晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

遠藤周作 『王妃マリー・アントワネット』

2010-04-17 | 日本人作家 あ
先日、「美の巨人たち」という番組のスペシャル企画で、ヨーロッパ
の3大豪華宮殿を紹介するという内容が放送されて、パリのヴェル
サイユ宮殿、ウィーンのシェーンブルン宮殿、サンクトペテルブルグ
のエルミタージュ宮殿の豪華な内装や美術品、間取りを見ることが
できました。
感想は、そこに実際に人が住んでいたという生活の跡というか、息
遣いのようなものがまったく感じられないといった、空虚といえば
いいのでしょうか、そう、舞台セットのように見えたのです。
つまり、当時の貴族たちは貴族という「役」を演じていたと思えてきて、
一抹の侘しさというか悲しさをおぼえました。

『王妃マリー・アントワネット』は、オーストリアを収めるハプスブルグ家
の女帝、マリア・テレジアの末娘が、わずか14歳でフランス皇太子ルイ
十六世のもとに嫁いでから、やがてフランス革命が起こり、国王と王妃が
断頭台の露と消えるまでを描いた作品で、この革命前後、三部会であった
り、ジロンドとジャコバンクラブの対立、その後の恐怖政治の説明は、なぞ
る程度に書かれてあり、詳しく知りたい方は、藤本ひとみさんの「バステ
ィーユの陰謀」「聖戦ヴァンデ」を読むことをお奨めします。

この作品の、もうひとりの主人公として、貧しい少女マルグリッドが登場
します。フランス東部ストラスブールの靴屋の女中として働かされ、みじめ
な思いをしている中、オーストリアのお姫さまがフランス皇太子に御輿入れ
の道中、ストラスブールに寄ることになり、マルグリッドは、同じ時代に
生まれて同じ女性なのにという、理不尽な格差にふつふつと怒りが沸き、
その怒りは豪華な馬車の中にいるマリー・アントワネットに対する憎しみと
なります。

やがてマルグリッドは靴屋から逃げ出し、パリでいかがわしい宿屋のママ
に拾われます。ここから、面白い登場人物が出てきます。サド侯爵という、
女性に対する変態的行為で投獄されるも脱獄し、また捕まった、この時代
の有名人物が登場します。脱獄の際に、マルグリッドが関わっていたという
のは作者の創作。あと、史実に沿うかたちとして、マリー・アント
ワネットの名前を騙った詐欺「首飾り事件」や、この事件の首謀者とされる
詐欺師カリオストロも出てくるのですが、じつはこの事件の裏にマルグリッド
が関わっていたというのも作者の創作。

そして、マリー・アントワネットを語るうえで欠かせないのが、スウェーデンの
貴族フェルセン。王妃と相思相愛になるも、騎士道精神をつらぬき、ただ王妃を
慕い、見守ることに徹します。

やがて、国の財政は厳しくなり、財務担当は王妃や貴族たちに乱費を抑える
ように説得するも徒労に終わり、国内は麦の不作でパンの値段は急騰、庶民
は苦しみにあえいで、とうとう怒りが沸点に達し、世界史でおなじみの「バステ
ィーユ監獄襲撃」となるのです。

ヴェルサイユに住めなくなった王一家。貴族はちりじりに逃亡し、王一家は
使われていなかった古い城をあてがわれます。そこでフェルセンは王一家の
国外逃亡を企てますが、あえなく失敗。

議会は、ロベスピエール率いるジャコバンクラブが優勢となり、国王ならびに
王妃の処刑を行おうとします。
幼い王子は処刑を免れますが、父母から引き離されます。ここから、ルイの夫
であり、子を持つひとりの母としてのマリー・アントワネット像が描かれます。
そして最期まで毅然として王妃たらんとする姿勢は美しくもあります。

物語の締めくくりとして、元国王ルイ十六世、元王妃マリー・アントワネットは
大観衆の中、断頭台によって短い、波乱の生涯を終えます。
それを群集の中で見ていたマルグリッドの心中はどうだったのか。
コメント
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