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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

サービス工学への曖昧な不満

2009-04-03 17:13:57 | Weblog
昨日は学内の(しかし学外の方も参加した)プロジェクトのキックオフに参加。自分の役割がよくわからないまま,予定外の懇親会まで出る。そこで偶然,流通分野へのエージェント・シミュレーションの応用に興味を持つ若手研究者と話す。流通や物流は「空間」をリアルに設定できるので,このアプローチは説得力をもちやすい。

『サービス工学入門』という本が出た。執筆者は産総研と東大の工学研究者たちが中心だ。最初にサービスおよびサービス工学とは何か,その歴史的な経緯などがじっくり議論される。そのあと「観測」「分析」「設計」「適用」という構成で最先端の研究が紹介される。マルチエージェントやイールドマネジメントの話題もある。

サービス工学入門

東京大学出版会

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冒頭,吉川弘之氏が,製造業でこれだけ情報技術が活用され,生産性を高めているのに,サービス産業で生産性が著しく低いことの「不思議」を指摘する。吉川氏によれば,製造業は実はサービスを内包しているのだ(正確には「製品はサービスの増幅装置」という)。なぜそれが工場を超えて拡大しなかったのか,と氏は問う。

藤本隆宏氏は製品を情報に分解し,吉川弘之氏は製品をサービスに分解する。そのことで,生産は使用=消費のプロセスとリンクする。ただ,消費はその位置を得たものの,その中身の追求が残された課題になっている。それは結局,マーケターとエンジニアが連携することなしには実現しないが,現実にはあまり進んでいない。

大量データからユーザの行動をモデリングし,それにもとづき最適な制御を目指そうとするサービス工学の圧倒的なパワーには感服する。と同時に,そこに欠けている何かについても,非常に気になる。しかしそれは,以前,この本の執筆者の一人が示唆していたように,工学を徹底したのちにしか解決できないものかもしれない。

この本はいうまでもなく,サービス工学の最前線を知るには最適の教科書である。そこにわずかながら欠けている何かは,おそらく工学研究者自身も気づいている,最も難しい問題だ。野心的な研究者は,それを考えるためにも本書を読むべきだろう。

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