Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

サービス工学といかに連携するか

2008-12-15 21:34:39 | Weblog
授業の準備が追いつくか,ぎりぎりの状況だが,意を決して午後から東大で催されたシステム創成学学術講演会を聴きに行く。迷路のような通路を通って,古ぼけた階段教室に到着。椅子と机の間隔がえらく狭くて,太めの人には座れないと思われる。東大工学部にはこれまで,そんな体型の学生はいなかったのだろうか…。てなことはともかく,ぼくが聴いた「価値システムの創成」というセッションでは,以下のような発表があった。

菅野「価値創成のためのサービス認知」
竹中「ライフスタイルに基づくサービス設計」
古賀「設計・生産活動のモデリングに基づくモデル駆動型の統合DfX(Design for X)支援」
大武「ほのぼの研究所の開設:高齢社会のサービスイノベーション」
大澤「価値のセンサは創れるか?」

久々に聞く大澤先生の話は,チャンス発見以降の研究を概観していて興味深かった。アイデアの売り買いを通じてイノベーションの芽を探ろうとする「イノベーション・ゲーム」。そこでいかにアイデアが生成され,クリエイティビティが発揮されるかについて,アイカメラなどを使った認知科学的な研究も行われているという。アイデアの交換と統合がシミュレートされるという点では,まさにテクノロジー・ブローカリングのミクロ実験が行われている。知見の蓄積が楽しみだ。

他の3つの報告は,サービス工学といわれる領域に属する。今回初めて,そうした研究の最前線に直接触れることができ,いろいろ勉強になった。では,それらを総合して,サービス工学とは何かわかったかというと,「サービス」と呼ばれるものを「工学している」という以上には何もわからなかった。それは決して悪い意味ではなく,工学的アプローチの普遍性を示す証拠といってもよいかもしれない。

ただ問題は,サービスということばの含意が,それで収まるかどうか,ということだ。「価値システム」を標的にすることで,工学はパンドラの箱を空けてしまったような気がする。その結果,空中に舞い上がったすべてを工学で引き受けられるかというと,さすがに難しい。好意的に解すれば,ちゃんと文系が仕事する部分を残してくれている,ともいえるだろう。哲学までいかなくとも,本来価値の問題と密接に関わるはずの経済学との対話があってもいいと思う。

研究室に戻ると,1月に某所で開かれるサービス工学のワークショップに参加することがほぼ決まりそうなメール。各分野の立派な先生方が大勢ノミネートされているようで,なぜ自分が選ばれたのか不思議な気がする。もっと不思議なのは,何をしゃべっていいのかわからないのに引き受けてしまった自分だろう。「価値」について語る… ところまでは当面行きそうにないが,工学者が考えないことを考えないと参加する「価値がない」。

一方,ほぼ入れ替わりのように,3月に某所で開かれるサービス・イノベーションのシンポジウムについて「内定取り消し」の連絡がきた。ぼくの知名度の低さがクビになった理由のようだ。そういわれて喜んでいるのは,いかにもプライドがない証拠だが,実際スケジュールが楽になったのは確かだ。そもそも,今後どう「サービス」に関わっていくかも含め,自分の戦略を見直さなくては。そうしないと,誰にも「サービスできない」人間になってしまう。
 

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