晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

スティーヴン・キング 『ローズ・マダー』

2010-04-04 | 海外作家 カ
ホラーの小説にしても映画にしても「B級」にくくられるものが
ありますが、別にA級になれない、劣ってるというわけでは
なく、単純に怖さを楽しみたい、あまり考えさせられるような
深さは求めていないということでしょうか。

そこをいくとキングの小説は、A級の要素もB級の要素もあり、
怖いところは怖がることができ、でも考えさせられる部分も多く、
つまりは「面白い」物語なのです。

アメリカの地方都市に住むローズという女性。夫の度重なる暴力
により無力となり、とうとう流産させられてしまいます。
しかし夫は刑事で、病院では階段から転げ落ちたことにしろと
命令。
待望の赤ちゃんを殺されたことでさすがにローズは家を出る決心
をし、夫のキャッシュカードを持って家から逃げ出すのですが、
夫に対する恐怖のあまり、逡巡します。
なんとか意を決して、銀行で現金を下ろし、足のつかないように
キャッシュカードをゴミ箱に捨て、長距離バスで知らない遠い町
へ向かいます。

一方、家に帰ると妻の姿がないノーマンは、休暇を取って妻の行方
を探すことに。
ノーマンは特殊な嗅覚というか、刑事にはもってこいの才能の持ち
主で、さらに自分のキャッシュカードを拾った男に手荒な尋問をし、
たちどころに妻の逃げた方向を割り出します。

ローズは大都市の中で、駆け込み寺のようなボランティア施設に
行き、匿ってもらいます。そこで仕事をもらい、さらに一人暮らしも
はじめます。
ある日、ローズは店のウィンドウ飾られた絵になぜか心惹かれます。
作者不明のその絵の作品名は自分と同じ名前というのも偶然か。
ここから不思議と事態は好転、店の店員から食事に誘われたり、店
にたまたま居合わせた老人がローズを小説の朗読の仕事にスカウト
されます。

買ってきた絵を自分のアパートの壁に飾るローズ。しかしその絵が
原因なのか、不思議な現象が部屋の中に起こるのです。窓は閉まって
いるのに部屋の中にコウロギがいたり、寝ていると草いきれが感じた
り。そしてとうとうローズはその絵の中に入ってしまうのです。
これは夢なのか・・・

ノーマンはとうとうローズの住む町に到着して、あの手この手でどうにか
ローズは町にある女性の保護施設に行ったことが分かり・・・

ローズは夫からの暴力を警察に相談したり、あまつさえ離婚を考えたり
しないのです。というのも、夫という存在が警察そのもので信用できず、
夫がたびたび口にする「警察はみな兄弟」という言葉に、しり込みして
しまうのです。
これは「学習性無力感」あるいは「学習性絶望感」といい、長期間にわた
って困難を回避できない状況に置かれると、逃げる努力をしなくなる、
というもの。

ローズの幸せもつかの間、ノーマンと対決することになるのですが、
その方法というか場所が、なんとも意外で驚かされます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

梨木香歩 『西の魔女が死んだ』

2010-04-01 | 日本人作家 な
小説において勝ち負けや優劣というものは、なんといっても内容
の面白さで決める以外ないのですが、しかしその内容は、買って
(あるいは借りて)読んでみないとわからないものです。
そこで「これは面白そうだぞ」と思わせる要因は、なんといっても
タイトルと本の装丁でしょうか――○○賞受賞作というハクもあり
ますけどね――。

そういったことをふまえると、『西の魔女が死んだ』というタイトル、
もうこれは勝ち。料理名を聞いただけで美味しそうだと思わせる
ような魅力を持っています。

内容は、幼いころに日本の魅力を聞いたイギリス人女性が日本
にやってきて、日本人男性と結婚、田舎に住みます。
その孫が祖母と田舎の家でひと夏過ごした思い出を、祖母の死
によって回想するといった話です。

孫のまいは、いわゆる不登校児で、しばらく祖母の家で面倒を
見てもらうことになります。
母からは「あの人は本物の魔女」と打ち明けられたことがあり、
母娘は祖母のことを、その家の方角から「西の魔女」と呼んで
います。
とはいっても、ハリーポッターのように人間を動物に変えたり
箒にまたがって浮遊したりといった魔法が使えるおばあちゃん
ではなく、そんなおおっぴらではない魔女としての能力の持ち
主なのです。
まいにもその素質があるかどうかはともかく、魔法を使えるよう
になりたいと思えばなれると祖母はアドバイスします。
しかしその訓練は、早寝早起き、お手伝いをし、よく食べる、と
いった「よい子」であることなのですが・・・

祖母の家の庭には畑があり、小屋で鶏を飼い、山奥に行けば
野いちごを採ってジャムにして、といった「スローライフ」を実践。
その文体と表現から、どことなくイギリスの湖水地方を描いて
いるような感じで、なんとも不思議な世界観です。

都会のカラーはそれぞれ違いますが、田舎の原風景はどこの国
でもそれほどの差異はありません。というのは、多くを求めるより
も、「これでいい」と足るを知る、自然からの恩恵を体と心で受け
取り、人間も大いなる自然のサイクルに仲間入りさせてもらって
いる、それが少なくとも「間違いではない生き方」だという経験則
を持っていることが共通しているからでしょうか。

この物語を読んで、「価値観」という言葉の大切さを知ったような
気がします。大前提として、ひとりひとりが違う価値の見出し方を
持っていて当然であり、他者の価値観に敬意を持つことがいかに
大切なのかを学ばせてもらいました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする