Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

政権交代と twitter の奇妙な出会い

2010-03-11 16:46:00 | Weblog
昨年9月の政権交代で何が変わっただろうか? ぼくにとって「目に見える」変化といえば,マスメディア,あるいはそこでのジャーナリズムの「見え方」にそれがあったと思う。政権交代と twitter の普及は,たまたま同じ時期に生起した。その結果,新政権をめぐるさまざまな言論が,twitter 上でも活発に飛び交った。それらはしばしば参照すべきブログを引用するため,花の間を飛び交う蜜蜂のように,情報をあちこちに伝播させる役割を果たした。

なかでも政権交代直後に起きたのが,首相の記者会見を記者クラブ以外にも公開するという「公約」が破られたことだ。それに対する批判が,フリージャーナリストたちによって,twitter やブログなどで(あるいは一部雑誌で)活発に展開された。これは政府に対する批判である以上に,既存のメディアに対する批判であった。これらの問題はネット上ではさかんに議論されたが,新聞やテレビが取り上げることはほとんどなかった。完全に黙殺に近い状態だったといえる。

もう一つは,小沢一郎氏の政治資金疑惑に関する報道である。新聞・テレビはほぼ一様に小沢氏を非難し,「責任」をとるよう迫っている。一方,ネットでは小沢氏への非難から応援まで,さまざまな議論が渦巻いている。検察のリーク情報をそのまま伝えているのでは,というメディアへの批判も起きた。ここで注目したいのは,報道内容の当否以上に,それがマスコミ各社間で同質化したように見えることである。元からそうであった,といえばそれまでだが・・・。

佐々木俊尚氏の新著は,これらの問題も含め,この半年間,マスメディアとネット上の言論がいかに乖離し,またネットの言論がしばしばマスメディア側のジャーナリストにはない視点と多様性を持っていたかを事例を挙げて論じている。政権交代という稀有な事件と,twitter という類例のないメディアの登場が交錯して,無視できない変化が起きたのだ。マスメディアがある事件を無視しても,それがむしろ,ネット上での情報伝播を促進しかねない状況になったのだ。

マスコミは、もはや政治を語れない 徹底検証:「民主党政権」で勃興する「ネット論壇」 (現代プレミアブック),
佐々木 俊尚,
講談社


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それと併行して,新聞とテレビ(特に前者)が産業として大変な危機に直面していることも見逃がせない。以下の東洋経済の特集を見ても,この業界で勝ち組といえるのは読売新聞=日本テレビぐらいである。そうした状況が,大手マスコミ各社を同質化させる方向で働いたのではないだろうか。そして,自分たちの企業としての利害に,より正直にならざるを得ないほど,余裕が無くなってきた・・・。しかし,それがかえってマス離れを起こすとしたら,悲しいことだ。

週刊 東洋経済 2010年 2/20号,

東洋経済新報社


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佐々木氏の著書が示すように,ネットには大きな可能性があるが,危惧すべきリスクもある。だとしても,マスメディアの役割を正当に再評価するためには,あえてネットを中心に考えるしかない時代に入ったと思う。したがって,マーケティングにおいても,twitter を媒介に活性化しつつあるソーシャルメディアのことをより深く研究する必要がある。確かにまだユーザ数は全人口に比べるとそう多くない。だが,そこに,そう遠くない未来の中心があるように思われる。