著者の Pentland 氏は MIT Media Lab の教授で Human Dynamics というグループを率いるコンピュータ・サイエンティストだ。同ラボのウェブページを見ると、Forbes で世界のトップ・データサイエンティストの一人に選ばれたという。
私は著者について全く知らなかったが、何かのきっかけで読み始めたこの本は非常に刺激的であった。タイトルの Social Physics、直訳すると「社会物理学」だが、物理学の数理モデルをそのまま社会に当てはめたような話ではない。
私が理解した範囲では、彼のグループが行っているのは、人間ないし社会の活動を徹底して相互作用の産物として見ること、そのために様々なビッグデータ(ウェブのログからセンサーやGPSで測った位置情報まで)を集めてくることだ。
後者を、彼らはリアリティ・マイニングと呼ぶ。いわゆるビッグデータから様々な知識を得ることは、いまや珍しいことではない。ただそれがリアリティと呼べるには、そこにある複雑な相互作用、そして時間という要素を無視できない。
つまり、門外漢ながらあえていえば、物理学のスピリットに立つという意味での社会物理学なのだ。膨大な数の主体の相互作用を扱うとき、個々の主体の「個性」は二の次になる。ビッグデータが喧伝される時代に相応しい視点だといえる。
伝統的な社会科学からは、それは人間の社会行動を単純化しすぎだ、掘り下げが足りない、という反発が予想される。確かにそうかもしれない。しかし1つの研究戦略として、徹底して相互作用に注目するアプローチは面白い。
本書は全体として、一般向けにわかりやすく書かれているが、最後に数理モデルを紹介する補遺もある。問題は、Kindle だと数式の細かい部分が読めないことだ(拡大できない)。数式をきちんと押さえるには、紙の本がお奨めである。
ご存じの方もいるだろうが、Pentland の以前の著書がすでに翻訳されている。チラ見しただけだが、上述の本とそれほどダブっていないようだ。巻末の解説で、安西祐一郎氏が「計算社会科学の出発点の一つ」と絶賛されている。
Pentland のグループは、メディアラボらしく、人間の接触を測定するソシオメトリクス・バッジというセンサーを開発している。これを用いたコンサルティングを行うスピンアウト企業の経営者が本を出し、邦訳されている(未読)。
こういう研究は日本でも進んでいる。日立の矢野和男氏の本は、ビジネス書コーナーでも平積みされており、読んだ方も多いだろう(私は未読・・・汗)。社会心理学者との共同研究も進んでいるようで、面白い研究がどんどん登場しそうだ。
さぁて、こうしたテクノロジーや分析手法は、マーケティングでも力を発揮するだろうか・・・それはどういう領域だろうか・・・などについて考えてみる必要がある。いや、自分が知らないだけで、すでに行われているかもしれない・・・。
私は著者について全く知らなかったが、何かのきっかけで読み始めたこの本は非常に刺激的であった。タイトルの Social Physics、直訳すると「社会物理学」だが、物理学の数理モデルをそのまま社会に当てはめたような話ではない。
私が理解した範囲では、彼のグループが行っているのは、人間ないし社会の活動を徹底して相互作用の産物として見ること、そのために様々なビッグデータ(ウェブのログからセンサーやGPSで測った位置情報まで)を集めてくることだ。
後者を、彼らはリアリティ・マイニングと呼ぶ。いわゆるビッグデータから様々な知識を得ることは、いまや珍しいことではない。ただそれがリアリティと呼べるには、そこにある複雑な相互作用、そして時間という要素を無視できない。
Social Physics: How Good Ideas Spread?The Lessons from a New Science | |
Alex Pentland | |
Penguin Press HC, The |
つまり、門外漢ながらあえていえば、物理学のスピリットに立つという意味での社会物理学なのだ。膨大な数の主体の相互作用を扱うとき、個々の主体の「個性」は二の次になる。ビッグデータが喧伝される時代に相応しい視点だといえる。
伝統的な社会科学からは、それは人間の社会行動を単純化しすぎだ、掘り下げが足りない、という反発が予想される。確かにそうかもしれない。しかし1つの研究戦略として、徹底して相互作用に注目するアプローチは面白い。
本書は全体として、一般向けにわかりやすく書かれているが、最後に数理モデルを紹介する補遺もある。問題は、Kindle だと数式の細かい部分が読めないことだ(拡大できない)。数式をきちんと押さえるには、紙の本がお奨めである。
ご存じの方もいるだろうが、Pentland の以前の著書がすでに翻訳されている。チラ見しただけだが、上述の本とそれほどダブっていないようだ。巻末の解説で、安西祐一郎氏が「計算社会科学の出発点の一つ」と絶賛されている。
正直シグナル ― 非言語コミュニケーションの科学 | |
アレックス(サンディ)・ペントランド | |
みすず書房 |
Pentland のグループは、メディアラボらしく、人間の接触を測定するソシオメトリクス・バッジというセンサーを開発している。これを用いたコンサルティングを行うスピンアウト企業の経営者が本を出し、邦訳されている(未読)。
職場の人間科学: ビッグデータで考える「理想の働き方」 | |
ベン・ウェイバー | |
早川書房 |
こういう研究は日本でも進んでいる。日立の矢野和男氏の本は、ビジネス書コーナーでも平積みされており、読んだ方も多いだろう(私は未読・・・汗)。社会心理学者との共同研究も進んでいるようで、面白い研究がどんどん登場しそうだ。
データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則 | |
矢野和男 | |
草思社 |
さぁて、こうしたテクノロジーや分析手法は、マーケティングでも力を発揮するだろうか・・・それはどういう領域だろうか・・・などについて考えてみる必要がある。いや、自分が知らないだけで、すでに行われているかもしれない・・・。