晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

黒武洋 『そして粛清の扉を』

2010-02-02 | 日本人作家 か
この作品は、第1回ホラーサスペンス大賞受賞作で、その募集基準は
「ホラー性、サスペンス性に富んだ」ということで、必ずしも「リング」
のような純粋ホラーでなくてもよいのでしょう。
確かに、『そして粛清の扉を』は、ホラーという観点ではある意味グロ
テスクだったりスリラー(恐怖)はあるのですが、どうしても先入観で
「得体の知れない人間じゃない存在の恐怖」がホラーというのがあって、
こちらの作品は、人間対人間。

どうしようもなく荒廃した高校。女性教師の近藤亜矢子の受け持つ
クラスはこの高校の中でも特にひどい生徒の寄せ集め。
卒業式を間近に控え、亜矢子は教壇に立つのですが、いつもと様子が
違います。そして「あなたがたは人質」と告げるのです。
ふざけるなと詰め寄る、いきがった生徒を亜矢子はナイフで刺し殺し、
冗談ではないことを証明します。
おもむろに教壇に出したのは、ノートパソコンと拳銃。

ここから次々と生徒たちの悪行を明るみにしていき、その生徒を殺して
ゆくのです。死んだ生徒は窓の外から放り出され、異変を感じ教室に
入った他の教師も亜矢子に殺されます。

学校側は警察を呼びますが、教室の外廊下にはカメラが仕掛けられて
おり、近づくことは困難。しかし一人の警官が女生徒一人と交換人質
となり、女生徒は逃れ、警官は撃たれてしまい・・・

そんな中にあっても、不良グループのリーダー格の2人と、父親が
暴力団組長の女生徒1人は、冷静に行く末を見て・・・

身代金を保護者に出させる亜矢子。そのうち、すでに殺された子供の
両親は、悲観にくれる中、どこか安堵ともとれる雰囲気。
子供が手におえなくなってしまった責任と後悔から開放されたかのよう。

とにかく片っ端から、教室の生徒たちの悪行をつまびらかにし、そして
殺してゆきます。普段はおとなしい亜矢子が、武器を使いこなせたり、
肉弾戦でも素人とは思えぬほどの身のこなし。どこかで訓練をしたと
思われるのですが、その謎はラストで明らかにされます。
しかし、この説明がほんのちょっと。どうやって出会い、どうして
亜矢子に共感し、協力することになったのかをもうちょっと描写して
くれるには、選考委員の桐野夏生さんの書評にもあるように「原稿
用紙800枚は必要」つまり書き込みが不十分ということですね。

宇宙怪獣が建物を壊すのを人間は許せないと思いますが、ウルトラマンも
建物を壊します。正義の側は何をしても正義なのでしょうか。


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