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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

他者の存在と美の進化論

2009-04-11 22:28:56 | Weblog
カネボウ化粧品と茂木健一郎氏の共同研究の成果をまとめた本。その主な発見は,すでに報じられているように,女性が化粧している自分の顔を見たときの脳反応は,スッピンの自分の顔を見ているときより,他者の顔を見ているときのそれに近い,というもの。つまり,化粧した顔は,すでに他者に近いものとして知覚されていることになる。

化粧する脳 (集英社新書 486G)
茂木 健一郎
集英社

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そこから茂木氏は,「化粧はソーシャルパスポート」だと述べる。「化粧した自分」は社会の構成員として,他者と同じ場所に位置づけられる。なぜ女性だけが化粧するのかについては,女性のほうが社会性が高く,そうしたスキルに長けている,と説明される。他方,(旧世代の)男性には,そこが決定的に欠けていると。
先日,アカデミー賞をとった「おくりびと」をDVDで見た。死化粧を施すシーンが印象的だったが,これはどのように解すればいいだろうか・・・
化粧について論じる前に,茂木氏はまず,顔が人間のコミュニケーションにとっていかに重要かを確認する。そして,ミラーニューロンの発見へと話を進め,それが「社会的知性」を発見した点で画期的であったと語る。そして顔。それこそが,相手について情報を得るための重要な手がかりになる。社会的知性とは,顔に向けられた知性である。

顔の話になれば,美醜の問題は避けて通れない。茂木氏の議論は「美の進化論」,つまり性淘汰に向かう。個人的には,ここに最も興味を感じる。何が美になるかは必然的というより恣意的といったほうがよい。しかし,いったん美が「社会的に」認知されると,それに向かって進化が起きる。これはバブルのメカニズムと似ていると,茂木氏はいう。

刺激的な議論だ。しかし,バブルはいつか必ずはじけるが,美をめぐる性淘汰は不可逆的にみえる。この点の違いは決して無視できない。したがって,性淘汰は,バブル以上の何かなのだ。茂木氏の話はさらに広がっていくが,ぼくはこの問題,美の進化における「他者」の役割に最も関心がある。いつか研究してみたいと思う。本気である。