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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

経済物理学と大学間格差

2008-12-26 17:28:40 | Weblog
今年は行動経済学,神経経済学(ニューロエコノミクス)ということばが席巻したような印象がある。特に行動経済学の啓蒙書の翻訳が数多く出版された。来年は,神経経済学の啓蒙書がいっぱい出版されるかもしれない。それに対する反動や,過大な期待に基づく失望も強くなると予想される。紆余曲折は避けられない。非主流的な経済学としてもう一つ見逃せないのが,経済物理学だろう。この分野で活躍されている研究者が日本に多いせいか,日本語で書かれた,包括的な教科書が今年出版されている。

経済物理学
青山 秀明,家富 洋,池田 裕一,相馬 亘,藤原 義久
共立出版

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第1章は確率・統計の基礎である。多重積分等の数式が並んでいて,文系の研究者や学生にとって最初のハードルは高い。しかし,2章ではべき分布,3章ではグラフ理論の入門と続き,7章ではエージェントモデルの数理が展開され,先に楽しみが用意されている。ざっと見たところ,各章ともていねいに説明されている感じがするが,自分一人で読み通すのはしんどいかもしれない。まして文系のゼミや授業で使うのは無理だろう。数学や物理学を学んだ人々と一緒に輪読したいという誘惑に駆られる。

各章末にあるコラムが面白そうだ。たとえば2章「べき分布」の場合,国立大学に対する科研費の配分額がべき分布に従うことが報告されている。ただし,推定されたパラメタからは,科研費の大学別の配分は競争的というより,独占的・寡占的であることが示唆されるという。また,教員1人あたり研究費は,大学規模(教員数)を1.15乗したものに比例すると。著者は,「これが国立大学の現実です」とこのコラムを結んでいる。

先日読んだ下條信輔氏の『サブリミナル・インパクト』には,学問の発展は「周辺」から起きると書かれていた。下條氏の専門,心理学がまさにそうであるという。経済学でも同じことがいえるだろうか。経済学者がどう思うにせよ,心理学,脳科学,物理学等々,かくも広範な分野の研究者が経済現象に注目していることには意味がある。そして,やはり経済現象の一部といってよいマーケティングや消費者行動の研究が,こうした大きなうねりのなかでどう影響を受けるのか(あるいは何らか影響を与えることができるのか)。

来年もまた,いろいろ勉強してまいりましょう。
 

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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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よろしくお願いします!! (ふーた・ろーさ1号)
2008-12-27 14:29:43
今年もこのBlogでたくさん勉強させていただきました(微笑)。
muzunoさんの研究のペース、本を読むペースに追いつけず、書籍のリストが充実する一方ですが(微苦笑)。
当面のあれやこれや(謎)を終えたら、徐々に読み進めていきたいと思います(再微笑)。

今回ご紹介下さった本は、読み応えがありそうですが。。。
チャレンジしてみたいです(微笑)。
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いやいや (mizuno)
2008-12-27 18:09:52
読む速度より買う速度が10倍以上上回っており,以前より狭くなって最初から蔵書が入りきれない研究室が,早晩とんでもない状態になりそうです。読む速度がそうはアップしない以上,読まずに捨てるしかありませんな… だったら買うな,というのが正しい考え方でしょうけど。
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そうでもないかと(微笑) (ふーた・ろーさ1号)
2008-12-28 09:21:52
やはり、買うこと(手元に置くこと)は大事ではないかと思います(微笑)。
ふーた・ろーさ1号がこの道(?!)に入った頃、先輩から「ふーた・ろーさ1号くん、暇なら図書館で資料を集めた方が良いよ。資料は読みたいときに手元にある方がよいから」とアドバイスされたことが記憶に残っておりますので(再微笑)。

とはいえ、資料の収集速度に読む速度が追いついていない&資料収集速度が下がっているのが、自分の問題です(微苦笑)。
同時に、仰るとおり、置く場所にも限りがありますから。。。(微苦笑)。
この二つ(三つ)の課題(!?)は、来年解決したいです(しみじみ)。
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