晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『葡萄と郷愁』

2012-01-20 | 日本人作家 ま
本を読むということは旅をするということだと強く感じるように
なったのは、宮本輝の作品を読むようになってからなのですが、
もちろん、旅というのは実際に行ってナンボ、百聞は一見に云々
ということは重々承知の上で、正確にいえば、旅を「感じる」と
いうことですかね。文章だけで旅とは如何にと聞かれても、そりゃ
面倒みきれません。

この『葡萄と郷愁』は、たびたび登場する東ヨーロッパが舞台に
なっていて、さらに、もうひとつの話が交差し同時進行していき
ます。

ハンガリーのブダペストに住むアーギは、偶然の出会いで、アメ
リカ人女性からアメリカに来ないかと誘われます。
他の東欧諸国よりは多少は産業もあって、統制も厳しくはない
ハンガリーですが、それでも西側諸国に対する憧れは若い世代に
強くあり、また、どこか退廃的な国にも嫌気が。

日本の大学生、沢木淳子は、年上でイギリスの大学院に留学している
外交官の卵からのプロポーズを承諾。しかし淳子には、同郷で上京し
てきた恋人がいたのです。

アーギは、何かに理由をつけて返事を遅らせますが、アメリカ人女性
は、最終的な返事を聞かせてちょうだいと時間を指定。しかし、そんな
日にかぎって、大学の友人が自殺したと聞いて・・・

一方淳子も、イギリスからの電話を待ちますが、それまでに恋人とケリ
をつけなければならず、会いに行きます。そこでいろいろあって、さらに
英会話学校の先生に相談したり、さらに帰路の途中で先輩に会い、おでん屋
に誘われていろいろ話をしているうちに、自分が打算的な結婚をすることに
どうしていいか分からなくなって・・・

同じ日の同じ時間に(時差はありますが)、日本とハンガリーに住む
女子大生が、これからかかってくる電話によって今後の人生が決まる、
いわば一大事を描いています。
別にスリリングではありません。が、ドキドキします。当人たちにとって
は一大事でも他人にとっては何の変哲もない日を、シーンとシーンを紡ぎ
合わせて「面白い話」にする筆の力は、今まで読んだ日本人作家のなかでは
半村良と宮本輝がずば抜けて「巧いなァ」と思います。

コメント
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