非国民通信

ノーモア・コイズミ

ロシアとNATOがウクライナで争い、クルド人が負けた

2024-03-03 22:12:05 | 政治・国際

 さてウクライナを舞台に膠着が続いていた代理戦争ですが、先般はアブデーフカが解放され少しずつ事態が動き出しています。アメリカでは次期大統領にトランプが再選される可能性が高く、NATO陣営では今のうちに事態を不可逆的にエスカレートさせる試みが幾つか見られるところです。その一つはフランスによるNATOからの派兵発言ですが、これはブラフであってあくまでウクライナ人を傭兵として使い潰す方針には変わりないと思われます。

 この代理戦争の最大の敗者は「ウクライナ人」であると私は当初より述べてきました。ウクライナ政府の長がNATOの後ろ盾で権力を維持し「勝者」になったとしてもウクライナ人の犠牲は変わらない、それは早期停戦以外では決して回避することの出来ないものだった言えます。日本のメディアではなんとかの一つ覚えのようにウクライナ人に「勝利、勝利、勝利」と連呼させてきたわけですが、政府の圧力やメディアによる選別を除いたウクライナ人の本心はどうなのでしょうね。

 そして先般はフィンランドに続いてスウェーデンのNATO加盟が決まりました。日本のメディアは挙って「ロシアは侵攻が裏目に出て自らの首を絞めることになった!」みたいに報じているところですが、実際のところはどうなのでしょうか。フィンランドやスウェーデンが本当に中立であったのならロシアにとってはマイナスになるのかも知れません。しかし中道を自称する人々が大半は極右であるように、中立を自称する国も実際はアメリカの衛星国に過ぎなかったりするわけです。スウェーデンもフィンランドも中立の装いを捨てただけで実際にやることは何も変わらないのでは、という疑問がないでもありません。

 そもそも、ロシアが何もしなかったからこそNATOは東方に拡大を続けてきたという現実があります。東欧各国に止まらずウクライナまでをNATOに取り込もうとした、そのロシアとしても妥協できないレッドラインにNATOが踏み込んできたことが今回の戦争の原因の一つであるわけです。もしロシアが何もしなかったならば、いずれスウェーデンやフィンランドはウクライナと足並みを揃えてNATO入りを果たしていた可能性もあります。ウクライナ方面だけはなんとか死守しようとしたロシアの行動は結局のところ不可避だったのではないでしょうか。

 このスウェーデンとフィンランドのNATO加盟を巡っては、トルコとハンガリーが難色を示していたと伝えられています。ハンガリーは加盟への同意と平行してスウェーデンからグリペン戦闘機の購入を契約したとのことで、かつては権威主義的な指導者として欧米諸国から非難を受けることも多かったハンガリーのオルバン首相ですが、今後は「国際社会」が公認する自由と民主主義の同志として、表だった批判を受けることはなくなることが予測されます。

 

サッカーのエジル選手、独代表を引退表明 トルコ大統領との写真めぐり(BBC NEWS)

サッカーのドイツ代表チームのメンバー、メスト・エジル選手(29)が22日、代表引退を表明した。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と一緒に撮影された写真をめぐり、議論が沸き起こっていた。

(中略)

6月24日のトルコ大統領選前に、エルドアン大統領と両選手との写真がトルコの与党・公正発展党(AKP)によって公表されると、ドイツの政治家の多くが、両選手のドイツの民主主義に対する忠誠心を疑う発言をした。

 

 そしてトルコのエルドアン首相もまた一時期は欧米からの批判が絶えなかったわけです。トルコ系移民でドイツ代表のサッカー選手がエルドアンとの写真撮影に応じたことで囂々たる非難を浴び、20代で代表引退を決断するなんてこともありました。かつてはプーチン大統領ではなくエルドアンが民主主義の敵として扱われていた、そんな時代もあったのです。ところがウクライナを舞台に代理戦争が始まり、トルコが海峡封鎖で重要な役割を果たすようになるとエルドアンへの批判は次第に減っていきました。

 トルコではクルド人の処遇を巡って弾圧やテロが続いており、これもまた欧米からのエルドアン政権批判の理由の一つでした。政権と対立するクルド人勢力は特にスウェーデンの庇護下で活動するものも多く、トルコと他のNATO諸国の間には溝があったと言えます。しかるにスウェーデンのNATO加盟を巡ってトルコの同意が必要となるや、クルド人の処遇についてはエルドアン側の言い分が全面的に受け入れられる結果となりました。この取引の結果としてトルコはスウェーデンのNATO加盟に同意することとなったのですが、ではクルド人はどうなるのでしょうか?

 ウクライナ人が第一の敗者なら、第二の敗者はクルド人なのかな、と思います。ほんの数年前までクルド人は欧米諸国が悪玉視する権威主義的な独裁者から迫害される民族として扱われ、ウイグル人あたりと似たようなカテゴリーに含まれていたわけです。しかるにNATOとトルコの取引の結果としてNATOはクルド人を切り捨てた、エルドアン側の言い分が欧米諸国の公認となってしまいました。結果として日本国内の排外主義者が嬉々としてクルド人をターゲットにするようになったり等々、NATOとロシアの対立に何ら関与していないクルド人が被害を被っている、なんとも罪深い話です。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする