Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

すべては一匹のネズミから

2010-02-09 08:55:21 | Weblog
MBFでウォルト・ディズニー・ジャパンのキャンドランド社長の講演を聴く。冒頭引用されたのが,以下のウォルト・ディズニーのことばだ:
"I only hope that we don't lose sight of one thing - that it was all started by a mouse." 
つまり,すべてはネズミ一匹から始まったのだと。世界最大のコンテンツビジネス,そしてブランドビジネスのディズニーであるが,その原点はそこにある。ただ,そこで話を終わらせてはつまらない。ネズミ一匹から始まるビジネスの創造が,ディズニーを超えて繰り返されるかどうかが,ぼくの関心事だ。

ディズニーはいまや,メディア・コングロマリットでもある。ただし,ABC や ESPN は異なるセグメントに対応したビジネス上のポートフォリオで,必ずしもディズニー・ブランドと統合されているわけではないという。ディズニーという企業は非常にプラグマティックだ。キャラクターのローカライゼーションについても,年々柔軟に取り組んでいる。興味深いのは,日本発のディズニー・キャラクター「ファイアボール」だ。一般的な認知度はまだ低いが,熱烈なファンを持っているようだし,今後国際進出する可能性もある。

日本発のコンテンツが,ディズニーの手で世界に流通するという時代。また,今回の講演では話題にならなかったが,ディズニーの最大株主スティーブ・ジョブズと通じた iPad との連携も大きな可能性を持っている。そこで新たに生まれてくる「生態系」で,日本企業もまたニッチを見出していくことになるのだろう。そこで日本企業がいかに成長できるのか。ディズニーの「ネズミ一匹から始める」ということばを噛みしめる必要がある。グローバルに巨大化したビジネスが,新たなネズミの登場を促進するのか妨げるのかにも注意したい。

この講演が開かれている会場の10階下で,「ものづくり寄席」が開かれていたことをあとで知った。そのお題は「「本当に」新しいものの 開発活動とは?~ゲームソフト産業の事例に 見る開発生産性のディレンマという現象」だ。同じような問題にディズニーやピクサーもまた直面するのか。ディズニーが取り入れようとしている一種のグローカリゼーション戦略がいずれ一種のオープン・イノベーションにつながっていくとしたらどうなるか。それは日本のコンテンツ産業にとって機会なのか,脅威なのか。ぜひ専門家に聴いてみたい。