Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

邪悪でなくてもビジネスで成功できる

2008-12-04 23:27:29 | Weblog
今日の授業では,ぐるなびの福島取締役にご講義いただく。同社がどういう経緯で創業され,どういうビジョンで経営されているかの話で盛り上がり,もう一つご用意いただいた,データをいかに経営に利用していくかの話題までは進まなかった。しかし,それでよかったと思う。福島さんのベンチャービジネス論には非常に啓発された。もう一つの話題は,また次の機会に伺うことにしよう。

福島さんの話は,ぐるなびの創業者,滝会長のビジョンでもある。ベンチャーが何か新しいことで成功するには,改良的なイノベーションではなく,破壊的なイノベーションを目指すべきだという。ぐるなびでいえば,消費者に対しても,飲食店に対しても,そして自社の社員に対してもこれまでの行動様式の革命を迫るものでなくてはならないと。

そのためには,まだ誰も気づいていない,深海に沈んだ氷山に注目する必要がある。そして,革命を遂行する強靭な実行力が必要になるが,そこで注意しなくてはならないのが社会性の確保だという。事業がテイクオフしかけたその瞬間に,あえて社会的・倫理的観点から自らの行動を規制できるかどうか。それが,その後の持続的な発展が可能かどうかの鍵を担っている。

それで思い出すのが,有名な「Google が発見した 10 の事実」の1つ,「悪事を働かなくても金儲けはできる」ということばだ。このことばが印象的なのが,急成長した企業がしばしば社会的ルールを逸脱しがちだというイメージがあるからだ。ベンチャー企業家がとびぬけて強欲だからというより,急成長がバランスの取れた判断を難しくする,という面もあるだろう。

このことは,先人たちがすでに気づいていることでもある。福島さんは,岩崎小弥太の「所期奉公」ということばを挙げた。それは,企業人の動機が利他的であることを意味しない。ある案件に,それは偽善ではないかという意見があったとき,滝会長は偽善で何が悪いのか,と答えたという。動機よりも結果が大事ではないか,と。結果が社会的に善であるかどうかが問題なのだ。

社会的な観点から自己規制することの意義は,単に法令遵守とか,リスク回避だけではないと思う。革新的な事業であるほど不確実性が高く,意思決定に迷う場面が多くなる。そのとき何か頑固な信念があれば,迅速にブレのない意思決定ができる。しかもそれが社会的な価値が高ければ,自分も社員も自信を持って取り組める …などなど,講義の後で福島さんと議論。

それにしても福島さんとは長い付き合いになる。最初に会ったときは,それぞれ老舗の大企業に属していて,マーケティング・サイエンスの実務への応用に取り組んでいた。いま,お互いに全く違う立場にあるが,巡り巡って接点が生まれてきたようにも思う。ぼくの人生は無駄が多い遠回りのように思えるが,それがよかったと思えるのは,素晴らしい友人たちとの出会いがあったからだ。

さあて,とにもかくにも年末だ! ぐるなびが活躍するシーズンがやってきた!(それまでに片づけなくてはならないのはアレとコレと…)

ぐるなび―「No.1サイト」への道
滝 久雄
日本経済新聞社

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