Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

文系大学生がデータ分析を学ぶために

2017-11-13 15:03:11 | Weblog
これからはたとえ文系人間でも、データ分析のスキルを身につけておいたほうがよいと多くの人が指摘している。しかし、文系学生が大学でいきなり統計学の授業を受けてもすぐに挫折してしまう可能性は高い。その一因は、彼らの多くが大学受験で進学先を私立文系に絞り、数学をあまり勉強していないからだが、それだけではない。

統計学の授業はいきなり抽象的な話から始まることが多く、文系の学生にはまったく興味が持てないのである。だとしたら、彼らが興味をもつ事例を取り上げ、数理的裏づけはとりあえず置いて基礎的な統計手法がどう使えるかを示せばいいはずだが、言うは易く行うのは難しい。そんな古くて新しい課題に挑戦したのが本書である。

データ分析をマスターする12のレッスン
(有斐閣アルマBasic)

畑農 鋭矢, 水落 正明
有斐閣

本書を読んで面白いのは、単に平易に書かれているからだけでなく、面白く書かれているからである。本書の前半には、筆者の一人が少年野球の監督をしながらセイバーメトリクスを実践した例や「阪神タイガース債」の需要曲線という話題が出てくる。データ分析が役に立つ領域は予想外に広く、そして楽しいものであることがわかる。

本書が想定する読者は、第一に経済学、そして計量的なアプローチをとる各種の社会科学を学ぶ大学生(と彼らを指導する教員)だろう。経営学やマーケティングの学生はやや志向が異なるとはいえ、本書に盛られた知識を知っていて損はない。経済分析で用いられるテクニックは、これまでも経営学・マーケティングで重宝されてきた。

マーケティングを教える立場からいえば、実務でよく用いられる因子分析やクラスター分析、せめて主成分分析あたりが紹介されているとさらにうれしかったが、あまり内容を膨らませると、コンパクトな教科書としての魅力が失われてしまう。本書を授業で用いる場合、各教師がさらに必要と思う内容を補っていけばすむ話であろう。

後半でパネルデータの分析やロジット/プロビット・モデルが扱われているのも類書にない特徴である。ただし、マーケティング・サイエンスでよく用いられる選択モデル(条件付ロジット/プロビット・モデル)はさすがにカバーされていない。そこまで学びたいという奇特な学生がいた場合、次に以下の本に挑めばよいだろう。

マーケティング・モデル 第2版
(Rで学ぶデータサイエンス 13)
里村 卓也
共立出版


なお、私は本書の著者とプロジェクトをともにしたことがあり、また一人とは同僚でもあるので、私の評価にはバイアスがあるかもしれない。しかし、本書の売れ行きが好調であることから、本書が多くの読者(特に教員)に歓迎されていることは間違いない。その理由は店頭で本書をめくってみると、たちどころにわかるはずである。

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