晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮部みゆき 『ペテロの葬列』

2021-04-22 | 日本人作家 ま
去年から世界中を取り巻くこの状況下で、世界の片隅のそのまた隅っこではありますが、なんとなく「時間」というものを真剣に考えるようになりました。まず、当たり前ですが「人生は永遠ではない」ということ。世間でいうところの「人生の折り返し地点」も過ぎ、「残り時間」というものがうっすらと見えてきて、じゃあもう他人に迷惑をかけないレベルでやりたいことをやっていかないと間に合わないんじゃないかということで、じつは通信制の大学に入学したのもそういうわけ。

あとはあれですね。若いころは「なにごとも経験」と思ってましたが、大切な残り時間、ファーストインプレッションで「あ、自分の人生に必要ない」と決めたらなるべく避けてく方向で。避けられない状況でも最低限に抑えて、例えば仕事とか。

そんな与太話はさておき。

この作品は、「杉村三郎シリーズ」の3作目。前回2作目の「名もなき毒」を読んだのが8年前、ずいぶんと間をあけました。

タイトルの「ペテロ」とは、イエスキリストの使徒のひとりですね。英語読みだと「ピーター」ですね。スイスだと「ペーター」ですね。ハイジの友達。

「今田コンツェルン」会長の娘婿の杉村三郎は、グループ会社の社内報の編集という仕事をしています。はじめはなにげなく調べようとしていたものが掘り下げていくうちに現代社会の闇みたいなものが見えてくるといった感じの過去2作。

杉村は編集長といっしょに引退した元役員の自宅へ出向いてのインタビューの帰り、バスに乗ってると、年配の男が運転席に近づきます。「走行中は立ち上がらないでください」と注意書きがしてあるのに、まったくもう、と他の乗客が思ってると、いきなり拳銃を取り出します。映画や治安の悪い外国ならここで「手を挙げろ!」となりますが、老人は「静かに座っててください」とおだやか。この老人、自分は強盗ではない、金が目的ではないというのです。そして運転手に、バスの路線の途中にある閉鎖された工場へ行ってくださいと命令、ではなくお願い。

バスの周りを警察に囲まれると、老人は3人の名前を挙げて「ここに連れてきてほしい」というのです。さて、このバスジャック事件、意外とすんなりと解決してしまいます。しかし、この老人は、たまたまこのバスに乗り合わせた不運な客、いちおう「人質」にですが、とても奇妙なことをお願いします。それは「みなさんに(慰謝料)を受け取ってほしい」というのです。

それはいったいどういうことか。杉村はこの老人、そして老人が「連れてきてほしい」といった人物を調べることに。事件が解決する前に編集長がバスを降りる際に老人と交わした「あなたみたいな人、知ってる」「それは申し訳ない」という謎の会話の意味が分かってきます。

この作品の内容も「現代社会の闇」なのですが、方法こそ違いますが、現代だけではなく過去にも、人間が「社会」を形成しはじめたときからあったものだと思います。そして、どんな立派な人でも善人でも、一歩間違えばその「闇」に足を踏み入れることになるかもしれない。

なんといいますか、ラストに杉村に関することで「えっ!?」となりますが、過去2作よりもそういった人間の弱さをさらにこれでもかと描いています。

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