非国民通信

ノーモア・コイズミ

中流から上には縁のない話

2011-04-28 23:44:27 | ニュース

 昨年は随分と長い間失業していたわけですが、痛感したのは「若い内なら働ける」という感じの仕事ばかりが世の中に溢れているのだなぁ、と言うことでした。非正規にせよブラック企業にせよ、若い内なら「妥協すれば」就労機会には事欠かないけれど、トウが立ってくると切り捨てられる、そういう傾向が強まり続けてはいないでしょうか。中高年はコネがないと再就職はなかなか難しいと就職セミナーでも聞きましたが、ともあれ中高年になっても働き続けられる職場というのは減る一方に見えます。中高年を切り捨てて若者向けに仕事は提供されるけれど、その若者も昇給してしかるべき年になったら切り捨てられる、そこで新卒者が希少な「中高年になっても働き続けられそうな職場」を探すと当然のことながら少ない椅子の奪い合いになって就職できない人が続出する、そして就職できない若者に「選り好みするな」とコンサルの類が説教する――これがお決まりのパターンなのかも知れません。

 まぁ、少なくとも採用担当者から見れば既に若者ではなくなった私にとって、昼間の仕事を見つけるだけでも一苦労でした。逆に言えば、夜の仕事――深夜勤務の仕事は結構な求人があったものです。選ぶ余地があるなら望んで深夜労働に付く人は決して多くないと思われますが、そうであるだけに私のような就職弱者であっても入り込む余地がある、それが深夜労働の世界だったわけです。就職強者は平日の昼間の仕事に就き、就職弱者は他の人がやりたがらない仕事、その典型の一つとして深夜労働を選ばざるを得ない、そんな構図もあるでしょう。私としても昼間の仕事に拘って探してきたのですが、あまりに就職が決まらない中では深夜労働も視野に入れざるを得ませんでした。最終的には雇用形態と通勤時間の面で大幅な妥協をすることで昼間の仕事を見つけたものの、次はもう昼の仕事は無理なのかと不安を感じる日々です。あの地震があった日、長い長い帰宅の道中に何度か深夜のコンビニに立ち寄ったものですが、店員は中年男性ばかりでした。職を失い、コネも持たない中高年は深夜労働に回らざるを得ないのだなと、私は差し迫った恐怖を感じた次第です。


節電策:消防法や労基法、柔軟に 経団連が規制緩和要望案(毎日新聞)

 今夏に予想される東日本の電力不足に対応するため、日本経団連は20日、企業の節電を後押しするために必要な規制緩和の要望案をまとめた。自家発電や勤務の夜間シフトをしやすくするための規制緩和が軸。来週初めにも公表し、月末に政府がまとめる今夏の電力需給総合対策に反映させたい考えだ。

 電力不足でガソリンなどを燃料とする自家発電の利用が増えれば、大気汚染などの規制に抵触する可能性がある。このため経団連は、ばい煙の排出規制を定めた大気汚染防止法や、一定量以上の自家発電用燃料を貯蔵する際に市町村長の許可を必要とする消防法の一時的な緩和を要請する。敷地内に自家発電設備を新増設する場合などに備え、敷地面積の一定以上の緑地を求める工場立地法の緩和も求める。

 また、工場などの稼働を電力消費の多い昼間から夜間にシフトさせるため、夜間の割増賃金を抑えるなど労働基準法の弾力化を求める。昼間の水力発電所の稼働率を高めるため、河川法を緩和して河川からの取水を機動的に実施できるようにすることも盛り込む。いずれも今夏限定の時限措置との位置づけだ。

 ……で、こういう要求も出てきました。例によって都合の良い話ではありますが、現実問題として電力不足に向き合わねばならない以上、こういう要求も通りやすくなってしまうのかも知れません。その筋の人が言い張るように電気が足りているなら、こんな規制緩和の要望など突っぱねてしまえば済むところですが、残念ながら電気は不足する見込みが濃厚です。白いクスリが効いている内は目の前の不安などどこかへ消えてしまうように、何かに酔いしれている人にとっては電力不足など別世界の出来事に見えているのでしょう。しかるに計画停電期間中はどんな大企業であろうと該当地域にいれば容赦なく電気を止められたりしたものですし、あれだけ企業活動に便宜を図るばかりだった政府筋が企業側に電力削減を突きつけるなど異例の事態に陥っているわけで、さすがに財界筋も現実的な対応を取らざるを得ない――電力不足に何らかの手を打たねばならないと理解しているようです。

 そこで自らの懐を出来るだけ痛めずに電力不足に対応しようとなると、こういう規制緩和要求が出てきます。環境評価をスルーした自家発電と、ピークシフトのための深夜労働の規制緩和が柱になるわけですね。前者についてはディズニーランドが先んじて同様の提案をしていました。どうにも原発「以外」安全神話が強固に築かれつつあるだけに、原発でさえなければ安心安全、原発でなければ超クリーン!みたいな扱いを受けがちですので、この辺はさしたる抵抗もなく規制緩和が進みそうなのがなんだか怖いです(中には諫める官僚もいるのでしょうけれど、そういう人ほど抵抗勢力云々や利権にしがみつく輩としてバッシングを受けるものと思われます)。つい先日、家庭用発電機を使っていて一酸化炭素中毒で死んだ人のニュースが流れていたのを記憶していますが、原発「以外」による事故や健康被害など今時のネット住民は誰も気にしていないわけで、こういう「注意のそらされた」状況でこそ危機は忍び寄ってくる気がします。

 深夜労働の割増賃金を抑える案もまた、極めてタチが悪いと言えます。課題となるピーク時の電力消費を抑える上ではピークシフト、つまり昼から夜の操業への切替は最も有効と考えられていますが、ただでさえ割に合わない深夜労働なのに、給料まで下がったら堪ったものではありません。深夜労働が常態化すると前立腺ガンになる可能性が3.5倍、乳がんになる可能性が1.6倍、心筋梗塞になる可能性が2.8倍に増加するとすら言われています。この辺はストレスの問題も絡むにせよ、普通に福島で昼の仕事に就いた方が遙かに低リスクです(もっとも福島で新規就業先を探すのは果てしなく困難になりそうですが)。まぁ、例えばハイテク産業などは1秒にも満たないような瞬間の停電でも半導体がゴミと化すわけで、電力需給がギリギリで停電に怯えざるを得ない昼間の操業より、安定した電力供給が望める夜間にシフトしたくなるところもあるでしょう。状況が状況なだけに暫定措置として夜間操業の増加はやむを得ないのかも知れません。ただ、それに乗じて割増賃金を切り下げるというのはムシのいい話です。働く人が負担を負った分、せめて現行法が定める最低限の対価は払われるようでなければなりません。

 立場の弱い人ほどしわ寄せを受けやすいものでもあります。仕事を選べるような立場の強い人は、ピークシフトなどどこ吹く風、何事もなく昼間の仕事で働き続けることが出来るでしょう。しかるに私のようなロクなキャリアもないおっさんにしてみれば、深夜労働に回らざるを得ない状況というのは、相当な確率で直面せざるを得ないものなのです。安定した地位にいれば悠々と省エネを説き、「低エネルギーでもいいじゃないか」と澄ましていられるようですが、有閑階級と社会的弱者では被る被害も全く異なることを、ちょっとは考えて欲しいところです。


「電気を節約するために、車内の暖房と照明を切っております。ご迷惑をおかけしていますが、ご理解をお願いいたします」
 電車に乗ったら、このような放送がありました。晴れている昼間の明るいときでしたから、車内の電気が消えていることも、暖房が入っていないことも、放送を聞くまでは気がつきませんでした。

 「ちっとも迷惑なんかじゃないよ」と、そのとき思いました。「これで良いんじゃないの」とも……。
 駅に着いたら、案内の電光掲示板の電気が消えていました。エレベーターは動いていますが、エスカレーターは止まっています。
 とりたてて「不便」や「迷惑」を感ずることはありません。これで良いんじゃないでしょうか。

 例えば、ネットで見かけたこんな文章はいかがでしょうか。そうですねぇ、「ちっとも迷惑なんかじゃないよ」と思うものなのでしょう、昼間に悠々と電車に乗っている人であるならば! 冬場でも昼間の暖かい時間帯ならば暖房が無くても困らないでしょうし、夏場でも昼間の空いている頃なら冷房が無くても困らないのかも知れません。特に混み合う時間帯でもなければエスカレーターが止まっていても困るものではないのでしょう。しかし、早朝や夜のラッシュ時間帯に電車に乗らざるを得ない勤め人はそうもいかないわけです。

 冬場の早朝の冷え込む時期に暖房がないのはまだ許せるとしても、そろそろ夏日も珍しくなくなる今の時期に、人間が限界まで詰め込まれた列車内で空調が切られるとなると、もはや拷問です。空いている時間帯に悠々と移動するばかりの人間からは隔絶された世界があるのです。最近はJRも多少は頭を使うようになりましたが、一時期はラッシュ時までエスカレーターを止めるどころか、安全のためと称して動かないエレベーターを封鎖していたところもあったわけで、こうなると細い階段に通勤者が殺到、駅のホームに出るまで、乗り換えのホームに移動するまで、そして駅から外に出るまでに膨大な時間を要したものです。加えて前に列車が詰まっていると称して時間調整、後続の列車が遅れていると称して時間調整、あるいは何も説明しないまま時間調整と際限なし、通勤に掛かる時間は伸びるばかりでした。

 まぁ、これでも安定した仕事に就いている人ならば遅延証明を出すだけの話なのかも知れません。しかるに、いつクビを切られるかわからない立場にいる人にとっては、無闇に遅刻を繰り返すわけにもいきませんから、運行ダイヤが意味をなさない惨状にも対応すべく余計に早く家を出なければならなくなるわけです。かつ、契約形態によっては電車遅延であっても遅刻分の給与は補償の対象外だったりするものですから、遅刻=収入減になるケースもあります。そして遅刻分の給与が補償されないような契約の場合は往々にして元になる賃金も安いだけに、収入減によるダメージも相対的に大きくなります。有閑階級にとっては「ちっとも迷惑なんかじゃないよ」「これで良いんじゃないの」と思えるものでも、立場の強くない人間にとっては十分に生活を脅かす問題となるのです。「家庭生活の平安は金銭の多寡に置き換えられるものでない」と、裕福な人間だけが口に出来る道徳論が幅を利かせ、あたかも原発だけが危険であるかのごとく語られる中で原発「以外」のリスクから目が背けられる中、ひたすら弱者がそのツケを押しつけられていく、こういう状況には首を傾げざるを得ません。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (6)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする