Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「しつこい」実務型研究の可能性

2008-10-17 10:19:46 | Weblog
「サービス」プロジェクトの「一連の」発表が再来週に迫っている。新たな調査の準備も待ったなしの状況である。12月になれば,収集したデータを教材に用いた非常勤の講義も始まる。そろそろ気持ちを「サービス」に切り替えていかねば…。

という状況で購入した「Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー」11月号では,巻頭論文にフライ「エクセレント・サービスの方法論」が掲載されていた。そのポイントは,顧客をいかにプロセスに巻き込むか,である。確かにそこにサービスの本質がある。顧客との接点が動的かつ連続的になると,顧客の評価や選択もまた動的かつ連続的になる。それをどう扱うのか… 既存の手法でどこまで可能か… そう考えると,自分本来の研究テーマと深く結びついていく。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2008年 11月号 [雑誌]

ダイヤモンド社

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DHBR のこの号では「マーケティングの原点」と銘打って,過去の「名論文」が特集されている。シャピロ,レビット,コトラーといった名前に並んで,ハンセンズの名前がある。選ばれたのは「カスタマー・エクイティを科学的に最大化する」という論文で,正統的なマーケティング・サイエンスのアプローチを企業の実践に生かそうとしたケーススタディである。ハンセンズは時系列モデルの研究で有名だが,共著者はこのプロジェクトのクライアント企業と調査会社のメンバーだ。

そこで扱われているのは,市場反応とマーケティング・ミックス・モデルである。入手可能なデータを用いてモデルを推定するだけなら,これまでも多くの企業が試みてきたはずだ。しかし,この事例では,市場実験まで行って,モデルの妥当性を高めようとしている。このしつこさ,徹底ぶりがアメリカらしい。モデルは詳しく紹介されていない。それは企業機密なのだろうけど,むしろ重要なことは,モデルのエレガントさではなく,プロジェクトをとことん続ける「しつこさ」なのだ。

ぼく自身の経験では,企業がマーケティング領域の研究プロジェクトを何年も継続し,試行錯誤の末,着実に知識を深めていくことは珍しいように思う。やってみたものの見込みがないので中止した,というのであれば仕方ない。しかし,その見込みは正確なのだろうか…。そこに関わった研究者が,研究の継続にどこまで説得力があったかも重要な要素だろう。その意味では,研究者ももっと「しつこく」なくてはならない。さらには,顧客を巻き込む「エクセレント・サービス」だと…。

あと,クマー他「顧客「紹介」価値のマーケティング」も,顧客の価値について興味深い指標を提案している。