Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

再び「感染」されたい

2008-10-06 21:40:26 | Weblog
昨年,国内外の学会で発表してきたのが,消費者間ネットワーク上のクチコミ伝播プロセスのシミュレーション研究である。すでにいろいろな取り組みがあるなか,いかにして独自性と現実性を出すのか,課題は山ほど残っている。こうした問題に取り組む基本として,疫学における感染のモデルをきちんと勉強しておかなくてはならないのに,実はそこをサボってきた。

最近出たばかりの以下の本の下巻は,まさにそれを扱っている。探し方が悪かったのか,これまでこうしたテキストには巡り会わなかった。さて,あとはいつこれを読むか・・・ あるいは,クチコミ伝播のモデル研究を再開するかだが,いま,それを考えている余裕がない。ここ数ヶ月は,他に片づけることがびっしりある(という言い訳によって,これまで何と多くの研究を中途半端なままにしてきたことだろう・・・)。

生物集団の数学〈上〉人口学、生態学、疫学へのアプローチ
ホルスト・R. ティーメ
日本評論社

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生物集団の数学 下―人口学・生態学・疫学へのアプローチ (3)
ホルスト R.ティーメ
日本評論社

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研究とは,それが人間の行為である以上,自分を取り巻く「ネットワーク」から自由ではあり得ない。だから,いまは「サービス」と「クルマ」でキリキリ舞し,さらにもっと強い「授業」という縛りでグルグル巻きにされている。こういう拘束を打ち破るのが,風に乗ってやってくる「細菌」だ。熱病にうなされるように,新たな「研究」の虜になりたい,という不謹慎な夢をつい抱いてしまう。

仮説があるから実験できる

2008-10-05 08:52:36 | Weblog
昨夜見たフジテレビの「ガリレオ(エピソード0)」で,天才物理学者・湯川学(福山雅治)は,何度も「仮説は実験で検証されて初めて事実になる」という類の発言を繰り返していた。ごもっとも。ただ,ぼくの立場からいえば「事実(因果関係)を知るための実験には仮説が必要で,そのためにはさらに,しっかりした既存理論と,その隙間に切り込む鋭い突っ込みが必要だ」ということになる。

経セミの今月号では,実験経済学が特集されている。この特集の寄稿者を含め,若手経済学者のこの領域への進出は実にめざましいものがある。最初の2つの論文(川越;竹内)では,教室実験が取り上げられている。学生を被験者とした実験を行うことで,手軽にデータを収集するという研究面のメリット以外に,参加した学生に経済学やゲーム理論の勉強を動機づけるという教育面のメリットが主張されている。これは,マーケティングや消費者行動の研究者にはない発想だ。

経済セミナー 2008年 10月号 [雑誌]

日本評論社

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経済学やゲーム理論には「強い」理論があり,そこから導かれた仮説を実験で裏づけたり,それが成り立たない状況を確認したりすることに教育的価値がある。しかし,マーケティングにそこまでの理論はない。もちろん,学生にリサーチやプラニングの実習をさせることはよくあるが,これはプロセスを経験させるのが目的で,その帰結を経験させることはほとんど重視されていない。プレゼンの帰結はそのとき次第で,予測可能な規則性などないわけだから。

この特集では,他にもコンピュータ実験(花木,秋山,石川)や fMRI を用いた脳神経科学的実験(大竹)も紹介されている。こうした手法が使われるのは,現象の統計的パタンを把握するだけでなく,それがなぜ生じるかについて,より深いレベルで説明したいからだ。だから,アドホックな説明で満足するマーケティング研究において,それほど注目されてこなかったといえる。だが,ぼく自身の関心はそちらに向かっている。同業者との距離感が広がっていくかもしれない。

同じ雑誌に連載されている「健康行動経済学」(依田,後藤,西村)では,コンジョイント分析を時間選好の測定に適用した研究が紹介されていた。実験経済学や行動経済学で用いられる手法には,マーケティングや消費者行動の研究者が得意とするものが少なくない。したがって,手法面での交流はおおいに可能なはずだ。議論が一歩パラダイムの違い(あるいは,その有無)に関わり始めると,大きな壁に直面するだろうが,それは多くの学問領域の境界で発生し得ることだ。

もうひとつ,気になったのが石村貞夫「優秀なコンビニ店長は統計で売上を伸ばす」という連載だ。商学・経営学系の学生にとって親しみやすい例を使った,統計学の入門的講義が行われている。数々の入門書を出してきた著者だけあって,語り口は軽妙だ。初学者向けの教科書を書くことには,経験の蓄積が必要なのだなと感じる。連載完結後に出版されれば,来年度の「統計学」の講義で使えるかもしれない。経セミ,なかなか面白い。
 

クリエイティブ成功術

2008-10-04 23:38:14 | Weblog
デザイナー,起業家,脚本家,建築家,CMクリエイター,映画監督,クリエイティブ・コンサルタント,ティアラクリエイタ-,クルマの開発責任者/チーム,作家・演出家・大学教授,ラグビープレイヤー,などなど…。「クリエイティブな人たちの成功方程式」と題するムックで取り上げられた「職業」は多岐に及ぶ。

セオリービジネス vol.5 (2008) (5) (セオリーMOOK)

講談社

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成功した人々だけにインタビューすることによって,成功の方程式を導くことが難しいことはいうまでもない。様々な成功の程度の人々を比較しなければ,成功の要因(それがあるとして)に迫ることはできない。しかし「成功しなかった」クリエイティブな人々への取材は難しい。これは,経営学の研究でしばしば直面する問題でもある。

「クリエイティブな成功」とは,クリエイティブといわれている産業や職業での成功ではない。どんな領域であれ,重要な部分でかつてない様式を含んでいることが,クリエイティブと呼ばれる条件だと考える。では,それはイノベーティブと呼ばれるものとどう違うのか。Ward, Finke & Smith 2002 でもそれは議論していたはずだが,思い出せない。

ジョブズの作った「集団」の将来

2008-10-03 10:52:21 | Weblog
後期の授業が2週目に。出席者が「有意に」前期より減っている。出欠をとらない講義はともかく,必修であるはずの外書購読,大丈夫なんだろうか…(あとで泣きついても知りません)。昨日のCマーケティングの講義では,普及モデルの基礎として,ロジスティック曲線を教えた。指数関数 exp とか,対数変換の話を避けることができない。その動機づけとして,対数グラフの便利さを力説する。だが,ほんとに「便利」かと問われると詰まってしまう。むしろ変換すると線形になるって「美しい」でしょ,といったほうが正しいかな。

ジョブズはなぜ天才集団を作れたか (講談社BIZ)
ジェフリー・L・クルークシャンク
講談社

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電車で隣の人が読んでいる日経から,「ジョブズ氏に頼る革新のあす」という見出しが目に飛び込んできた。あとで中身を確認すると,要は,ジョブズがいなくなったあと,アップルはどうなるんだ,というこれまでも繰り返し語られてきた話だ。買ったばかりの上の本のように,ジョブズ本は相変わらず次々発売されている。しかし,これからはジョブズが何をしたかより,「ジョブズが作った集団は今後も天才であり続けるか」に関心が移っていくだろう。

仮にジョブズとともにアップルが終わっても,それはそれで仕方がないことだ。むしろ重要なことは,そこで生まれたイノベーションの文化遺伝子がどう伝播していくかだろう。Hargadon はイノベーションは少数の天才が無から生み出す類のものではなく,ヒトやアイデアのネットワークを通じて,既存の技術が再結合されることで生まれると主張する(Shumpeter 以来の仮説といえる)。アップル自身がそうやってイノベーションを起こしてきたわけだし,今後,その周囲に広がるネットワークで何が起きるかが注目だ。

科研費の打率

2008-10-01 23:39:21 | Weblog
そろそろ科研費申請の季節である。とはいえ,今年は「2年目」なので,そちらのほうは救われている。だが,来年のことを考えると,そろそろ論文投稿の作業に入らないと,次はないだろう。しかし,毎日授業やセミナーの準備,いくつかのプロジェクトの仕事に追われ,その時間が取れない。自業自得とはいえ,辛い。

今日は,職場で開かれた科研費に関する説明会に出た。国立大は教員1人が平均1件申請しているが,私立大は1人0.6件しか申請していないという。とはいえ,最近は私大からの申請も増加する傾向にある。国からの予算は頭打ちになりつつあるので,これからより競争が厳しくなっていくわけだ。科研費獲得額が,研究者や大学の「格」を示す指標になる。

審査の仕組みを聞いていると,ずっと科研費をもらい続けることなど,ほぼ不可能に近いと感じられる。全体の平均「打率」は2割強だから,5割打つのでも十分すごい。自分の研究のストーリーをはっきりさせるには,たとえ三振を繰り返しても,つねに打席に立ち続ける(そしてバットを振る)ことが重要だという気がする。

以前から,同僚や友人たちと構想してきた「大型」のほうをどうするか… 準備が足りなさすぎてどう考えても無理だと思う一方,落ちても失うものはないのだからダメモトで,と思ったりする。いまは何よりも時間が大事なのでは,という心の叫びもある。すでにもう破綻状態なのに,これ以上戦線を広げるのは自殺行為だと。

広島2連敗。今日の「カープ日記」には「残り4試合全勝で71勝68敗5分。中日が残り6試合2勝4敗で70勝69敗5分」という計算が出ている。全くあり得ないことではないが… それより目標を,3位ではなく勝率5割達成に変えたほうが無難かも。ともかくオレはそれどころじゃないんだ! と野球「以前」のことでイライラする日々。