非国民通信

ノーモア・コイズミ

未来へのツケ

2016-06-05 22:06:02 | 雇用・経済

厚生年金逃れ、国の想定以上 建設業・ごみ収集員も(朝日新聞)

 従業員に資格があるのに事業所が厚生年金に入れていない「加入逃れ」が政府の想定以上に広がっている。厚生労働省は未加入者を約200万人と推計して事業所の調査に乗り出したが、対象に含まれない建設作業員やごみ収集員の一部も未加入なことが朝日新聞の調べでわかった。

 従業員5人以上の個人事業所は厚生年金に加入する義務がある。だが、建設業者の中には雇っている作業員を「一人親方」として仕事を外注している実態が判明。厚生年金の保険料負担を避ける狙いで、こうした作業員は保険料が全額自己負担の国民年金に入る。一人親方は2015年度で全国に約60万人おり、加入逃れのため装われたケースも少なくないとみられる。

 東京23区の日雇いのごみ収集員(2千~3千人)のほとんども厚生年金に未加入だ。同じ業者に1カ月以上続けて雇われれば厚生年金の加入条件を満たすが、委託業者の一部は違法に加入を避けている。

 

生活保護、高齢者世帯が初めて5割超える 厚労省発表(朝日新聞)

 生活保護を受給した世帯のうち、65歳以上の高齢者世帯の割合が50・8%となり、初めて半数を超えた。厚生労働省が1日に発表した3月分の速報値でわかった。高齢化を上回る勢いで増えており、公的年金が老後の暮らしの支えになっていない実態が改めて浮き彫りになった。

(中略)

 公的年金は老後の支出すべてを賄えるように設計されておらず、年金頼みの老後を送る人にとっては十分な額ではない。14年に厚労省が実施した調査では、高齢者世帯に属する生活保護受給者の約47%は公的年金を受け取っており、その平均受給額は約4万6600円。ただ、高齢者の夫婦でともに無職の世帯は月平均で約27万5700円(15年家計調査)の支出がある。

 

 2本ほど続けてニュースを引用しましたが、いかがでしょうか。この国の未来を占う上では大いに判断材料になると思います。そして未来を変えるか変えないかは、間接的ではあれ有権者にも問われるところですね。日本の会社の不法行為は目に余ると言いますか、事業者と消費者は守っても労働者は守らない日本の緩すぎる規制の結果が将来へのツケになるであろうことは繰り返すまでもありません。虚偽記載に溢れた求人はハローワークに公認され、偽装雇用は横行するばかり、それでも企業が罰せられることなど万に一つ以下の確率でしかない、まさに日本は雇用者天国といった風情ですが、その結果として今に至るわけです。

 かつて我が国は日本国籍を持たない――1945年までは有無を言わさず帝国臣民としてカウントしていたはずですが――日本の永住者を年金加入から排除してきました。その結果として、高齢者の中でも日本国籍を持たない人々の生活保護受給率は幾分か高い物になっていたりします。高齢になれば自分で稼ぐのは誰だって難しくなるわけで、そうであるにもかかわらず公的年金の対象から除外などしていては、当然のこととして年金とは別の社会保障に頼らざるを得なくなるに決まっているのです。50年以上前から、わかりきっていたことです。

 何事も目先のコストカットは将来の負担に繋がります。賃下げと人員削減で一時的に利益を上げているように見せかけている企業が、その後は着実に沈んでいくのと同じように、こうした年金の加入逃れは将来的な「年金以外の」社会保障負担を増やすだけ、社会全体で見れば将来に借金を残す行為になっていると言えます。改革と称して諸々のコストカットを進めて賞賛される政治家や企業経営者は数多いますけれど、長いスパンで見れば20年後、30年後により重い負担がのしかかってくる、そんなケースは枚挙にいとまがありません。

 とかく日本のメディアや経済筋の論者は「将来に借金を残すな」と言って目先の財務状況の改善を急務と説くものです。しかるに実際のところは全くの筋違いと言いますか、目先の出費を惜しんで将来への投資を減らしインフラを破壊してしまうと、それこそ次の世代が苦しめられることになるものなのではないでしょうか。目先のコストカットを進めれば将来の世代は育たず、未来の収穫を減らして結果的に収支を悪化させてしまうだけ、借金を増やす要因を追加してしまうだけです。「将来に借金を残すな」と声高に説く人が実行を迫っているのは、種籾を食べることだと言えます。

 ドイツその他の債権者や投資家を救ったEUの緊縮財政はギリシャを壊滅させ、世界経済にブレーキをかけることにもなりました。緊縮財政はある種の人々に精神的満足感をもたらすものではあるかも知れませんが、その爪痕は将来の禍根となるものでもあります。逆に財政出動のように普遍的な景気刺激策は、種籾を植えるものです。目先の出費は増えるかも知れませんけれど、将来の収支を改善するための投資を惜しんではいけないでしょう。年金行政も然り、企業の負担を緩和することばかり考えていれば、それは必然的に将来的な社会の破綻を招くものです。そこはしかるべく企業に負担させなければ、当の企業ですら生きられない荒廃した社会ができあがってしまいます。

 ……後はまぁ、ことによると民間企業以上に「公」の世界が悪い意味で先を行っている部分もあるわけです。日本経済が伸び悩む主因としては個人消費の低迷が広く指摘されるところで、その原因としては賃金水準の下落、非正規雇用への急速なシフトが挙げられます。そして非正規雇用へのシフトを他に先駆けて強行してきたのが公務員の世界であるはずです。「公」の世界で行われていることなのですから、それに続いた民間企業が非難されるいわれはないのかも知れません。冒頭の報道で例示されている「東京23区の日雇いのごみ収集員」も然り、脱法行為を続ける事業者に平然と業務委託を続けているのは公的機関なのです。不法な年金の加入逃れも、役所のお墨付きなら仕方がありませんね!

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