非国民通信

ノーモア・コイズミ

大人になってから働かせろ

2012-08-13 23:31:33 | 雇用・経済

中3労災死、業者「学校から頼まれて雇った」(読売新聞)

 群馬県桐生市の中学校体育館で、解体作業をしていた栃木県足利市五十部町、中学3年石井誠人君(14)がブロックの下敷きになって死亡した事故で、石井君を雇用していた群馬県太田市の解体業者は9日、取材に対し、「学校側から頼まれたから雇った。日当は5000円だった」などと話した。
 
 解体業者は「7、8年前から計20人ほど不登校などの中学生を受け入れてきた。学校や親から頼まれた時だけで、社会人になる手伝いになればと思っていた」とも証言。石井君とは別の中学数校から依頼を受けたこともあったという。業者は「両親に申し訳ないと思っている。今後誠意を持って対応したい」としている。
 
 労働基準法では、建設業などで中学生以下の年少者の雇用を禁じている。石井君が通っていた足利市立西中の板橋文夫教頭は「校長や担任が業者に伺い、『お世話になります』と頼んだこともあった。中学生が働いてはいけないのはわかっていた」と述べ、学校側が依頼していたことを認めた。

 

 さて、常習的に中学生を働かせていた解体業者で死亡事故があったそうです。まぁ建設業界での人身事故は珍しいことではありません。是非はさておき、そういう業界なのでしょう。ただし死亡者が中学生ともなると、これまた小中学生の自殺と一緒で珍しいが故にニュースバリューも出てくるものと言えます。なにせ中高年の自殺は万単位、ありふれているが故に事細かに報道されることはないのですが、子供が自殺するのは滅多にないからこそ珍事として大きく扱われるわけです。そして建設業や林業での人身事故もまた然り、頻繁に発生するものは報道されず、特異な事例の方が紙面を賑わせることになります。誰からも気にかけられないところでなくなってしまう人のことも、決して忘れて欲しくないところですけれど……

 これまた良くも悪くも入り口の緩い業界で、あまり身元確認の類がうるさくないのも特徴なのでしょうか。私の勤務先でも下請けの社長が一人親方を連れてくることがあると以前にも書きましたが、その辺の初顔の作業員の身元は必ずしも把握できていません。工事に必要な資格の有無や、発注元が要求する講習の受講歴、就労ビザが下りているかどうか、そして就業が可能な年齢に達しているかどうか等々、その辺を事細かに確認するよりも先に作業に当たらせてしまうのが業界の慣例のようです。とかく原発作業周りでその辺を大仰に書き立てられたりもしていたわけですけれど、建設業の世界とは原発云々に関わりなくそういうものと言わざるを得ません。この辺の問題が原発に固有であるかのように扱われがちな昨今の風潮には、何だかなぁと。

 

中3作業死、日当隠し「職場体験」とウソ…学校(読売新聞)

 栃木県足利市の市立西中3年の男子生徒が群馬県桐生市で工事作業中にけがを負い死亡した問題で、同中が足利市教委から「日当をもらうのは職場体験としては不適切」と注意されていたにもかかわらず、これを聞かずに働かせ続けていたことが11日、分かった。

 同中や市教委などによると、工事をしていた群馬県の解体業者の下では、死亡した石井誠人君(14)の同級生の少年(15)が5月下旬から働き始めた。同中は6月に少年が日当を得ていることを知ったが、7月上旬に市教委に対し、日当の存在を隠して「5月から解体業者で職場体験しているが、今後も水曜日から土曜日まで体験させる」と報告。市教委は、平日に学校を長期間休み、工業的な業務に従事することを把握したが、日当がないため職場体験と判断した。

 

 建設業界全般の問題はさておき、中学生を就労させるという児童労働の観点からはどうでしょうか。日当は5000円だそうです。外国人研修生よりは、高給取りですね。外国人研修生を本来なら法律に触れるレベルの薄給で使い倒すことが許されているのは、それが「研修」であって「労働」ではないという建前があるからです。今回の中学生の就労の場合も同様、「職場体験」であって労働ではないという建前によって、本来なら許されない中学生の就労にゴーサインを出していたことが分かります。実質的な就労のため平日に学校を休むことになるにも関わらず、それを学校側が許可しているというのですから驚きです。中学校が何故「義務」教育であるのか、ちょっとぐらいは考えてみるべきでしょう。

 

中3作業事故死「職場体験に該当せず」(読売新聞)

 足利市立西中3年石井誠人君(14)が群馬県桐生市の工事現場の作業中にけがをして死亡した事故で、中学校側が事実上の就労を“職場体験”と説明する一方、文部科学省は9日、県教委などから話を聞いた上で「職場体験ではない」とする見解を明らかにした。解体業者の社長や息子が西中出身というつながりから、常態化していた中学生の就労に対し、足利市教委は市内中学生の就労状況に関する調査に乗り出した。
 
 文科省が2010年度にまとめた「中学校キャリア教育の手引き」などによると、職場体験は「学校から社会への移行のために必要な基礎的資質や能力を育む上での有効な学習。中学校は職場体験を重点的に推進すること」として位置付けられる。

 

 しかるに従来の学校教育を差し置いて「職場体験」を後押しする空気は決して弱くないようにも思います。今回の件は事後になって「職場体験ではない」との見解が出されましたけれど、死傷災害が起こらなかったとしたら世間の評価はどれほどのものだったでしょうか。進学率の上昇、高等教育修了者の増加を快く思わない人も我々の社会には少なくありません。必要なのは大学などの高等教育ではなく職業訓練だと、そう説く人が多いわけです。もっと早い内から就労を意識した職業教育に重点を置くべきだと、往々にして改革系の論者は語りがちです。問題の解体業者は「不登校などの中学生を受け入れてきた」そうです。理由はさておき学校に馴染めない生徒に「学校以外」の選択肢を与えて「社会人になる手伝い」としてきたと、事故が起こらない間は賞賛されてきた、ことによると美談の主ですらあったのではないでしょうか。

 学力テストの結果には大騒ぎしつつも、学力テストの対象となる勉強に力を入れているかと言えばさにあらず、進学率の上昇を喜ぶどころか反対に大学生が多すぎる云々と説教を始めるような人も目立つ時代です。学校の勉強より社会勉強みたいな風潮は強いですけれど、しかし中学生あるいは高校生ですらそうですが、まだまだ未熟な人間を教育と称して労働現場へ放り出すのは社会全体としてどうなのでしょう。単純に危険でもあることは今回の一件にも表れていますし、同時に人生の早い段階で「社会人になる手伝い」を受けた人のその後のキャリアはどうなのかも問われるべきです。義務教育終了後も格安の日当で使い捨てられるようでは何のための「職場体験」なのでしょう。職場体験に該当するかどうかではなく、職場体験推進の考え方に誤りは無いか、その辺もまた省みられる必要があるように思います。

 

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コメント (4)
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