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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

第13回MASコンペティション

2013-03-02 10:22:36 | Weblog
今年の MAS コンペティションは,従来とは違った形式で行われた。全ての発表が同じ資格で行われ,審査員側で artisoc の応用として「面白い」か,あるいは「学術的に優れている」かで評価されるようになった。ちなみに MAS は Multi-Agent Simulation の略,artisoc は構造計画研究所が提供する MAS 用の開発ソフトである。

審査員の末席を汚しながら感じたのは以下のようなことだ。一時は移動系シミュレーションが増えて成熟期を迎えた感があったが,少し変化が見えてきた。まず驚いたのが学部生の研究レベルが飛躍的に向上したことだ。また,シミュレーション結果を層別したりクラスタ分析したり,結果の異質性を考慮した発表が増えたのも喜ばしい。

最もユニークな発表は,光辻克馬さん(東京大学)による「元治元年池田屋事件シミュレーション」であった。鳥の群れの行動を再現する有名な Boid モデルのように,浪人たちの戦闘行動はきわめて単純なルールで定式化されている。だが,空間が狭く制約され,パラメタを一定の値にすると,あたかも連係するように相手を攻撃する。

池田屋事件については,襲撃に加わった新撰組の人数や戦闘時間,池田屋の大まかな構造などが記録に残っている。しかし,長州派浪士の人数,彼らと新撰組の戦闘能力や戦意,戦術については記録が残っていない。わかっている事実を再現するように,未知のパラメタを探索する。歴史に隠された謎を解こうとするユニークな研究だ。

マーケティング研究者の立場から最も興味深かったのは,大嶋真理絵さん(千葉大学)の「混合診療解禁の影響の定量的評価」だ。テーマの重要性のみならず,手堅い研究の進め方に将来性を感じた。ぼく自身の趣向でいえば,パラメタの感度分析に加えて,患者の行動を消費者行動モデルとして精緻化し,また実証的基盤を与えたいところだ。

木村幸平さん(東京工業大学)や山内貴弘さん(筑波大学)は組織内の知的生産プロセスをモデル化していた。イノベーションのモデル化は大変チャレンジングで,今後の発展が期待される。実証の裏づけがなくとも,理論的な面白さで勝負する方法もある。その場合,モデルの美しさとか,可視化の見事さが説得力を持ったりする。

その点で,学術的観点で座間味良太さん(防衛大学校)の「Artisoc を用いたシステミックリスクに関する研究」が受賞したのはうなづける。中心部での密度が高く周辺部では疎な複雑ネットワークを用いて銀行の連鎖倒産を分析するアプローチもさることながら,シミュレーション結果を円筒で可視化する方法が印象的であった。

MAS の新しい方向性は,安田友希さんと田嶋祐衣さん(椙山女学園)による「ページランク・アルゴリズムの可視化」や棚橋豪さん(奈良産業大)の「「ちょっと、よりみち」を科学する」など,難しい計算ロジックの可視化に 使うことだ。教育的・啓蒙的な意義を強調する発表は他にもあり,今後一分野を形成するかもしれない。

それ以外にも興味深い研究が多く,おおいに刺激を受けた。自分ももっと深く「複雑系」を愛さなくては,と思う。

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