Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

第10回 MAS コンペティション

2010-03-06 12:16:57 | Weblog
第10回を迎えたMASコンペティション。審査委員長の山影先生がおっしゃるように,甲乙つけがたい発表が続く。寺野先生の,5年前なら全部入賞しただろう,ということばも決していい過ぎではない。発表のレベルが揃ったことと裏腹に,ダントツに優れた発表もなくなった。エージェント・シミュレーションを用いた研究は,成熟期に達したということだろうか。

その思わせるのが,人やクルマの移動を扱うシミュレーションだ。今回もそうした発表が多く,過去の研究を踏まえて,いずれも高いレベルに達している。エージェントの行動を客観的にルール化しやすいことは強みであったが,それがもしかすると,制約になってきているのか。それとも,残された課題のなかに潜む飛躍の可能性に,みんな気づいていないのか。

今回,部門1(学生による挑戦)で優秀賞に輝いたのは,高校生であった。artisoc を中高の理科教育に使っていくという路線は大いにアリだと思う。その場合,人間やクルマをエージェントにするだけでなく,原子や遺伝子,あるいは生物の種や惑星をエージェントとするようなモデルを作ると面白そうだ。そんな試みは,もうすでに存在しているかもしれない。

残念なのは,今回,マーケティング関連の発表が1つもなかったことだ。模範になるような既存研究が,artisoc のライブラリのなかにないためだとしたら,ぼくにも責任の一端があることになる。しかし,会場にはマーケティングサイエンス学会や商業学会のメンバーが数人聴講にいらっしゃっていたので,今後,この領域の研究が活発化すると期待したい。

コンペの最後の部で,artisoc 次期バージョンの説明があった。その目玉は,3D表示や,特定エージェントの視野から「世界」を見ることができるといった機能だ。こうしたプレゼン面での拡張をいかに活用するかが,今後このコンペで入賞するための1つの鍵となるかもしれない。さらにその先には,並列計算も視野に入っているようで,まだまだ進化が続きそうだ。

ぼくにとっては,受験に数学が必要な国立文系(しかも東大)で開発されたツールを,数学嫌いの私立文系の学生たちに使ってもらえるかどうかが課題である。もちろんその前に,その必要があるかどうかを問う必要がある。それは,文系学生に数理的・工学的センスを植えつける,というのとは違う。それならむしろ,理工系の学生が経営について学べばすむことだ。

では,それは何なのか。すでにはっきりした像が思い浮かんでいるわけではない(当たり前だ)。しかし,おぼろげに方向は見えている(勘違いだとしても)。同じようなことを考えていそうな研究者も何人か目星がつく。クリエイションのためのシミュレーション,論理矛盾だという批判も予想されるが,矛盾しているからこそいいんだと居直るつもりだ。

コンペ後のパーティでは,優秀なエンジニアたちを捕まえては twitter の話をした。早く何か新しい研究がしたい。その前にアレもコレもあるわけだが・・・。