自分でもモチベーションの低迷を感じる、ここ数日。
そんな時、絶妙なタイミングで吉熊上司が私を「ひょいっ」と掬い上げてくれる。
「火垂るの墓」のワンシーンを思い出す。
空腹で駄々をこねる節子。
清太は節子に目をつむらせ、口を開けさせる。
節子の小さな口に「ぽいっ」とドロップを放り込む。
「わぁ~ドロップや~!ドロップ、ドロップ~」
ドロップの甘さに恍惚としながらスキップをする節子。
今日、やる気なし子の私の心に、吉熊上司はドロップを放り込んだ。
具体的な仕事内容なのでここには明記できないが、
吉熊上司が放り込んだそれは、ドロップ同様、甘美な味がする嬉しい言葉だった。
意図的なのか、たまたまそういうタイミングだったのか。
分からないが、本当に嬉しかった。
節子みたいにスキップしたくなった。
彼は私が褒められればノリノリになることを熟知しているに違いない。
でも、嬉しかった。
今の部署に来て一番最初に仕事の伊呂波を教えてくれたのは、吉熊上司だ。
雛は、初めて見る動くものを母親だと認知するらしい。
私もそうだ。
ピヨピヨ鳴きながら、親鳥である吉熊上司を追い掛けていた。
会社における私の親的存在は、紛れもなく吉熊上司だと断言できる。
秘書という職種は当社には存在しないのだが、彼の一日の予定だけは朝一番に頭に入れ、彼をサポートしているつもりである。
私みたいな下っ端にも機会を与えてくれ、任せてくれる。
当然、彼は常に応用力を求めてくるので厳しいんだが、私は彼を恨んだことはない。
私を育てることに一生懸命だったんだと、後になって思う。
まさに飴と鞭。
彼からもらった言葉の飴をしゃぶりながら、
「機会を与えて下さったのは吉熊上司なので、今回の件は吉熊上司のお陰ですよ。ありがとうございます。」
と、自然と口から出た。
にか~っと笑う吉熊上司。
化粧が濃い、濃くない、そんな些細なことで彼と派手な争いをしたのは、いつだったか。
「もう、吉熊上司とは、駄目なんかな。」
距離を置かれ、そう心で呟いた日もあった。
でも、あのピンチを私の自立のためのチャンスにできた。
これは入社以来、いや、生誕以来、最大級の私の自信だ。
清太と節子のような我々の絆は、思ったよりも強いのかもしれない。
同時に、今が踏ん張り時なのだと、会社帰りにコーヒーを啜りながら、思った。