晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

曽野綾子 『天上の青』

2010-04-22 | 日本人作家 さ
シンクロニシティ、日本語訳だと「共時性」となるこの言葉は、意味のある
偶然の一致のことで、「因果」とは異なる出来事を指すのですが、先日、
30歳の男性が、父親名義でインターネットで買い物をし、家族がインター
ネットを男性に無断で解約したとして家族を殺傷、逮捕されるという、なん
とも恐ろしい事件が報じられていて、『天上の青』に登場する、仕事もせず
に親から金をせびって出歩いてた男が、次々と自分勝手な理由で殺人を
重ねてゆくのを読んで、現実世界と小説世界の「偶然の一致」を体験した
のです。
もっとも、この小説は実際にあった連続殺人事件を題材にしているのです
が、殺意の対象が家族か他人かの違いで、身勝手な犯行には違いあり
ません。

三浦半島にある一軒の家。そこに住む波多雪子が朝顔の手入れをしてい
ると、そこにひとりの男が道に立って、朝顔を見て「きれいですね」と雪子に
言います。
そして、また来るから種を分けてほしいと言い残し、男は去ります。
雪子は正確には一人暮らしではなく、週の半分は東京で働く妹が家に泊ま
りに来ます。雪子は家で和裁の仕事をし、つましく暮らしています。

数日後、種を分けてほしいと言った男が訪ねてきます。男は宇野富士男と
いい、セールスマンで離婚暦あり、歳は雪子の少し下。
採ってあった朝顔の種を宇野に渡し、男は帰っていったのですが、翌日、
家の前にその種を入れた袋が捨てられてあったのです。
後日、ふたりはドライブに出かけるのですが、食事をしてドライブという
だけの味気ないデートでした。

宇野は、横須賀にある青果店の息子なのですが、雪子に話した仕事などは
しておらず、屋上のプレハブを自分の根城にして、家の仕事を手伝いもせず、
青果店で働く富士男の義兄は彼を見るや冷たい視線を投げ、しかし両親は
甘やかし、何もしない息子に給料を払い、あげく出かけるといってはそのつど
小遣いをあげているのです。

宇野は出かけるたびに、女性の物色にいそしみます。人妻や女子高生など、
手当たり次第に声をかけては食事などに誘います。離婚した妻に浮気されて
いたせいか、女性に対して屈折した見方があるのです。

そして、先日ホテルまでついて来た女子高生とふたたび会うことに。この女の
子はあるアイドルのファンで、宇野はそのアイドルを知っていると嘘をつき、そ
の嘘がばれたようで、女の子は宇野に金銭を要求。車のナンバーも覚えている
ので警察に突き出すと脅迫します。
相談しようと女の子を車に乗せ、道中、宇野は女の子が車のナンバーを覚えて
いないことを知り、形勢逆転。
海近くで車を停め、女の子は車から出て、林の中へ逃げようとします。宇野は
あとを追い、女の子の首を締めて・・・

ここから次々に出会う人を宇野は殺していきます。家では義兄と口論し、心の
安寧を求めに、雪子の家に行くのです。なぜか宇野は雪子に対しては、身勝手
な自分をさらけ出すことはしません。

宇野という人間が形成されるに至ったプロセスというか、なぜ人を殺すことに
なったのかというまで細かく言及されてはいませんが、それよりも、宇野の裁判
費用を肩代わりすることになる雪子の心境が重く深く描かれていて、クリスチャン
である雪子は、聖書に出てきた、イエスの「罪人を招くのです」について考えます。

「わたしは他人を憐れむ」という気持ちは慈悲ではなく、たんなる自己満足では
ないのか。そんなことを読了後に布団にもぐりながら考えさせられました。
コメント
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