Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

マーケティングは愛か?

2007-10-27 11:25:57 | Weblog
日本のマーケティング学者の草分けの一人,村田昭治慶応大学名誉教授の有名なことばに「マーケティングは愛です」というものがある。最初に聞いたときは,一種のジョークか,あるいは怪しげなカルト教団の教えのように感じた。ぼくはむしろ,マーケティングに対する科学的アプローチを目指す研究者たちに興味を持った(ただし,村田先生も,日本マーケティング・サイエンス学会の立ち上げに貢献されたと聞く)。

それから時を経て,日本のマーケティング・サイエンスの先頭を走ってきた先生から,「最近,マーケティングは愛だということが,だんだんわかってきた」と聞いたとき,若い頃ほどの違和感はなかったものの,実感としては理解できなかった。だが・・・恐ろしいものである・・・最近ぼくもまた,「愛」という切り口の重要性に気づき始めたのだ。それは,加齢が必然的にもたらす,普遍的な現象なのだろうか・・・。

だが,ぼくが教室で「やっとわかった! マーケティングは愛なんだ!」と叫ぶ前に,「愛って何ですか?」という学生の質問に答える準備をしておく必要があるだろう。マーケターが他のマネジメントの専門家と本質的に異なるのは,最終的な目標が利益や企業規模の成長率ではなくではなく,顧客の喜びや感動におかれている点だろう。相手が喜ぶことをうれしいと感じるのが「愛」だとしたら,マーケティングは愛なのだ。

さらにいえば「マーケティング・サイエンスもまた愛」でなくてはならない。そもそも,マーケティング・サイエンスなどなくても,現場のマーケターは困らない。サイエンスが欠かせないバイオやIT業界とは決定的に違う。金融工学とも違う。マーケティング・サイエンスは,いわば押しかけ女房のようなものであり,一方的に愛を注ぐしかない。顧客を幸せにしようと思っているマーケターを,どうすれば顧客ともども幸せにできるのか。そういう研究でないと意味はない。

だから,同分野の研究者しか読まない論文誌への掲載が最終目的のごとく行動することは,マーケティングに関する限り全く価値がない。まして,さらに閉じた世界である学会発表なんて・・・。だが,いまぼくの最重要課題は迫り来る学会や研究会での発表であり,最も渇望しているのは論文を書く時間を確保することだ。そこに愛はないのか・・・せいぜい自己愛しかないのか・・・いや,そうではない。いまは,いつか「愛の世界」に到達するための,長い迂回プロセスにいるのだ。それまではじっと我慢・・・。


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