Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

社会的ルールとしての消費

2010-03-31 23:18:05 | Weblog
東京財団で開かれた VCASI 公開研究会を聴講した。テーマは「社会のルールについてV: 社会と個人の相互性への実験的アプローチ」。プログラムは以下の通り:

青木昌彦(比較制度分析/VCASI、Stanford大学)
「社会のルールに関して、何故、どのように、超学際的なアプローチが必要か?」
山岸俊男(社会心理学、実験社会科学/北海道大学)
「ニッチ構築としての文化」
金子守(ゲーム理論、論理学/筑波大学)
「帰納的ゲーム理論とその実験」
藤井直敬(神経科学/理化学研究所)
「多次元情報への神経科学的挑戦」

このメンバーの豪華さについては,ぼくがいまさら何かいう必要はないだろう。そして,そこで交わされた刺激的な議論について,それをまとめる時間も能力もぼくにはない(上述の研究所から近くレポートが出るとのこと)。とりあえず,テーマである「社会のルール」について,主宰者の青木昌彦氏が冒頭で語った定義を記しておこう:
SOCIETAL RULES: Commonly-cognized, salient features of the ways by which the societal game is recursively played and expected to be played.
このなかで重要なのは commonly-congnized(共通に認識されている)という部分。この定義にしたがえば「やっぱいま買うなら walkman じゃなく iPod じゃね?」というのも,ある範囲では社会的ルールになる。ただし,それは公的領域と私的領域の間の,ゆるい意味で社会的な,複雑で多義的であるがゆえに面白い現象なのである。

ソーシャルメディアが注目を浴びるマーケティングにとって,「社会」という概念は改めてより深く考えるべきものになっている。上述の研究からインスパイアされたことを含め,ぼく自身の「社会」に関する議論は後日また(これまた,いつのことやら・・・)。

カープ「失敗の本質」研究

2010-03-31 00:34:10 | Weblog
昨夜午後7時から,二宮清純氏が主催する東京カープ会に友人とともに参加した。今年は第6回になるが,ぼくは初参加である。ゲストは元カープの川口和久氏,小早川毅彦氏のほか,広島でカープに関する報道や出版に関わってこられた田辺一球氏,上田哲之氏である。最初はやはり,個々の選手が今年,どれだけ活躍しそうか,という話になる。抑え投手をどうする,外人選手をどうする,ショートはどうする,野村新監督の采配はどうか,などなど。しかし,議論が進むにつれ,問題はもっと深いところにあることがわかってきた。

広島カープは優勝どころか,リーグAクラスからも長く遠ざかっている。今回のゲスト,川口,小早川両氏の現役時代にはつねに優勝争いをするチームだったし,赤ヘル旋風,江夏の21球といった数々の神話も持っている。そのチームがここまで弱くなったのは,お金持ちの球団のように大型補強ができないから,というのが昨年までの言い訳だった。しかし,巨人で育成枠出身の選手が活躍するようになると,その言い訳は通用しなくなった(育成枠に多く選手を抱えるのにもカネがかかる,という新たな言い訳もあるわけだが・・・)。

カープはなぜ二軍まで弱いのか,ドラフト上位で獲得した選手がなぜ活躍していないのか,という二宮氏の問いに,小早川氏は各選手の個別能力は必ずしも劣っていないものの,それを総合的に発揮する力に欠けている,という趣旨のことを述べた。田辺氏は取材した経験から,期待されて入団した選手の飛距離が,二軍で時間を過ごすにつれ短くなっていると証言する。川口氏は,強い時代に比べた練習量の減少や,怖いコーチやベテラン選手の不在などを指摘する。そうした文化の断絶がいつのまにか起きてしまったと。

このような選手の問題は,おそらくどの球団にもある。カープでその傾向が顕著だとしたら,スカウティングや育成のどこかに問題があることになる。カープは地方の貧乏球団でありながら,エリートではないが野性的な選手たちを擁して毎年のように優勝を争うチームになった。そうした偉大な成功経験がむしろ災いしているのか,いつのまにか弱小チームとしての位置に安住するようになった。一方で,大企業がスポンサーになっているとはいえ,パリーグでは地元で圧倒的な人気を持つ地方球団が増え,注目される選手もが増えている。

地方が活性化する。弱いものが強くなる。小が大を食う。雑草がエスタブリッシュメントを打ち破る。そうしたダイナミズムが,いまほど求められている時期はない。カープがなぜ衰退し低迷したままなのかを分析し,そこから抜け出す方途を探ることは,一地方球団のファンの願いを超えて,もっと大きなポテンシャルを秘めていると思う。そのために使える戦略,組織や人事の管理,マーケティング,研究開発,管理会計やファイナンス等々の方法を見出すことで,全体として衰退しがちの日本経済を活性化できるのではないか。

もはや幻想を持つべきではない。偶然が積み重なり,神風が吹いてカープが優勝するなどと夢見てはならない。それは問題の解決を遅らせるだけだ。なぜだめになったのか,どこに誤りがあったかを徹底的に洗い出す。そういう身を切るような作業を通じて,厳しい資源制約のもとで能力を極限まで高めて戦わなくてはならない組織の生きる道が見えてくる。それは誰が悪いとか,誰を代えろとかいう単純な犯人探しではなく,もっと普遍性を持つ問題だ。たとえば,以下のような共同研究のようなことができないだろうか。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

戸部 良一,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎,
中央公論社


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ただし,方法論は少し異なってくるかもしれない。野球の世界は,実は数字に満ちている。試合のスコアや選手の成績を計量分析する「セイバーメトリクス」が注目を集めているが,そこに球団の財務状態や観客動員数のような経営数字も加え,まずは外形的な事実をつかんだうえで,内に潜む問題を探っていくのがよい戦略だと思う。

メジャーリーグの数理科学〈上〉 (シュプリンガー数学リーディングス)

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