Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JAWS 2008@大津プリンスホテル

2008-10-31 21:55:03 | Weblog
大津プリンスホテルで開かれた JAWS 2008 に参加。3日間にわたってエージェントベース・モデリングの研究発表を聞く。製品開発や広告など,マーケティングに関連する発表も少なくない。それ自体は喜ばしいことだが,それを専門とする立場からすると,先行研究の成果がほとんど反映されていないことが残念だ。逆にいえば,マーケティング研究の影響力のなさが浮かび上がる。

いくつかの研究が Rogers の採用者分類をモデルの仮定に援用していた。ぼく自身,授業で「よく知られた学説」として教えているが,どこまで一般性があるといってよいのか,不安がないわけではない。Bass の普及モデルは,その後多くの検証をくぐりぬけてきたが,Rogers はどうなんだろう・・・。どこかに,サーベイ研究があるとうれしい。

ぼく自身は「エージェントベースCRMに向けて」というタイトルで発表した。「向けて」というのはつまり,まだちゃんとしたものはできていない,という意味だ。このワークショップで選択データの分析結果を披露しても意味はない。そこで,間に合わせ的な数値実験の結果を示したが,そもそも研究の意図すら,きちんと伝えることができなかったと(いつもながら)反省。

問題にしたかったのは,選択モデルで一般に仮定される,意思決定者が選択肢の属性について等しく十分な知識を持っているという点だ。特にサービスの場合,顧客はふだんどれだけ利用しているかで,選択肢となる業者への知識のレベルが変わってくる。この点をうまく扱えないと,選択モデルを実務で役立てることはできない。

そして,そこにクチコミのような消費者間の情報伝播が介在する余地が生まれると期待できる。だから,選択モデルとエージェントベースをうまく結びつけて・・・ という話をしたかったのだが,そこまではいかなかった。一方,聴衆のエージェント研究者たちからすれば,そもそも選択モデルがどうしようと関係ない,という思いがあったに違いない。

もう一つ,ランダムサンプリングされた消費者間のネットワークをどう考えたらいいかという問題。これもマーケティングにとっては重要な課題だと思うが,もう少し立ち入って議論しないと,関心を寄せてもらえそうにない。正統派の社会ネットワーク研究者からは,そういった問題設定自体がナンセンスだと叱責されるかもしれない。

それにしても,大津プリンスホテルの22階から眺めた琵琶湖は壮大であった。そして豪華な懇親会のあと,途切れることなく「交流会」の場所が準備され,しかもワインが途切れることがないというのは,ぼくが慣れ親しんでいる学会では考えられないことであった。それに報いるため,もっと熟成した研究を報告せねばと思う。