Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

東大マーケティング・ワークショップ

2010-02-03 15:14:38 | Weblog
昨日,久しぶりに東大(本郷)に行った。赤門の周辺は工事中で,経済学研究科棟に行くには遠回りする必要があった(近道があるようだが,つい赤門のほうへ行ってしまう)。今回は,Korea University Business School の Janghyuk Lee 氏による発表。タイトルは "Local Networks As Early Predictors of Innovation Adoption," 共著者の筆頭は Jacob Goldenberg となると絶対聴くしかない。

この研究では,韓国のSNS "Cyworld" のデータを用いて,スノーボールサンプリングで社会ネットワークを構成,Girvan-Newman の方法でクラスタリングする。そして,このサイトで流通するアイテムの普及規模と速度を,個人レベルとクラスタレベルの変数で予測しようとしている。その推定には,階層線形モデルが用いられる。研究の主な目的は,普及の先行指標となるクラスタを見つけることである。

ドリームチームによる共同研究なので,ぼくごときが何かいえる筋合いのものではないが,少しだけ疑問に思ったのはクラスタリングの是非である。クラスタ内部での影響関係がより重要,というのはその通り。ただ,クラスタ間の情報伝播は無視していいのかどうか・・・。もう一つ気になるのはネットワークの多重性。関心に異なるコミュニティがあるとしたら,クラスタは互いに重複しているのでは・・・。

そんなことをいい始めるとキリがないことはよくわかっている。最近,消費者間相互作用の研究では,SNS を分析対象にするものが増えている(昨年の大西さんの発表がそうだ)。化け物のようにでかいデータを相手に,どこまで異質性を踏まえた分析をするのか。データの大きさが分析手法を制約するという皮肉な状況に研究者たちは陥っている。ミクロな観察に基づく研究も同時に必要だと感じる。

懇親会のあと,別れ際に Lee さんはみんなにケルンで会いましょうといった。その場にいたほとんどは,ケルンで開かれる Marketing Science Conference に参加するという。ぼくが参加するには,明日中にアブストラクト(英文250字)を書く必要がある。それを書くこと自体はできるとしても,6月までにきちんとした分析ができるか,またそうすることが研究計画上適切か,踏ん切りがつかない。