Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

仮説があるから実験できる

2008-10-05 08:52:36 | Weblog
昨夜見たフジテレビの「ガリレオ(エピソード0)」で,天才物理学者・湯川学(福山雅治)は,何度も「仮説は実験で検証されて初めて事実になる」という類の発言を繰り返していた。ごもっとも。ただ,ぼくの立場からいえば「事実(因果関係)を知るための実験には仮説が必要で,そのためにはさらに,しっかりした既存理論と,その隙間に切り込む鋭い突っ込みが必要だ」ということになる。

経セミの今月号では,実験経済学が特集されている。この特集の寄稿者を含め,若手経済学者のこの領域への進出は実にめざましいものがある。最初の2つの論文(川越;竹内)では,教室実験が取り上げられている。学生を被験者とした実験を行うことで,手軽にデータを収集するという研究面のメリット以外に,参加した学生に経済学やゲーム理論の勉強を動機づけるという教育面のメリットが主張されている。これは,マーケティングや消費者行動の研究者にはない発想だ。

経済セミナー 2008年 10月号 [雑誌]

日本評論社

このアイテムの詳細を見る

経済学やゲーム理論には「強い」理論があり,そこから導かれた仮説を実験で裏づけたり,それが成り立たない状況を確認したりすることに教育的価値がある。しかし,マーケティングにそこまでの理論はない。もちろん,学生にリサーチやプラニングの実習をさせることはよくあるが,これはプロセスを経験させるのが目的で,その帰結を経験させることはほとんど重視されていない。プレゼンの帰結はそのとき次第で,予測可能な規則性などないわけだから。

この特集では,他にもコンピュータ実験(花木,秋山,石川)や fMRI を用いた脳神経科学的実験(大竹)も紹介されている。こうした手法が使われるのは,現象の統計的パタンを把握するだけでなく,それがなぜ生じるかについて,より深いレベルで説明したいからだ。だから,アドホックな説明で満足するマーケティング研究において,それほど注目されてこなかったといえる。だが,ぼく自身の関心はそちらに向かっている。同業者との距離感が広がっていくかもしれない。

同じ雑誌に連載されている「健康行動経済学」(依田,後藤,西村)では,コンジョイント分析を時間選好の測定に適用した研究が紹介されていた。実験経済学や行動経済学で用いられる手法には,マーケティングや消費者行動の研究者が得意とするものが少なくない。したがって,手法面での交流はおおいに可能なはずだ。議論が一歩パラダイムの違い(あるいは,その有無)に関わり始めると,大きな壁に直面するだろうが,それは多くの学問領域の境界で発生し得ることだ。

もうひとつ,気になったのが石村貞夫「優秀なコンビニ店長は統計で売上を伸ばす」という連載だ。商学・経営学系の学生にとって親しみやすい例を使った,統計学の入門的講義が行われている。数々の入門書を出してきた著者だけあって,語り口は軽妙だ。初学者向けの教科書を書くことには,経験の蓄積が必要なのだなと感じる。連載完結後に出版されれば,来年度の「統計学」の講義で使えるかもしれない。経セミ,なかなか面白い。
 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。