Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ソニーで起きていたこと

2012-10-17 07:51:07 | Weblog
この本のタイトルを素直に読めば,ソニーの轍を踏まないように,というメッセージが書かれた本だと想像してしまう。そういう部分もないわけではないが,大半は違う。本書のはしがきでそこは釘を刺される。

この本は,ソニーの「成長期」と「全盛期」に同社の宣伝・広報部門で中心となって活躍されてきた河野透氏へのインタビューをまとめたものだ。ソニーのブランドづくりに関するオーラル・ヒストリーといっても差し支えない。

最も面白く感じたのは,盛田,井深,大賀といった超-個性的な経営者と,河野氏のような宣伝やデザインの担当者との「戦い」に関する記述である。アイザックソンが描いたアップルと非常に似た世界がそこにあった。

ソニーのふり見て、我がふり直せ。
ブランドで稼ぐ勘と感
山口誠志, 河野透
ソル・メディア

山口誠志氏が意図されたように,ソニーが最も元気であった時代を知ることで学べることが多々ある。本書はソニーのトップたちの知られざる逸話が多数紹介されており,ソニー史の資料としても貴重ではないかと思う。

ソニーと広告会社の関わりに関する証言も,広告関係者,なかでもソニーの黄金時代を知る世代の人々には非常に面白く読めるに違いない。もっとも,河野氏が本書を通じて本当に語りたい相手は,ちょっと違うようだ。

先日,丸の内ブランドフォーラムでの講演で,河野氏は「21世紀のソニーを担う若者に読んでもらいたい」という主旨の発言をされた。それは,かつてのソニーのような会社に再び登場してほしい,という意味だろう。

トリニトロンはもちろん,ウォークマンが登場したときの感動すら知らない若者たちは,この本を読んで,どのようなメッセージを受け取るだろうか。ぼくは,彼らが「予想外の」感想を持つのではないかと推測している。

ブランディング,マーケティングというものは強く時代に縛られるが,一方で普遍性もあるに違いない。ことばにできない SONY らしさを皆が共有し,熱く燃えていた組織。そのクリエイティビティの強さには普遍性がある。

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