晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

山本一力 『大川わたり』

2012-01-28 | 日本人作家 や
どうにも、昨今の人間のドス黒い部分をフィーチャーして「リアリティ」
と評価する流れが好きではなく、できれば本を読んでいるときぐらいは
気の滅入ることから逃れたいと思うのです。

となると、丁度いいのが、山本一力の時代小説。江戸の深川界隈を中心
に、市井の人々が主な登場人物で、彼らの息遣いまでもが聞こえてくる
ような描写で、たまに悪人は出てきますが、基本的には粋な下町っ子が
互助精神で、些細であれ大事であれ問題を解決していき、読み終わるこ
ろには、ホッコリした心持になります。

そういった意味では、宮本輝に通ずるものがありますね。

この『大川わたり』という作品は、出版された順番こそ後になりますが、
オール読物新人賞や直木賞の受賞作よりも前に書かれた作品で、といって
も、とある新人賞に応募して落選したもので、そこに手直しが加わって、
世に出されたということになったそうです。

漁師の家に生まれた銀次は、九歳で親をなくし、大工に預けられ、そこで
かなりの給金を貰うまでに腕を上げるのですが、立て続けに女にふられて、
さらに世話になった大工の棟梁も失って、気が付いたら博打にはまって、
あっという間に20両もの借金が。

銀次は、賭場を仕切っている親分の「達磨の猪之介」に借金の利息を帳消し
にしてほしいと直談判し、親分はあっさりと承諾。
これに怒ったのは、代貸(だいがし)という、猪之介の右腕、新三郎。代貸
とは、賭場で金が無くなりそうな客に貸し付けて、後で厳しい取立てをする
役割で、どうやら金を回収するだけではなく、客を追い詰めるのが純粋に
楽しいような、根っからの性悪。

銀次は、利息無しの20両だけをきっちり頭そろえて返すまで、大川(現在
の隅田川)を渡るな、という厳しいルールを課されます。
もし、渡ってそれが親分の手下に見つかったら、その場で殺す、と・・・

そこで銀次は、大工時代に普請に行ったことのある堀正之介という剣術の
道場の家に行くことに。そこで事のあらましを話すと、正之介は銀次に道場で
修行をさせます。
そこでの修行を終えた銀次は、正之介から、千代屋という呉服屋の手代に
なってみないか、と言われます。
それまでも道場から通いで大工仕事の手伝いで、そこそこの給金を貰うように
なってはいたのですが、千代屋の手代ともなると給金は高額に。
それと、千代屋の当主は正之介の弟子で、誰か先生の目にかなう、使える人材
を欲しがっていたことで、正之介は迷うことなく銀次を勧めたのでした。

そうして、呉服屋ではたらくことになった銀次ですが、ささいなことで手代の
先輩から恨みを買うことになり、それが新三郎の耳に入り、厄介ごとに巻き込
まれることに・・・

あとがきでも言及していましたが、ラストの展開は強引といいますか、何か
ひとつふたつ、作品中で解決していない問題も残っています。
が、それを差し引いたとしても、良い作品を読んだなあ、とホッコリ気分。

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