Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

iPad が問うマーケティングの基本

2010-02-22 15:00:08 | Weblog
少なからぬ Apple ファンがすでに iPad の購入を決意しているのは当然として,問題はそうした層を超えて売れるかどうかだ,というのは以下の記事がいう通り。そこにどんな戦略があり得るかを考えることは,マーケティングの恰好の演習問題になりそうだ
CNET Japan: 「iPad」のマーケティング戦略を考える--アップルファン以外にも訴求するには
iPad が「マニア」を超えて普及するうえで最初に直面するのは「人々が行動様式を変えようとするだろうか」という問題。
消費者は、フルサイズのバーチャルキーボードでタイプしたいと思うだろうか。また、書籍(さらには雑誌や新聞)を電子形式で購入することに満足するだろうか。あるいは、もっと重要なことだが、実質的に自分がすでに所有している複数のデバイスの機能を組み合わせた製品に、お金を払うだろうか。
それが可能かどうかは,ターゲティングとポジショニング次第。iPad が「テクノロジへの恐怖心はないが、それほど自在に使いこなせてはいない人々(つまり、米国のベビーブーム世代の人々)」をターゲットとして,「ほかのどんなスマートフォンよりもずっと大型のスクリーンを備えた、携帯用インターネットデバイス」というポジショニングをすれば,新規顧客の開拓に成功するのではないかという。

別の戦略として提案されるのが「iPadを人々がすでに慣れ親しんでいるものと比較し、同時にその体験を改善すると約束すること」である。つまり,Kindle の潜在顧客に,こちらはカラー表示できるとか,インターネットの端末になるとか, iPod/iPhone の機能もあるとかいって差別化する。それは,iPhone が携帯電話に音楽プレイヤーやカメラ,ウェブブラウザの機能を付けたのと同じ戦略だという。

iPad について,他にもいろいろなポジショニングがあり得る。堀江貴文氏は自身のメルマガ vol.004で,「パソコンで現在行っている作業が全てiPad+iPhoneで完了する」と述べている。だとすれば,持ち運びが便利で操作もしやすい,ほぼオールマイティな情報端末であり,ノートPCを代替するものというポジショニングも考えられる。どれが最もよい戦略かを議論してみると面白い。

Apple は今後,いずれかのポジショニングに絞り込んで,統合的なキャンペーンを展開するのだろうか。教科書的にはそうするはずだが,そうしないかもしれない。なぜなら Apple は,これまで情緒的なポジショニング(ブランディング)に注力し,機能的なポジショニングは結局のところ顧客の手に委ねてきたように思えるからだ(意図的というより結果的にそうなった?)。

iPad をどう使うかは,本来的に顧客の自由である。顧客が好きなように意味づけしたものを,企業が事後的にポジショニングとみなす適応的アプローチが,現代的にはより頑健なのではないか。マスキャンペーンの全盛期には一貫したメッセージ(ワンボイス)が重視された。しかし,今後は「玉虫色」のコミュニケーションがむしろ重要になってくるのでは・・・などと思う。まだ仮説以前の段階だが・・・。