けっこう根に持つタイプなのだと思う。私は。
幼稚園の時、すみれ組で爪検査があった。継続的ではなく、恐らくスポット的に。
白い部分が見えたらアウト。
不合格者は担任のツネカワ先生に、手の甲に大きな×を付けられた。
アウシュビッツの選別よろしく、それは冷淡に行われた。
当時、私の身の回りを面倒見ていた母はちょうど身重であった。
娘の爪にまで神経が回らなかったのだろう、私はツネカワ先生によって手の甲に×を刻印されたのである。
人生最初の烙印。
帰り、親を待つため園児たちはテラスに座る。
その時、ツネカワ先生は声高に言ったのである。
「×を付けられた人はポケットに手を隠しなさい。恥ずかしいことなんだよ」と。
涙が目尻に滲みそうで、ぐっと堪えた。
30年経過してもあの時の強烈な屈辱は忘れることができない。
いや30年という月日が怒りを余計に増幅させている。許せない。
…私だけではなく、私の母までもがバカにされたという気がしたから。
迎えに来た母に抱きつき、烈火のごとく泣いたのも覚えている。あの時の母の藤色のマタニティドレスの手触りもこの掌にまだ残っている。
今でもマニキュアを塗る度に、あの日のことを思い出す。
あれから爪を短くすることに抵抗を覚えてしまい、中学時代はこそこそと伸ばしていた。
母に「あらやだ、亮ちゃん。爪、長いよ。お水の人みたいだよ。やだー」と指摘されると「ツネヲ先生は良いと言っていたよ?」と、しれっと嘘を吐いた。
高校時代はカワチで安いマニキュアを購入(セザンヌ…たしか290円)して塗っていた。色はまだナチュラルな桜色。
服装や髪型や生活態度はかなり地味であるのに、爪だけは「校則?なにそれうまいの?」状態であった。アンバランス極まりない。
大学時代はラメを施し、色もワイン色とかを施して悦に入っていた。以降、マニキュアを欠かしたことはないし、いつも長い。
ある程度長くないとマニキュア栄えがしないし、落ち着かない。
折れないように気を張ることで指先の動作が緩慢になり、エレガントじゃね?と自己分析している。
どことなく、中国の纏足に似ていなくもない発想。
会社のマニュアルには長さ云々についての規定があるが、実際はあるようでない感じである。大体みんな2週間に1度はネサロに通っている。ネサロに行った翌朝などは女子同士で報告会。
「秋色にしちゃいました。てへっ」
「わ~、カワユス」
みたいな。
私は自爪が頑丈だし、単色が好きなので最近は専ら自分で塗り替える。
そして、ツネカワ先生のことを思い出すのである。
彼女だってもう50歳ぐらいだろう。暗かった私のことなんか覚えていないはずだ。
でも、私はマニキュアが乾くまでの数分間、彼女を思い出す。
じっとりと。
けっこう根に持つタイプなのだと思う。私は。

幼稚園の時、すみれ組で爪検査があった。継続的ではなく、恐らくスポット的に。
白い部分が見えたらアウト。
不合格者は担任のツネカワ先生に、手の甲に大きな×を付けられた。
アウシュビッツの選別よろしく、それは冷淡に行われた。
当時、私の身の回りを面倒見ていた母はちょうど身重であった。
娘の爪にまで神経が回らなかったのだろう、私はツネカワ先生によって手の甲に×を刻印されたのである。
人生最初の烙印。
帰り、親を待つため園児たちはテラスに座る。
その時、ツネカワ先生は声高に言ったのである。
「×を付けられた人はポケットに手を隠しなさい。恥ずかしいことなんだよ」と。
涙が目尻に滲みそうで、ぐっと堪えた。
30年経過してもあの時の強烈な屈辱は忘れることができない。
いや30年という月日が怒りを余計に増幅させている。許せない。
…私だけではなく、私の母までもがバカにされたという気がしたから。
迎えに来た母に抱きつき、烈火のごとく泣いたのも覚えている。あの時の母の藤色のマタニティドレスの手触りもこの掌にまだ残っている。
今でもマニキュアを塗る度に、あの日のことを思い出す。
あれから爪を短くすることに抵抗を覚えてしまい、中学時代はこそこそと伸ばしていた。
母に「あらやだ、亮ちゃん。爪、長いよ。お水の人みたいだよ。やだー」と指摘されると「ツネヲ先生は良いと言っていたよ?」と、しれっと嘘を吐いた。
高校時代はカワチで安いマニキュアを購入(セザンヌ…たしか290円)して塗っていた。色はまだナチュラルな桜色。
服装や髪型や生活態度はかなり地味であるのに、爪だけは「校則?なにそれうまいの?」状態であった。アンバランス極まりない。
大学時代はラメを施し、色もワイン色とかを施して悦に入っていた。以降、マニキュアを欠かしたことはないし、いつも長い。
ある程度長くないとマニキュア栄えがしないし、落ち着かない。
折れないように気を張ることで指先の動作が緩慢になり、エレガントじゃね?と自己分析している。
どことなく、中国の纏足に似ていなくもない発想。
会社のマニュアルには長さ云々についての規定があるが、実際はあるようでない感じである。大体みんな2週間に1度はネサロに通っている。ネサロに行った翌朝などは女子同士で報告会。
「秋色にしちゃいました。てへっ」
「わ~、カワユス」
みたいな。
私は自爪が頑丈だし、単色が好きなので最近は専ら自分で塗り替える。
そして、ツネカワ先生のことを思い出すのである。
彼女だってもう50歳ぐらいだろう。暗かった私のことなんか覚えていないはずだ。
でも、私はマニキュアが乾くまでの数分間、彼女を思い出す。
じっとりと。
けっこう根に持つタイプなのだと思う。私は。

