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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ぎりぎり花見に行く

2009-04-10 08:41:41 | Weblog
昨日は夕方,「近所の」公園に花見に行く。いま行っておかないと,今年は桜の花を間近に見ることなく終わってしまうことを恐れたからだ。間に合った。お堀沿いには,まだ,たくさんの桜の花が咲き誇っていた。だが,その近所の神社では,花見の期間はすでに終了し,桜の花もかなり散っている。その違いは桜に内在する要因のせいなのか,それとも環境のせいなのか。



マス広告はネット広告より効く?

2009-04-09 16:21:18 | Weblog
だんだん暑くなってきた。研究室では机を窓際に置いたので,とりわけ暑い。新たに導入した Mac 机は部屋の内側にあるので,早くそちらに移ればいいのだが,まだ準備が整わない。いろんな意味でスウィッチング費用が大きい。

さて,それはそうと

 テレビ広告と雑誌広告はネット広告より効果的

という記事が目を引いた。出所を辿ると,ある調査会社のサイトに行く。

 TV and Magazine Ads More Effective Than Ads on Internet

というタイトルが示すように,TVCM ,雑誌広告(4C1P),ネットのバナー広告の効果が実験室的な手法で比較されている。その結果,

1)雑誌が限られた時間で最も多くのインプレッションを提供する
  (TVの2倍,ネットの6倍)
2)広告想起率が最も高いのはTVである(雑誌の2倍,ネットの6倍)
3)バナーの3分の2は見られていない(アイカメラによる測定)

といったことがわかったという。さらに,露出量の差などを考えると,4C1Pの雑誌広告の「価値」は,30秒CMの83%,バナーはその16%にすぎないという。この指標,「価値」というからには,分子に広告費を考慮しているものと考えたい。では,分母にくる効果指標は何だろう? 文脈からすると,インプレッションか広告想起か?さすがに販売効果までは考えていないはず。

TVCM,雑誌広告(4C1P),バナー広告を,同じ指標で横並びに比べること自体,おかしい感じもする。「クロスメディア」が強調される今日,どれが効果的かという議論より,どう組み合わせれば効果的かという議論のほうが重要なはず。もちろん,この調査のスポンサーが Condé Nast (Vogue などを発行)と CBS であることを考えれば,ある程度は理解できる話だが。

イノベーションは辺境で起きる?

2009-04-07 23:32:02 | Weblog
大企業がイノベーションの担い手になり得るかどうかは,シュンペータ以来,いまだに議論が続いている(と,むかし習いました)。ということは,容易に結論を出せるテーマではないということだが,中島聡氏のブログ"Life is beautiful" で,それに関連する非常に興味深いエントリを見つけた:

「戦略的OS」の開発がことごとく失敗している点に関する一考察

一部引用させていただくと・・・

90年代にIBM、Microsoft、Apple各社が巨額の開発費を投じて作っていた「戦略的OS」がすべて失敗してしまったことを皆さんはご存知だろうか?
 ・・・
(IBMの)OS/2は少なくともリリースまで結びついたから良い方だ。悲惨なのは、Microsoftが開発していたCairoとAppleが開発していたTaligent (=pink)。
 ・・・
そして今のOSの市場を見ると、Linus Tolvaldsという個人が作ったLinuxと、Steve JobsがAppleを追い出されて作ったNeXTを元にしたOS Xと、Cairoまでの場つなぎに過ぎなかったWindowsと、企業の中核戦略からはかけ離れたところで作られたものばかりが使われている、というのがなかなか面白いところ。

つまり,大企業から遠く離れたところか,大企業内部であっても中心とはいえないところで生み出されたイノベーションが成功している,というわけだ。これに関連して,シリコンバレーで活動されている渡辺千賀氏の「大企業が新しいものを生み出す時代の終焉」という指摘もまた興味深い:

1)R&Dの変遷
2)ICTでのイノベーション・クリエータ主役交代

渡辺氏は「グローバルにR&Dを最適化する試みはどんどん進んでいる」という。研究開発を内部に抱えるのでなく,国境を越えてアウトソースする動きまであると。この場合,「辺境」は国や企業の境界をはるかに越えた次元にある。これらは主に米国での話だが,日本ではどうなんだろう? 

そして,ちょっと飛躍するが,学問も同じだろうか?同じだとしたら,center of excellence から遠く離れたところにいる研究者にこそチャンスがあるのだろうか?上の OS 開発の例でいえば,中心の比較的近くにいるが,主流からは外れている,ぐらいの位置がちょうどいいことになるが・・・

無印と伊印

2009-04-06 17:33:31 | Weblog
日本発のブランドで,優れたデザインで成功してきたといえる数少ない例が,無印良品だろう。Real Design 5月号は無印良品を特集,その愛用者であるクリエイター30人が,それぞれどのように無印を使っているかを紹介している。そして,このブランドを支えてきた,3人の有名なデザイナーがインタビューに答えている。

いろいろ小ネタもある。たとえば,MUJI UK でしか売っていないアイテムがあるという。無印は世界の主要都市に進出しているが,しっかり現地適応もしているわけだ。海外で売れたアイテムが輸入されることはないのだろうか。もう一つ,無印のレトルトカレーがおいしい,という噂が検証されている。種類もけっこう豊富である。

Real Design (リアル・デザイン) 2009年 05月号 [雑誌]

エイ出版社

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独自のシンプルなデザインをベースに,リーズナブルな価格でブランドを確立した無印に比べ,同じくデザインを重視しながら,そのテイストや価格において対極にあるのが「伊印」,つまりイタリアのラグジュアリーブランド群だろう。Esquire 5月号の表紙には,無印良品と一瞬見間違いそうなヘッドラインが書かれている。

Esquire (エスクァイア) 日本版 2009年 05月号 [雑誌]

エスクァイア マガジン ジャパン

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この特集で紹介される伊印ブランド,たとえば,エトロやボッテガ・ヴェネタにしろ,あるいはジョルジオアルマーニにしろ,濃厚かつ繊細な美しさで溢れている。ブルガリの時計にしても,1千万円を超すものは論外としても,数十万の時計なら買えるんじゃないか・・・と,このぼくですら誘惑されるそうになる美しいデザインだ。

無印については自分も愛顧しているぐらい身近な存在だが,伊印の多くは簡単に手が出せる代物ではない。しかし,伊印ブランドに比べれば断然歴史が浅い無印が成功したことは,日本企業だってやり方次第で,デザイン中心の戦略で成功できることを示したといえる。だから,一見対極にある伊印から,何か学ぶこともできるのだ。

ただし,伊印ブランドの強みの1つが,長い時間を通じて伝承されてきた職人的な技芸だとしたら,工場やお店をちょこっと見学したぐらいでは,たいしたことはわからないだろう。したがって,長くイタリアに住み,実際にイタリア人と仕事をしてきた人たちの証言を聴くことがとても重要だ。そこで,まさにこの本が参考になる。

イタリア式ブランドビジネスの育て方
小林 元
日経BP社

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著者の小林元氏は,東レが開発した合成皮革を,イタリアを拠点に「アルカンターラ」という国際的なブランドに育てた方で,MBF で講演を拝聴したこともある。さらには,フェラーリのカーデザイナーを経て,最近は山形で日本型カロッテェリアを目指すなど,幅広く活躍されている奥山清行氏の経験も参考になる。

フェラーリと鉄瓶―一本の線から生まれる「価値あるものづくり」
奥山 清行
PHP研究所

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もちろん,単なるイタリア特殊論や欧州ブランド礼賛を意図しているわけではない。無印と伊印がともに同じ地平に立つとみなしたうえで,美しいものづくりを目標にビジネスを推進するための方法論を考えたいのだ。さらにマーケターらしく,「顧客」をどう意識し,それをどうデザインに展開しているのかを探りたいと思う。

秘かに夢見るイタリア出張もまた,それになにがしか貢献するんじゃないかと・・・。
 

コカコーラの新型自販機

2009-04-04 11:36:44 | Weblog
コカコーラが新しい自動販売機の実験をしているというニュース。

コカコーラのインタラクティブ自動販売機
Coca-Cola Testing Interactive Vending Machines

前面が大きなフラットディスプレイで,iPhone のようなインターフェースで飲料を購入したり,CM を見たりできる。次のバージョンでは,ケータイへの音楽ファイルのダウンロードや,電子マネーでの支払をサポートするという。機能自体は驚くような話ではないが,iPhone に似ているというインターフェースが気になる。



このニュースを聞いて思い出したのが,以下の HBS のケースだ。

Coca-Cola's New Vending Machine (A): Pricing to Capture Value, or Not?

それは,その日の気温に応じて価格を変える自動販売機をコカコーラが開発しているという噂が流れて,世論から猛反発を食らったという,ブラジルでの話だ。暑いときに清涼飲料水の値段を上げるなんて,何て強欲な!というわけである。MBA向けマーケティングの授業の初年度で取り上げたので,懐かしく覚えている。

この問題には,Bスクールで用いられる通常のケースと同様,自明な解答がない。フェアネスが重要だ,という議論だけで終わらせず,では,寒くて需要が減るときに価格を下げるという自販機だったらどうだろう?同じように,消費者の反発を買うだろうか?などと議論して,戦略を考える頭をストレッチさせることができる。

このケースは,消費者行動について学ぶ際の教材として使うこともできる。プロスペクト理論や参照価格の話に基づいて,消費者の価格への反応が非対称になる可能性について議論するとか。何がフェアと感じられるかは,「文脈」に依存する。ブラジルで起きたことが,日本や他の国でも起きるかどうか議論してもいいだろう。

インタラクティブなサービスを評価するとき,あれができる,これができる,という話は,あまり本質的ではないように思う。むしろユーザが,自分が置かれた文脈でどう感じるかが重要だ。文脈を重視するのは,それ次第で同じことが快にも苦にもなるからだ。それは人生と同じく曖昧で,非常(非情に?)難しい(涙)。

サービス工学への曖昧な不満

2009-04-03 17:13:57 | Weblog
昨日は学内の(しかし学外の方も参加した)プロジェクトのキックオフに参加。自分の役割がよくわからないまま,予定外の懇親会まで出る。そこで偶然,流通分野へのエージェント・シミュレーションの応用に興味を持つ若手研究者と話す。流通や物流は「空間」をリアルに設定できるので,このアプローチは説得力をもちやすい。

『サービス工学入門』という本が出た。執筆者は産総研と東大の工学研究者たちが中心だ。最初にサービスおよびサービス工学とは何か,その歴史的な経緯などがじっくり議論される。そのあと「観測」「分析」「設計」「適用」という構成で最先端の研究が紹介される。マルチエージェントやイールドマネジメントの話題もある。

サービス工学入門

東京大学出版会

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冒頭,吉川弘之氏が,製造業でこれだけ情報技術が活用され,生産性を高めているのに,サービス産業で生産性が著しく低いことの「不思議」を指摘する。吉川氏によれば,製造業は実はサービスを内包しているのだ(正確には「製品はサービスの増幅装置」という)。なぜそれが工場を超えて拡大しなかったのか,と氏は問う。

藤本隆宏氏は製品を情報に分解し,吉川弘之氏は製品をサービスに分解する。そのことで,生産は使用=消費のプロセスとリンクする。ただ,消費はその位置を得たものの,その中身の追求が残された課題になっている。それは結局,マーケターとエンジニアが連携することなしには実現しないが,現実にはあまり進んでいない。

大量データからユーザの行動をモデリングし,それにもとづき最適な制御を目指そうとするサービス工学の圧倒的なパワーには感服する。と同時に,そこに欠けている何かについても,非常に気になる。しかしそれは,以前,この本の執筆者の一人が示唆していたように,工学を徹底したのちにしか解決できないものかもしれない。

この本はいうまでもなく,サービス工学の最前線を知るには最適の教科書である。そこにわずかながら欠けている何かは,おそらく工学研究者自身も気づいている,最も難しい問題だ。野心的な研究者は,それを考えるためにも本書を読むべきだろう。

懸案の論文を全部脱稿!

2009-04-01 18:03:49 | Weblog
以下の研究について,それぞれほぼ論文を書きあげた。明日からこれらを一斉に投稿する。分野が重なるものも少なくないので,同時に何本も査読を引き受けなくてはならない方には,ご迷惑をおかけするかもしれない。いずれにしろ,このうち半分が採択されるにしても,一挙に「業績」が倍増すること間違いない。

1)何年も前に着手した,クルマのブランド戦略と技術開発に関する研究。消費者の知覚と装備の関係を分析して,適切なバランスを評価する枠組みを提案した。投稿以前に「ものづくり」研究者たちの評価が気になる。

2)これはもっと以前の研究だが,消費者の「予測能力」をフィールド実験で検証した研究。学会発表時は素朴な分析だったが,多少手の込んだ分析を行った。こうした能力を実際に活用するという夢は叶わないままだが・・・。

3)消費者間の情報伝播に関するシミュレーション。インフルエンサー・マーケティングが成功する条件を,仮想的なネットワークで調べている。5月の某学会に備えて再分析していたら,いつのまにか論文になっていた。

4)インフルエンサーを実際の購買データから見つけ出そうという研究。当初のアルゴリズの理論的弱点を,やや古典的な方法で回避した。シミュレーションによる妥当性の検証も十分行って,ようやく論文になった。

5)昨年学会発表した iPhone の普及と情報伝播を調べた研究。情報伝播と態度形成のダイナミックな相互作用を分析するモデルを構築した。実データを再現するほか,「他にもあり得たシナリオ」を提示できたのがうれしい。

6)選択集合を介した消費者間相互作用のモデル。サービス・イノベーションのプロジェクトから派生したものだが,これも滞りなく研究を継続・深化させた。選択集合に関する諸問題を解決する糸口になると期待に胸ふくらむ。

7)クリエイティブな仕事を志向することが消費行動にどう関連するかを示した実証研究。継時的な調査結果を比較分析することで,その頑健性を検証できたことは大きい。さらに同じ尺度での国際比較データがある点も強力だ。

8)「クリエイティブな仕事」の本質を理解すべく,(広義の)クリエイターに対する調査も開始した。まずは,ある瞠目すべき企業で働くクリエイターたちに取材し,彼らの「スモールワールド」についてケースを書いた。

9)数年前に実施した広告主と広告会社の関係に関するインタビュー。共同研究者が来日したのを機に,突貫工事で仕上げに入った。「業界」が急激に変化しているので,投稿のタイミングとしてはぎりぎりセーフかな・・・。

10)テレビ広告の短期効果を傾向スコア法で検証した研究。この手法の意義を査読者に理解してもらう点で苦労したが,うまい説明ができたことが大きい。新たなデータでの分析結果も加え,今度は盤石の体制で投稿する。

11)ロングテール現象を製品と顧客の両面から分析し,その関連性を明らかにした研究。それに相応しいデータを入手するまで時間がかかったが,ようやく理解ある協力企業に巡り会えた。まずは「事実」の力で勝負しよう。

12)小売店舗内で計測された消費者の回遊の動線に基づき,小売の売場生産性を評価しようとする研究。これもしばらくほったらかしになっていたが,分析はほぼ終わっていたので,時間をとってさくっとまとめて論文にした。

13)消費者が選択する際のトレードオフ(コンフリクト)回避性向に関する脳神経科学的研究。数度に及ぶ行動実験で,それが発現する条件を見いだせた。fMRI による脳反応の測定以前に,これまでの成果をまとめてみた。

14)これを絶対に忘れるわけにはいかない,ワインのテイスティング実験。分析方法もさることながら,消費者行動研究あるいは心理学の観点からの意味づけに苦労した。広範な文献サーベイを終えて,何度目かの脱稿。

15)博士論文で最初に取り組んで以来,あまりに長く関心だけは維持してきた,消費者の非補償型選択に関するモデル分析。これまた,いつの間にか完成していたとは,自分の才能と努力にただ感嘆するのみである。

・・・これ以外の現在進行(=凍結?)中,あるいは構想中のテーマについては,来年の今日とちょうど同じ日,その「成果」を報告したいと思う。
追記:以上は4月1日ネタです。