晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ジョン・グリシャム 『謀略法廷』

2012-01-15 | 海外作家 カ
グリシャムの作品は大好きで、他にもスコット・トゥローやリチャード・
ノース・パタースンといった、現役の弁護士で作家の書くリーガルサスペ
ンスを読むたびに思うのが、アメリカの裁判制度の功罪といいますか、
「そんなの自分のミスだろ」ということでも企業を訴えて、それがまた
驚くことに企業側がそんな「屁理屈」に負けて巨額の賠償を支払わされ、
しかし、極端な例はさておき、訴訟というのは、市民の持つ当然の権利
でもあって、それを考えると、多少のセクハラは目をつぶるのが「社会」
「大人」ってもんじゃないのかね、なんていう日本の風土は、よその国
を笑ってなんかいられない、と考えさせられるのです。

『謀略法廷』は、ミシシッピ州(グリシャムのホームグラウンドですね)
の架空の郡、架空の街で起こった、工場の汚染で、市民対企業の裁判が
はじまり、市民の勝訴、企業側は巨額の損害賠償の支払いをせよ、という
判決が出たところからはじまります。

ボウモアという小さな街にできた、クレイン化学という会社の農薬工場は
長年にわたって、有害物質をきちんと処理せずに、裏山の穴に捨てていて、
それが地下水に侵食、土壌、水質汚染はひどくなり、やがて市民の中から
がん患者が大量に出ます。

主人と子どもを相次いで亡くした未亡人、ジャネットはウェスとメアリの
夫婦の弁護士を立ててクレイン化学を提訴、クレイン化学の親会社である
トルドー・グループは全米屈指の大金持ちで、この裁判は5年におよび、
ウェスとメアリは破産寸前、銀行から金を借りてまで裁判費用を工面し、
ようやく判決が下りたのですが、相手側は上訴するのは分かりきっていて、
4,100万ドルという損害賠償はジャネットにも弁護士夫婦の事務所に
も入ってきません。

ニューヨークの高級マンションに住むトルドーはこの知らせを受けて怒り
狂い、会社の株価も自分のセレブリティ価値も急降下、こうなれば何が
何でも最高裁で逆転判決を出さなければならず、トルドーはマイアミに
飛び、あるコンサルタントの男に仕事を依頼。

そのコンサルタントとは選挙の工作で、ミシシッピ州の最高裁判所の判事
は、任期を終えるか任期途中で欠員が出た(亡くなったり)場合に、選挙
で投票して判事が決まるのです。
最高裁での判決は、今までに企業側に不利な判決が出た場合、その票は
たいてい5対4(判事は9人)になるケースが多く、つまり保守的な判事
とリベラルな判事はほぼ半々、そこで、保守系の判事を当選させることが
狙いとなるのです。
そして、コンサルタントは巨額の選挙資金をバックに最高裁判事の選挙に、
ある男を立候補させるのですが・・・

ウェスとメアリは事務所に仕事が入ってきて、小額ですが銀行の借金を
返していきます。しかしそこにもトルドーの悪企みが入ってきて苦しめます。

ジャネット側が勝てば、勧善懲悪でめでたしめでたし、トルドー側が勝てば
こんなにつらい話はないですね。
しかしそこはさすがグリシャム、どちらの結末にしたのかは読んでのお楽しみ
ですが、久しぶりに震えが来るくらいの上質な構成です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする