あとの細かいことは気にしないといった印象でしょうか。そしてなにより、「自分の世界」を持ってますね。

今ちょうど、北村公正画伯の日本画作品展が開かれています。北村さんは角館のおとなり旧中仙町にご実家があり、角館高校を卒業された地元人なんですね。現在は、埼玉県飯能市にあるご自宅のアトリエで製作活動をされています。

お客様が切れるとすぐ下に降りてきて、私の実演コーナーでブラブラしています。常に禁煙パイポをくわえたままで、そのいでたちはまさに「飄々」ですね。おそらくキャンパスに向かうときの顔は、別人になるんじゃないかと思います。

北村さんは夕方閉店近くになると、毎日手頃なダンボール箱を見つけて車に積み込みます。いったいナニに使うのかと言うと、渋抜きする渋柿を入れるんですね。ご実家にある渋柿を何十キロと集め、渋を抜いた柿を埼玉県の自宅の隣近所に配るんだそうですよ。
『まぁ、変わり者みたく思われてるからねぇ、こういうことをすると喜んでもらえるわけよ』と、屈託なく笑っていました。

美しくも厳かな日本画を描く画伯が、実生活では一生懸命渋柿の渋を抜く、まさに「自分の世界」じゃないですかね。

昨晩北蔵レストランで、ジャズコンサートがありました。私はこうした音楽系に疎く、このたびは出席しませんでしたが、夕方頃演奏者のみなさんが準備に追われているのは横目に見ていました。
するとひとりの男性が米蔵に入って見え、私の草履を見つけると、『あらららぁ、面白いものを作ってるんですねぇ』と実に関心高くご覧です。いでたちはいかにも音楽家、しゃべり口調は古畑任三郎に似ています。

『んんん~、これは奥さんに買って行かないと…』と言いながら一生懸命物色していましたが、『んんん~、やっぱりボクの趣味ではだめだぁ、そうだっ、○○さんを呼んで来よう』。○○さんというのはどうやらスタッフの女性のようでしたが、ここまでの男性の言葉に、私が入り込む余地はありませんでした。なぜなら、男性は展示してある草履に向かって独り言を言ってたんです。

呼ばれて入って来た女性が一足を選び、今度はご自分用を選ぼうとしたとたん、別の男性スタッフが慌てて入って見え、『ナニしてるんですかっ、ピアノの位置とかまだ決まってないんですからねっ』と少々お怒りのご様子。しかし男性はどこ吹く風、『んっ、ピアノ!?そんなことは君たちに任せるよっ、ボクは今珍しい草履を見てるんだからねぇ』。このときもスタッフの顔は見ていません、目はまっすぐ草履に向かっていました。しかし間もなく、スタッフ全員に連れ戻されましたね。

こちらの音楽家さんは、ニューヨークを拠点に音楽活動をされている三上クニ氏、業界では“幻のピアニスト”と呼ばれているそうです。
画家さんも音楽家さんも、やはり「自分の世界」をお持ちでした。「変わり者」や「偏屈」とは、また違った人物像ですね。

コメント
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