Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

進化経済学会@四天王寺大学

2010-03-28 23:29:19 | Weblog
大阪は四天王寺大学で開かれた進化経済学会に参加。この大学のサイトによれば,そのルーツは 593年に聖徳太子が開いた四天王寺敬田院まで遡るという。ある意味,日本最古の大学かもしれない。天王寺から近鉄で藤井寺に行き,そこからバスに乗る。そのまま電車に乗っていくと河内長野へ。大阪のディープゾーンがそこにあると想像する。会場の受付には富田林市のグッズがたくさん置いてあったので,ここは富田林市かと思っていたが,本当は羽曳野市だった。じゃあ,あのコーナーは何だったのだろう・・・。

時間の読みを誤って遅刻。井庭崇さん(慶応大学)の「創造システム理論の構想」を途中から聴くことになった。ルーマン他のシステム理論を超えるものとして,創造システムが構想される。そうした理論上の成果について,ぼくに評価する力はない。ただ,創造という行為をできる限り一般化して捉えようという試みは面白い。あとで伺ったところでは,コラボレーションの研究の発展として,この研究があるという。ぼく自身が関わる,クリエイターインタビューが目指すものと,どこか通じるものがあると思った。

夕方から「産業・企業組織の進化」セッション。冒頭,藤本隆宏先生が最近のトヨタをめぐる問題に言及しながら,この部会の趣旨について語る。産業と企業というメゾレベルの単位は,経済学と経営学がともに研究対象とする領域だ。しかし,経営学が特別なのは,その下位にある「現場」「フィールド」を扱う点にあるという。これは,東大経営学の中心命題といってよいだろう。マーケティングでもそうした研究戦略はあり得るだろうか・・・マーケティングにおける現場とは何であるべきかと自問してみる。

次いで丹沢安治先生,久保友一さん(いずれも中央大学),稲水伸行さん,福澤光啓さん,鈴木信貴さん(東京大学)が次々と企業や産業に関する実証研究を発表。共通のキーワードは「ケイパビリティ」「アーキテクチャー」等々である。そうした概念の1つの源がネルソン-ウィンターだと聞くと,修士課程の頃,感動して読んだことをなつかしく思い出す。彼らの研究は,エージェントベース・モデリング(ABM)の原型になった。しかし,その後彼らは,ABM よりは記述的な実証研究に重点を移していった。

経済変動の進化理論

リチャード R.ネルソン,シドニー G.ウィンター,
慶應義塾大学出版会


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このセッションの発表者のうち,稲水さんは ABM の使い手だし,藤本先生も現在「兎と亀」の競争の ABM に取り組んでいるという。つまり,事例研究と ABM の間には親和性があるようだ。他の社会科学と同様,経営研究は多くの場合,稀少事例に基づいた研究を迫られる。そこから,事例研究を通じて統計学的にはあり得ない一般化を行う。そのことと ABM は,素朴な経験主義を超えるという点で共通している。そうだとすると,ぼくに欠けているのは,濃厚な事例研究を行う能力と意欲かもしれない。

経営研究であれ消費者研究であれ,十分な規模のデータが得られることもある。その場合,正しい統計学的手続きにしたがって分析するのは当然だが,その分析結果をどこまで時間や空間を超えて普遍化していいのだろうか。社会科学における計量研究の多くは,それにどこまで一般性・再現性があるかを検証せず,一般性のある命題のごとく解釈していないだろうか。だとしたら,それはデータを用いつつも,個別的な現象しか分析していないという意味において事例研究と本質的に変わらないのではないか。

さまざまな発表を聞きながら,いろいろ考えさせられた。自分がぎりぎり理解できる(つまり正確にはかなり理解できない)範囲で,ふだん自分が過ごす世界とは異質な場所に身を置くことは,刺激に富んでいる。たとえぼくが,産業とか企業とか組織とか,あるいは生産の現場とかにほとんど関心を持たないとしても。おかげで月末に期限の迫った論文の作業は犠牲になってしまったが・・・。