Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

新国立劇場オペラ松村禎三作曲「沈黙」Bキャスト初日批評 中編(No.2008)

2012-02-28 21:36:50 | 批評
 私高本は

新国立劇場は「ナマ」は全く考慮しないオペラハウス(No.1988)


と言う記事を1月28日に掲載した。
 新国立劇場側はもちろん読んでいて、善後策を講じた。つまり

いかに「ナマに近い音響」で「沈黙」を上演するか!


である。6列から9列の座席全日売り払ってしまったし(爆

 「沈黙」は松村禎三唯一のオペラであり、猫頭私高本の記憶によれば「サントリー音楽財団」委嘱作品で、日生劇場にて世界初演。つまり、『お金を頂いた上に、上演にかかるあれやこれやの費用を一切支払わないで世界初演される! と言う好条件』であった。このような自体に遭遇すると、作曲家は大概「無闇に大編成」になるのが常。松村禎三だけでなく、ストラヴィンスキー も全く同じである。「火の鳥」から始まる「3大バレエ」は4管編成や5管編成の巨大編成だが、2管や3管の「フツーのオケ」で演奏できるように(「春の祭典」以外は)小編成に編曲もされて出版されたほどである。

 「沈黙」世界初演時の「ライブ録音」も発売されているが、日生劇場のピット(前3列の座席を外すだけ)で全楽器が入ったのかどうかは不明。弦楽器が14型だったのか? 6型だったのか? も不明。前回の 新国立劇場主催公演(大劇場公演)を聴く限り、適切な処理がされた伝統は無かったようである。

 ・・・で、安易にチケット購入者には何も告知せずに「マイク&スピーカ使用」と相成ったワケだ(爆


 座席のすぐ前がピットなので、覗き込んだ。(以下後編に書きます)
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シューベルト連弾概論 5(No.2007)

2012-02-27 21:43:38 | 作曲家・シューベルト(1797-1828

『知られざる名曲の宝庫 = 後期シューベルト連弾曲』


  後期連弾曲全て完成作品=14(D733,D818,D823,D824,D859,D885,D908,D928,D940,D947,D951,D952,D968A,D968B)の全貌は全く知られていない(爆

D733,D818,D823,D824,D968A,D968B の6作品の「ドイチュ番号」がずれているので、「8作品しか作曲しなかった」かのように見えるのが最大原因


である。ちなみに D733,D818,D823,D824,D968A,D968B は、D824 を除き、5作品が「シューベルト連弾曲を代表する名作」である! ベーレンライター新シューベルト全集をもってしても、「自筆譜無し作品」問題が大きく横たわっているのである!

後期シューベルト連弾曲 推定作曲順



  1. D859 ロシア皇帝アレキサンダース1世の逝去を弔う大葬送行進曲 ハ短調 作品55 1825.12.01以降作曲 1826.02.08出版


  2. D818 ハンガリー風ディベルティメント ト短調 作品54 1826.04.08出版


  3. D823 ソナタ ホ短調(フランス風ディベルティメント)作品63&84 1826.06.17第1楽章出版


  4. D824 6つのポロネーズ 作品61 1826.04作曲 1826.07.08出版


  5. D733 3つの軍隊行進曲 作品51 1826.08.07出版


  6. D885 ロシア皇帝ニクラウス1世即位を祝しての英雄的大行進曲 イ短調 作品66 1826.09.14出版


  7. D908 エロールのオペラ「マリー」の主題による8つの変奏曲 ハ長調 作品82 1827.02作曲 1827.09.03出版


  8. D928 子供の行進曲 ト長調 1827.10.12作曲


  9. D968A 序奏と自作主題による4つの変奏曲(自筆譜、筆写譜、生前並びに没直後出版無し)ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 ハ長調 D934 直前の作曲と推定(=1827.11)


  10. D940 幻想曲 ヘ短調 作品103 1828.01 - 04作曲 1829.03.16没直後出版


  11. D947 アレグロ イ短調 1828.05作曲


  12. D952 フーガ ホ短調 1826.06.03作曲


  13. D951 ロンド イ長調 1828.06作曲 1828.12.11没直後出版


  14. D968B 2つの性格的行進曲 ハ長調 1829.12.19没直後出版



 「重い作品 と 軽い作品」「委嘱作品 と 自発的作曲作品」が混在しているのが特徴。D968A以降作品は、若過ぎる死が生前出版に間に合わなかった。


 佐伯周子 + 草冬香 が演奏する曲目周辺をご紹介しておこう。

ロシア皇帝の葬式(D859)と戴冠式(D885)を記念しての行進曲は『ベートーヴェンがロシア皇帝に献呈してウィーン来訪時に多額の謝礼をもらった』曲に習っての作品。ベートーヴェン交響曲第3番「英雄」第2楽章葬送行進曲ハ短調と交響曲第7番第2楽章葬送行進曲イ短調が手本


 「本当はオーケストラ曲で出版社から委嘱して欲しかった!」ことがありありと感じられる名曲だ。

軍隊行進曲D733 は「出版社ディアベリとの仲直り」第2弾


である。作品45~48 の「宗教曲」4連作出版を条件に、シューベルトはディアベリと仲直りする。作品49&50のピアノソロ舞曲集2集を 1825.11.21出版し、その次に「3つの軍隊行進曲」作品51 を出版した。大当たりになったことは皆様御存知の通りである!

2つの性格的行進曲D968B は、「2曲続けて演奏されるが前提」の曲で、シューベルト連弾曲の最後の曲と推定


 第2番にだけ、大きなコーダがあり、第2番だけ単独演奏すると座り心地があまり良くない。「軽いシューベルト連弾曲」の代表作。


佐伯周子 + 草冬香 の演奏がどれほど素晴らしいのか今からワクワクする!
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シューベルト連弾概論 4(No.2006)

2012-02-25 20:41:14 | 作曲家・シューベルト(1797-1828

未完成交響曲から「ザウアー&ライデスドルフ専属契約時代」 = シューベルト中期後半


  「オペラの時代」が終わっても、オペラ作曲をシューベルトは止められなかった。1823.10.02 までオペラ作曲を続けた。(結局、1820年の2つのオペラ以外はシューベルトオペラは生前上演されることは無かった。)だが、この期間に重大な変化があった。

1823.04.10 - 1824.12.18 ザウアー&ライデスドルフ専属契約作曲家 となる


 實吉晴夫 訳・解説「シューベルトの手紙」(1997メタモル出版)P111 -115 に『1823.04.10付 カッピ&ディアベリ社宛書簡』に強い口調で詰め寄った手紙が掲載されており。この手紙は極めて有名だが、大切なことが為されていない。少なくとも私高本は読んだことが無い。それは

1823年4月10日は、シューベルト「作品20 3つの歌曲」が ザウアー&ライデスドルフ社から出版されたまさに当日!


の事実。カッピ と ディアベリ は、他の出版社から「シューベルト歌曲」がしかも「作品番号付」で出版されたのを見て、どんなに驚いたことか!!

 連弾曲について、出版順(作品番号順では無い!)に並べ替えて見よう。出版されなかった曲は後に推定作曲順で並べてある。

ザウアー&ライデスドルフ専属契約時代作曲の連弾曲出版順一覧



  1. D617 作品30 1823.12.30ザウアー&ライデスドルフ出版 ソナタ 変ロ長調


  2. D602 作品27 1824.12.18ザウアー&ライデスドルフ出版 3つの行進曲


  3. D813 作品35 1825.02.09ザウアー&ライデスドルフ出版 自作主題による8つの変奏曲変イ長調 Zelis 1824.06作曲の証拠の手紙あり


  4. D675 作品34 1825.02.28カッピ出版 序曲ヘ長調


  5. D819 作品40 1825.05.07ザウアー&ライデスドルフ出版 6つの行進曲


  6. D773 作品52(後に作品69に訂正)1827.02.20ザウアー&ライデスドルフ出版 「アルフォンソとエレストレッラ」序曲


  7. D812 生前未出版 1824.06Zelis作曲 ソナタ ハ長調


  8. D814 生前未出版 1824.07Zelis作曲 4つのレントラー(実際は6つのレントラー)


  9. D798 生前未出版 自筆譜に年月日記入無し 「フィエラブラス」序曲



 これは「あくまで出版順」である。だが重要な資料である。

ザウアー&ライデスドルフ は「出版した連弾曲」は「作曲順 = 受け取った順」通りに出版している!


ことに注目! シューベルトは「5で割り切れる数字の作品番号を早めに出版する癖」が生涯抜けなかった。「多く出版しているように見せかけたかった」ためと推測される。前の一覧の内「ザウアー&ライデスドルフ出版だけ」を抽出してみよう。

ザウアー&ライデスドルフ社専属時代作曲の『ザウアー&ライデスドルフ社出版』一覧



  1. D617 作品30 1823.12.30ザウアー&ライデスドルフ出版 ソナタ 変ロ長調


  2. D602 作品27 1824.12.18ザウアー&ライデスドルフ出版 3つの行進曲


  3. D813 作品35 1825.02.09ザウアー&ライデスドルフ出版 自作主題による8つの変奏曲変イ長調 Zelis 1824.06作曲の証拠の手紙あり


  4. D819 作品40 1825.05.07ザウアー&ライデスドルフ出版 6つの行進曲


  5. D773 作品52(後に作品69に訂正)1827.02.20ザウアー&ライデスドルフ出版 「アルフォンソとエレストレッラ」序曲



 おかしなことに気付かれた読者の方も多いことだろう。そう、

出版が相当に遅い曲が少なくとも2曲ある(D819,D773)


  名作「美しき水車小屋の娘」作品25 の時を思い出して頂きたい。

  1. 1823.10(遅くとも11月)「美しき水車小屋の娘」作曲完了。即時ザウアー&ライデスドルフ社に楽譜渡す


  2. 1824.02.17 第1巻(No.1 - 4)ザウアー&ライデスドルフ出版


  3. 1824.03.24 第2巻(No.5 - 9)ザウアー&ライデスドルフ出版


  4. 1824.08.12 第3 - 5巻(No.10 - 20)ザウアー&ライデスドルフ出版



 う~ん、名作「美しき水車小屋の娘」でさえ、作曲後10ヶ月以上経過してからの出版完了。さらに言えば、弦楽四重奏曲第14番ニ短調「死と乙女」D810 を作曲依頼しておきながら出版拒絶、なんて愚挙にも及んでいる(泣

 D813の変奏曲は間違いなく1824.06に Zelis にて完了しており、当地で演奏され大好評を得たことを兄フェルディナンド宛の手紙で報告している。すると

D813変奏曲 は、作曲 → 出版 に8ヶ月掛かった計算


になり、「美しき水車小屋の娘」と大体合致する。つまり(最初期の気合が充満していた時期を除けば)

ザウアー&ライデスドルフ は、シューベルトから楽譜を受け取ってから出版までに平均8~9ヶ月食っていた計算


となる。「アルフォンソとエレストレッラ」序曲は「専属契約」放棄されて呆然としたのが、さらに遅延した原因だろうが。

ザウアー&ライデスドルフ専属契約時代作曲の連弾曲『推定作曲順』一覧



  1. D617 作品30 1823.12.30ザウアー&ライデスドルフ出版 ソナタ 変ロ長調


  2. D602 作品27 1824.12.18ザウアー&ライデスドルフ出版 3つの行進曲


  3. D812 生前未出版 1824.06Zelis作曲 ソナタ ハ長調


  4. D813 作品35 1825.02.09ザウアー&ライデスドルフ出版 自作主題による8つの変奏曲変イ長調 Zelis 1824.06作曲の証拠の手紙あり


  5. D814 生前未出版 1824.07Zelis作曲 4つのレントラー(実際は6つのレントラー)


  6. D819 作品40 1825.05.07ザウアー&ライデスドルフ出版 6つの行進曲


  7. D773 作品52(後に作品69に訂正)1827.02.20ザウアー&ライデスドルフ出版 「アルフォンソとエレストレッラ」序曲


  8. D798 生前未出版 自筆譜に年月日記入無し 「フィエラブラス」序曲


  9. D675 作品34 1825.02.28カッピ出版 序曲ヘ長調



 この時期の連弾曲は「生前出版」された曲は全部が全部現在では自筆譜&筆写譜が一切残っていないので、「作曲年月日詳細」は不明な点が多い。そして、これだけは明言できるだろう。

序曲D675 を除く「シューベルト中期後半の連弾曲」は『ザウアー&ライデスドルフの委嘱作品』だったが、出版拒絶された作品が3つもあった!


である。
 シューベルトは「出来る限りの対応策」を取った。

D814 の「続きの第5番&第6番」を『ザウアー&ライデスドルフ社専属時代からの解放』作品である「作品33 ドイツ舞曲とエコセーズD783」に2手ピアノに編曲して混ぜてカッピ社から出版した!


である。これも「ドイチュ番号が逆転」しているので、私高本以外は全員見逃しているんだよな~(泣


 こんなに書いたが、佐伯周子 + 草冬香 は今回ジョイントリサイタルでこの時期の作品は演奏しないじゃないか!!!
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シューベルト連弾概論 3(No.2005)

2012-02-24 22:43:35 | 作曲家・シューベルト(1797-1828

中期前半のシューベルトは、なぜ連弾曲を作曲しなかったのか?


  中期前半 = 1819.11 - 1822.09 ミサ曲第5番変イ長調作曲期間&「オペラの時代」 D678 - D758 は、連弾曲が1曲も無いことは前述の通り。実は連弾曲だけでなく、「ソロピアノソナタ」も1曲も作曲していない。ピアノ曲はわずかに舞曲が1集だけ作曲されただけである。(6つのエコセーズD697。1820.05)
 実は器楽曲に対して信じられないほど興味が無かった時代であり、交響曲2曲(D708A,D729)と 弦楽四重奏曲1曲(D703)があることはあるのだが、全部未完成のまま放置された次第。
 では何を作曲していたのか? の疑問があるだろう。

怒涛の「オペラ時代」 = シューベルト中期前半



  1. ミサ曲第5番変イ長調D678 1819.11 -1822.09


  2. 「ラザロ」(宗教劇 or 復活祭カンタータ or 舞台上演用オラトリオ)D689 1820.02


  3. オペラ「魔法の竪琴」D644 1820.04 - 08


  4. オペラ「シャクンタラー」D701 1820.10 -


  5. オペラ「アルフォンソとエレストレッラ」D732 1821.09.20 -1822.02.22



 これだけオペラに集中作曲した時期はシューベルトはこの時だけである。原因ははっきりしており、

1820.06.14オペラ「双子の兄弟」D647初演 & 1820.08.19オペラ「魔法の竪琴」初演 で「オペラ作曲家に成れる夢」がかないそうだった!


からである。
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シューベルト連弾概論 2(No.2004)

2012-02-22 14:37:16 | 作曲家・シューベルト(1797-1828

「声楽無しのミサ曲」を目指した(?)シューベルト幼少期の連弾幻想曲


  何を手本にしたのか? さえ未だ解明されていない「幼少期の幻想曲」4曲。(アインシュタインは、モーツァルトの時計オルガン小品 K594 & K608 を挙げるが説得力無し)、特に最後の D48 は、きちんとした弦楽四重奏曲を4曲(D94,D32,D36,D46)作曲した後なのに、冒頭調性が回帰しないで終曲してしまう点について、「誰をも納得できる説明」が出来た音楽学者は過去皆無。

シューベルト幼少期は、ピアノソナタを除く主要曲種が作曲されたが、弦楽四重奏曲 と ミサ曲冒頭「キリエ」が多いのが特徴の1つ


 ミサ曲は「主調で終曲する」ルールは無い。幼き日のシューベルトがキリエなど「ミサ曲」をを作曲しても、上演した痕跡が無い。弦楽四重奏曲は「パート譜」が残っているのだが、「キリエ」はミサ曲第1番ヘ長調D105 より前は、パート譜が残っていないのだ。(D31,D45,D49,D66)
 「ミサ曲のような多楽章楽曲を作曲できる!」を示すには、連弾幻想曲D48 を友だちと共に弾いて聴かせて、リヒテンタール教会から「ミサ曲第1番の上演の確約」を得た、と推測される。D48終曲はフーガになっており、ミサ曲に「必要な技巧」は全て習得したことが聴き手に伝わる設計になっている。


実際に演奏するための シューベルト前期連弾曲集


  1813.06.10 に幻想曲D48 を作曲してから、しばらくシューベルトは連弾曲を作曲しなかった。器楽曲の興味の中心は以下のように動く。

連弾 → 弦楽四重奏曲(1812.10 - 1816) → ヴァイオリンソナタ+ピアノソナタ(1816.03 - 1817.11) → 連弾(1817.11 - 1819.10)


 これで前期までを全てカヴァーしている。「弦楽四重奏曲期」には連弾幻想曲1曲とピアノソナタ2曲があるが、見事なまでジャンルが特定時期に集中している。
 弦楽四重奏曲は初め「父親+2名の兄+シューベルト自身」で家庭内で演奏された。D74 以降は、学校の仲間とも演奏したようだ。

 さて、4年半空白期間の後に、連弾曲に戻って来たのは

「神聖ローマ帝国皇帝」の下で「元帝室付き俳優カルル・F・ミュラーの私的音楽朗読会」にて公衆での演奏依頼が来たから、イタリア風序曲 ニ長調D590 & ハ長調D591 を連弾に編曲した


ことが引き金となった。元の「オーケストラ版イタリア風序曲」自体も、シューベルト初の「金銭が支払われた委嘱作品」と考えられているので、『イタリア風序曲は出世作』である。

シューベルト前期連弾作品推定作曲順一覧



  1. D597 1817.11


  2. D592 1817.12


  3. D608 1818.01


  4. D599 1818.07(後の作品75)


  5. D618A 1818.07


  6. D968 1818.08頃 Zelis


  7. D618 1818.08頃 Zelis


  8. D624 1818.09 Zelis(後の作品10)


  9. D668 1819.10



 この時期の連弾曲は「作曲即出版」になっていないので、自筆譜 または 筆写譜 が豊富に残っている。全9作品が全部または一部の自筆譜 または 筆写譜 が残っている。作曲年記載が全く無いのが、D968 だが、最新研究では「1818年 Zelis」が紙質から最も可能性が高い、と推定されている。他ジャンル作品と照合すると、「9月」と書いてある作品以外で「Zelis」とだけ記載がある作品は前月8月の可能性が大。
 『ドイチュ番号作品カタログ新版(1978)』の通りに並べ、D968 を D618 の前に入れる(どちらが先かは全くわからない!)と上記の作曲順になる。D618A は D599第4曲に続けて作曲されているので確定。D597 は11月、D592 は12月も明記されている!

  1. D597 1817.11 → 1818.03演奏会で披露するため


  2. D592 1817.12 → 1818.03演奏会で披露するため


  3. D608 1818.01 → 上記2曲を作曲して意欲が漲り作曲するも中間での移調部分が思うように仕上がっていない未完成


  4. D599 1818.07(後の作品75) → ゼレチュ旅行での演奏&教育用


  5. D618A 1818.07 → ゼレチュ旅行での演奏&教育用。未完成


  6. D968 1818.08頃 Zelis → ゼレチュ旅行での教育用。詳細な「指遣い」が記入されている唯一の作品!


  7. D618 1818.08頃 Zelis → ゼレチュ旅行での演奏&教育用


  8. D624 1818.09 Zelis(後の作品10) → 本格的な演奏用。連弾作品に限らず、ピアノ作品中最高の自信作だった


  9. D668 1819.10 → 本格的な演奏用



 誰と演奏したか? と問われれば「シューベルティアーデの仲間たち」や「ゼレチュのヨハン・エステルハージ伯爵の2人の令嬢」である。10年後の1828年には、シューベルト連弾曲最高傑作=幻想曲ヘ短調D940 op.103 を献呈した カロリーネ・エステルハージ は妹の方であり、この時はまだ幼く12才。D968 の指遣いを必死にさらったことだろう! そう「エステルハージ伯爵令嬢の音楽家庭教師」として2度に亘り、ゼレチュに招かれたシューベルトは、「連弾曲はエステルハージ伯爵令嬢」でも楽しめるように作曲した作品が多いことには留意しておいて頂きたい。(これをあまりにも硬直的に受け入れてしまったのが、オットー・ドイチュ であるのだが)

 さて、佐伯周子 + 草冬香 が演奏する「イタリア風序曲」ニ長調D592 について詳述しておこう。オーケストラ曲を振る人はオーケストラ版しか研究しないし、連弾曲弾く人は連弾曲しか研究しない。ベーレンライター新シューベルト全集読んでも書いてないこと書くぞ(爆

1817年「イタリア風序曲」作曲&編曲経緯



  1. 1817.11 オットー・ハトヴィヒ からオーケストラ用「イタリア風序曲」1曲の作品委嘱


  2. 1817.11 「イタリア風序曲」ニ長調D590 作曲するも満足せず


  3. 1817.11 「イタリア風序曲」ハ長調D591 作曲。パート譜もシューベルト自身が書く


  4. 1817.11 オットー・ハトヴィヒ邸(ウィーン)で演奏。大好評を得る。


  5. 1817.11 カルル・F・ミュラー から、「ピアノ連弾用」で公開演奏会を持ちかけられる


  6. 1817.11 「イタリア風序曲」ハ長調D591 を『オーケストラ版の通り』にピアノ連弾編曲D597


  7. 1817.12 「イタリア風序曲」ニ長調D590 を『改良して』ピアノ連弾編曲D592


  8. 1818.03 カルル・F・ミュラーの私的音楽朗読会にて連弾にて D597 &
    D592演奏される


  9. 1820.08.19初演 オペラ「魔法の竪琴」D644序曲にD590(D592)の序奏部の1部がほとんどそのままの形で転用される(ハ長調に移調して)


  10. 1823.12.20初演 音楽劇「ロザムンデ」D797序曲に、「魔法の竪琴」序曲が全くそのまま転用される



 シューベルトのオペラや劇音楽のジャンルでは、「ロザムンデ」が抜群に高い人気を持っており、「ロザムンデ」ばかりが演奏される。(「アルフォンソとエレストレッラ」D732 も 「フィエラブラス」D796 もDVD以外では観たこと無い!)つまり

シューベルト「序曲」中、最人気作の元となった作品が「イタリア風序曲」ニ長調であり、D592 は改良版!


である。佐伯周子 + 草冬香 の演奏で楽しんで頂ければ幸いである。
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シューベルト連弾概論 1(No.2003)

2012-02-21 18:51:21 | 作曲家・シューベルト(1797-1828

佐伯周子 + 草冬香 シューベルト連弾ジョイントコンサート 2012.03.29(木)19:00 カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」


に半分出場する。この演奏会で「佐伯周子 + 草冬香」が演奏する曲は ドイチュ番号順に次の通り。

  1. イタリア風序曲 ニ長調 D592


  2. 3つの軍隊行進曲より第1番 ニ長調 D733/1 op.51-1


  3. ロシア皇帝アレキサンダース1世の逝去を弔う大葬送行進曲 ハ短調 D859 op.55


  4. 2つの性格的行進曲 ハ長調 D968B op.121



 以前にも掲載したが

シューベルトの全作品中、作曲年代研究が最も間違っているのは「連弾」と「ソロ舞曲集」


なのだ!
 「佐伯周子 + 草冬香」が弾く4曲を中心に、D1 - D952 までの全作品について「概論」を書きたい。(これが2000号記念号に掲載予定だったのだが、またしてもずれてしまった。)


シューベルトの作曲時代区分



  1. 幼少期 1810.04.08 - 1814.10.16 ミサ曲第1番ヘ長調世界初演まで D1 -D117


  2. 前期 1814.10.19 - 1819.11 「糸を紡ぐグレートヒェン」から「プロメテウス」まで D118 - D677


  3. 中期前半 1819.11 - 1822.09 ミサ曲第5番変イ長調作曲期間&「オペラの時代」 D678 - D758


  4. 中期後半 1822.10 - 1825.03 「未完成交響曲」から「アルペジオーネ・ソナタ」まで D759 - D832


  5. 後期 1825.03 - 1828.10 交響曲「グレート」から「最後の3大ピアノソナタ」まで D833 - D965



 ちなみに D966 - D998 は「作曲年代不明作品」とされている。

 さて「連弾作品」だが、この「5時代区分」の内、「4時代」に作曲された。

シューベルト連弾全作品の「作曲時代区分」一覧



  1. 幼少期 1810.04.08 - 1814.10.16 完成作品=3(D1,D9,D48)、未完成作品=2(D1B,D1C)


  2. 前期 1814.10.19 - 1819.11 完成作品=7(D592,D597,D599,D618,D624,D668,D968)、未完成作品=2(D608,D618A)


  3. 中期前半 1819.11 - 1822.09 作品無し


  4. 中期後半 1822.10 - 1825.03 完成作品=9(D602,D617,D675,D773,D798,D812,D813,D814,D819)


  5. 後期 1825.04 - 1828.10 完成作品=14(D733,D818,D823,D824,D859,D885,D908,D928,D940,D947,D951,D952,D968A,D968B)



 「1つのドイチュ番号」で纏められている舞曲や行進曲は「曲集」毎に数えている。

 注目してほしいことは

シューベルト連弾曲は「中期前半」には1曲も作曲していないことと、「中期後半以降」は未完成作品が皆無なことと、「後期作品」が極めて多いこと


である。
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2012.01.12今川映美子「シューベルティアーデ Vol.9」批評 後編(No.2002)

2012-02-20 16:03:47 | 作曲家・シューベルト(1797-1828

今川映美子 のシューベルト演奏は、曲に拠って集中力が漲っている曲(ソロではイ短調ソナタD784)と開放している曲(ソロではイ長調ソナタD664)がある。


 曲に対しての解釈かも知れないし、体力的に連続して緊張を保持するのが長過ぎる可能性もある。イ短調ソナタD784 の集中度は極めて高く、両端楽章での ピアニッシモ から フォルティシモ までの巾広さが(今川にとって)心に迫って来る。イ長調ソナタD664 では、ピアノ方向にあまり音を絞らない。結果としてデュナーミクはイ短調ソナタに比べて狭い範囲での音楽作りとなった。この2曲を並べるピアニストは多いが、今川ほど 傾向の違う演奏を並べるのは初めて聴いた。


 後半は、ヴァイオリンの 小森谷巧 を招いての2重奏。ソナタ第3番ト短調D408 と 幻想曲ハ長調D934。

 ト短調ソナタD408 第1楽章冒頭で4小節ピアノのダブルオクターブとユニゾンでヴァイオリンが共にフォルテを鳴らす。驚いたのは第12小節でヴァイオリンが入って来た瞬間。

小森谷巧のヴァイオリンが「ここはデュナーミクがピアノですよ!」と囁くように入って来たこと! すぐに 今川映美子 もバランスを取る!!


 第1主題呈示の後半のフレーズに当たるが、「ヴァイオリン」と「ピアノの左手」がユニゾンになっているのだが、これほど息の合った演奏は初めて聴いた。呈示部ではこの後、第32小節からの3小節だけがフォルテで、長い時間を「ピアノ」で通すのだが、今川と小森谷の旋律の受け渡しが何と細やかな表情だったことだろう!
 呈示部が繰り返され、展開部に入るとデュナーミクが mf → f になるのが、はっきり手に取るように説得力を持ち聴こえて来る。シューベルトの曲は多くが「ピアノ または ピアニッシモ が基調」が多いのだが、この ト短調ソナタ も特に前半2楽章は「ピアノが基調」。もちろん、第3楽章メヌエット主部終結や第4楽章終結部のフォルティシモはたっぷりと鳴らされる。


 さて、この演奏会で圧巻だったのが 幻想曲ハ長調D934 であった。この曲は「ヴァイオリン + ピアノ のための最後の曲」に当たるのだが、ピアノ も ヴァイオリン も技巧が難し過ぎて、演奏が敬遠されている曲。シューベルト生前に演奏されているのだが、難しいパッセージ をゆっくり弾いたようで、高い評判を取ることが出来なかったほどである。ちなみに現代でも事情はほとんど変わりなく、出てくるCDが次から次に「シューベルトの意図通りには弾かれていない」曲であることは、前編にて述べた通りである。

 今川映美子 + 小森谷巧 は、全く違った。

「シューベルトの静寂さ」を無限に感じさせるピアニッシモが、ホールを包む


 「Adagio」ではピアニッシモが全ての世界を覆っているかのよう! 小森谷巧のヴァイオリンはこんなに繊細だったのか!(読響コンサートマスターで聴く限りだとわからん!) 今川映美子 のピアニッシモの透き通っていること!!

 夢のような「Adagio ハ長調」から「Allegretto イ短調」に移る。大半のヴァイオリン奏者が「思いっ切り弾き切ってしまう箇所」だ。小森谷巧 は全く違った。「抑えめのフォルテ」で通す。

フォルティシモは「わが挨拶を送ろう」D741を主題とする変イ長調の「変奏曲」まで、シューベルト指示通り「取っておく」


だった。もちろん、今川映美子 との「息」はピタリと合っている!

小森谷巧 + 今川映美子 の演奏だと、幻想曲ハ長調D934 は「わが挨拶を送ろう」D741を主題とした「変奏曲」が基調になり拡大した幻想曲の「シューベルトの構想」がはっきり伝わる!



 長くなったので、フィナーレについて1言だけ。フィナーレのフォルティシモの箇所に来たら、小森谷巧 はこの日1度も見せなかった「弓の上端ぎりぎりまでのボーイング」でそれは印象的にフォルティシモを鳴らし、今川映美子 も呼応し深いペダリングを用いて行く。交響曲「グレート」D944 や 弦楽五重奏曲D956 の世界が眼前に現れたかのよう!

今川映美子 の次回「シューベルティアーデ」は12月5日(水)


「小森谷巧のシューベルト」 は次回は3月2日(金)でこの日と同じヴァイオリンソナタ第3番+ド名曲ピアノ3重奏曲変ホ長調D929!

 あぁ、その前に 読響 でヴァンスカ指揮で チャイコフスキー「悲愴」なども聴かせて頂きます!
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今後1ヶ月に聴きに行く演奏会予定(No.2001)

2012-02-18 21:31:37 | 演奏会案内
 寒い時期も暑い時期もひたすら演奏会を聴きに行く。焼酎を呑む以外に他に趣味も無いので、死ぬまで変わらないだろう(爆
「大阪行き」は体にこたえて、ブログが数日落ちる、が実績。それにもめげずに「大阪行き」あり。正確には「兵庫行き」か、、、

  1. 2012.02.20(月) リクレアツィオン・ダルカディア モーツァルト教会ソナタ 他(東京文化会館 小)


      日本モーツァルト協会例会。モーツァルト教会ソナタをナマで聴くのは産まれて初めて。印象批評さえ書けないだろう、多分(爆

  2. 2012.02.23(木) 宝塚ベガホール「ベガホールコンクール優勝者コンサート」法貴彩子 他(宝塚ベガホール)


      昨年「関西のピアノコンクール」を荒らしまくった 法貴彩子 のソロが前半で聴ける。う~ん、「歌曲伴奏」「協奏曲」は聴いたが、「ソロ」はまだ聴いたことがなかったんだ > 法貴彩子

  3. 2012.02.25(土) ヴァンスカ指揮読響「アホ:チューバ協奏曲 他」(東京オペラシティ 大)


      ヴァンスカ指揮のアホ協奏曲作品は絶品。チューバの 次田 も素晴らしい腕前。これは楽しみ!!

  4. 2012.03.07(水) スクロヴァチェフスキ指揮読響「ブルックナー交響曲第3番第3稿


      ちょっと、やばげな演奏会(爆
     ブルックナー交響曲は「稿問題」が大きいのだが、最も大きい曲の1つがこれ = 第3番。この第3稿って、良くないんだよなあ > 前回の スクロヴァチェフスキ指揮も含めて。基本的には聴きには行く予定だが、直前キャンセルしてもコメントには書かないように!

  5. 2012.03.08(木) 新国立劇場「ワーグナー:さまよえるオランダ人」


      演出は全く期待できない演出の再演。会員誌によると、オランダ人とゼンタが良い、との売り込み。2人とも「伸び盛り」とのこと。

  6. 2012.03.10(土) 佐伯周子(p)リスト:ロ短調ソナタ 他(神奈川芸術劇場)


      佐伯周子 が「オイリュトミー」で、リスト ロ短調ソナタを全曲弾く。「オイリュトミー」は音楽に合わせて身体表現をするので、佐伯周子 の演奏と合わせて、身体表現も鑑賞できる。ちなみに、リスト:ロ短調ソナタは 18:00 の回のみなので、お間違えの無いように!

  7. 2012.03.18(日) スクロヴァチェフスキ指揮読響「プロコフィエフ&チャイコフスキー」(東京オペラシティ)


      よくわからない演奏会。良いかも知れない。違うかも知れない。


 他にも1本聴きに行きたいのがあるが、体力とサイフが持つかどうか?
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新国立劇場オペラ松村禎三作曲「沈黙」Bキャスト初日批評 前編(No.2000)

2012-02-16 23:53:41 | 批評

團伊玖磨「夕鶴」に続く『第2の日本国民のオペラ=松村禎三作曲「沈黙」』を得た瞬間かも知れない 下野竜也指揮 + 宮田慶子演出


 團伊玖磨「夕鶴」だけが「名作」で残り全てが「愚作」とされて来た「日本オペラ」。私高本も 2012.02.16 までは同じように理解していた。「今後の新作に期待したいので、旧作は上演せず、新作をもっと上演しよう!」と書いたこともある!

 ちなみに、松村禎三「沈黙」は過去2種類「新国立劇場」で上演されている。1回目が 「新国立劇場&二期会 合同主催」で五十嵐喜芳芸術監督第1シーズンの公演で、中村敬一演出 & 星出豊指揮。2回目が 大阪音楽大学「ザ・カレッジ・オペラハウス」公演で、中村敬一演出 & 山下一史指揮。 私高本は1回目の公演を聴いて(観て?)、中村敬一演出が「退屈でならない」と言うオルロフスキー公の気持ちになったので2回目は聴いて(観て)いない。新国立劇場オペラ部門芸術監督も 畑中良輔 → 五十嵐喜芳 → ノボラツスキー → 若杉弘 → 尾高忠明 と数代経て、「新演出」での公演と相成った。
 ちなみに、今回公演は、上記の2回目 = 大阪音楽大学「ザ・カレッジ・オペラハウス」公演から、最も重要な3名を抜擢しての公演であり、1回目の公演の痕跡は跡形なくなっていることを事実として記す。 それぞれの公演にリンクを貼っておいたので、確認してほしい。 抜擢された3名は以下の通り。

  1. ロドリゴ : 小餅谷哲男(A)


  2. キチジロー : 桝  貴志(B)


  3. オハル : 石橋 栄実(B)



 ここで小声で告げる。与那城k敬 がBキャストで歌うことも(指揮者下野竜也の信頼が厚い証明である!)Bキャストを選んだ一因だが、「ザ・カレッジ・オペラハウス公演メンバーがBキャストの方が2倍いる」ことも一因である。
(後編に続く)
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第20回ABCフレッシュ・コンサート(法貴彩子+飯森範親 etc.)2012.02.11批評(No.1999)

2012-02-11 21:21:35 | 批評

「優勝者コンサート」とは思えない『ラヴェルの饗宴』となった 法貴彩子 + 飯森範親 + 大阪フィル!


 今は亡き「日本国際音楽コンクール」存命中は全回行った「優勝者コンサート」。随分時を隔ててつい先日も「東京音楽コンクール優勝者コンサート」を聴いた。この手の演奏会は「優勝者の技巧(と建前として「音楽性」)」を聴く演奏会なので、「優勝者の技巧」が十全に聴ければそれだけで聴衆は大満足である。(もちろん、私高本も大満足である。)
 本日の「優勝者コンサート」も前半は全く同じであった。カウンター・テノール(!)の 村松稔之 の技巧は極めて高く、1曲目のグルックのオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」より「エウリディーチェを失って」から「ブラヴォー」が掛けられる技巧の冴えを聴かせてくれた。最終=4曲目の テレマンのオペラ「ロンゴバーデン王、フラディウス・ベルタリドゥス」より「勇者のトランペットの鳴り響き」が終わると数箇所からブラヴォーが降り注いだ。声楽家としてはまだ本当に若い「東京藝術大学大学院1年在籍」でこれだけの完成度を持った声楽家は(皆無では無いが)極めて少ない。「ABC新人コンサート」出演者名簿が今回のプログラムの2頁に掲載されていたので読んだが、凄い!

  1. 第12回(2002年)新人コンサート : 老田裕子(S)


  2. 第16回(2006年)新人コンサート : 八木寿子(Ms)



 今をときめく女声陣が「新人コンサート → フレッシュ・コンサート」のステップを上がることは出来なかった。聴いていないからわからないが、おそらく「声が成熟する前だった」が原因だろう。(女声の年齢についてはこれ以上は書かない。知りたい人は各自検索して下さい。)
 村松稔之 は大学院1年。推定24才(か23才)。う~ん、声楽家としては極めて若い。カラスとかフィッシャー=ディースカウくらいしか、この年では声が練り上げられた人は思い出せない。(猫頭なので、この件についてはコメントに書いても掲載しません><)

カウンター・テノールの魅力=スーブレット・ソプラノと同じ「細身の女声」で「アルト」が聴ける


である。村松稔之 ももちろんこの通り。選択した4曲も「カウンター・テノール向き」の曲ばかり。
 ・・・で、同じ傾向の曲ばかりであったことも(小さな声で)ここに告白する。グルック「オルフェオとエウリディーチェ」とロッシーニ「タンクレディ」は過去聴いたことがある曲だったが、ヘンデル「ジュリアス・シーザー」とテレマンは初めて聴いた(と思う)。印象批評だが「技巧の冴えが聴けた!」が全て。普通の「コンクール優勝者コンサート」と同じ方向であり、この方向で極めて素晴らしい演奏だった。


 ・・・んだが、20分の長い休憩を挟んで開始された「後半」が『異常にテンションが高まった演奏の連続』になったのだ。「トランス状態」でぶっ通した、が最もわかり易い説明のような気がする。
 言葉を替えて言う。

「飯森範親指揮大阪フィルハーモニー交響楽団第×××回定期演奏会。全ラヴェルプログラム。前半:ピアノ協奏曲(両手)ソリスト=法貴彩子、後半:バレエ曲「ダフニスとクロエ」、アンコール「クープランの墓」より「リゴードン」


に憑依した演奏会であった。「時間の都合により、バレエ曲は第3幕のみになりました」って感じ。前半の「バロック音楽もいいでしょ!」路線は完全にぶっ飛んで、「ラヴェル! ラヴェル!! ラヴェル!!!」だった。


 ピアノ協奏曲ト長調第1楽章冒頭から『集中力が研ぎ澄まされた』演奏だった。この冒頭箇所は「極めて風変わり」が特徴。「小学生の運動会の徒競走」のように、裏拍から「拍子木」を筆頭に、オーケストラとピアノが「ヨーイドン」で一斉スタートする中を、「ピッコロ協奏曲」かのようにピッコロが「お祭り音頭」を奏でる。大抵、ここではピアニストは次からの目立つフレーズ(直後にある!)への「準備」としておまり目立たないように弾く。オーケストラもピッコロを除くと、「縦割りにはならない」かつ「ピアニストとずれない」なることが多い。飯森範親の構想は全く違った。

ピアノ協奏曲冒頭は「オーケストラとピアノ」が一体となって「全曲のリズム感」を形作る!


だった。この箇所は1拍目にオーケストラの低音楽器がリズムを刻むワケでは無いので、「リズミックに演奏」するのは、至難の技。

法貴彩子 のピアノがピタリと飯森範親のリズミカルな棒につき伴奏音型に「息遣い」を添えていたのが印象的に開始された


のである。すぐに、練習番号1番。ラヴェルの「決め技」の1つである グリッサンド がおかわりで繰り返されながら音域を広げる。

法貴彩子 の音色は、何と「キラキラ」と輝いていることだろう!


 グリッサンドの終わりと同時にトランペットの第1主題の確保になるが、何と「お祭りの雰囲気」がそのまま伝わって来ることか。以下、いろいろな楽器に受け渡されて行くが

主旋律楽器も伴奏音型も「軽やかなリズム感を保持」し続けた 大阪フィルハーモニー交響楽団 の技巧の冴え!


には舌を巻く。
 ラヴェルの音楽では「オーケストレーション技巧」は強調され、多くの場合「楽器固有の最も美しい音色」は楽器の発声法により異なるため、多くの指揮者は微妙に管楽器(特に低音楽器)を遅めに取る。その方が管楽器奏者も演奏し易いので大歓迎だ!
 飯森範親 は違う。

「ラヴェルの求めるテンポ」で一貫する。「楽器のベスト音色」よりも「楽曲の構造」にはっきり力点を置いた指揮!


だった。ソロピアニストを「練習番号1」前にここまで「オケと一体」を要求する指揮者はこれまで記憶に無いし、ピアニスト=法貴彩子 も技巧に自信があるのだろう、飯森範親のテンポ通りに進めて、グリッサンドから「音色の美しさ」を(終曲まで)充分に堪能させてくれた。

法貴彩子の「音色の魅力」は、「煌き輝く高音」と「どこまでも透けて見えるかのような透明度の高さ」と「緊張感あふれるピアニッシモ」


だ。これだけでも滅多に聴けない魅力的なピアノなのだが、これだけではない。これだけでなく

  1. リズム感が躍動している!


  2. 「ラヴェルの作曲した通り」に再現する!



は書き落としてはならない。「疾走するフレーズ」は疾走し、「気怠いフレーズ」は気怠く弾く。アーティキュレーション と 細かなアクセント まで、ステンドグラスの細密画のように細やかに積み上げる。

「飯森範親のリズム感」と「法貴彩子のリズム感」がピタリと一致して『ラヴェル方向』を向いていた


ことは鮮やか!
 第2楽章 冒頭の長いピアノソロを聴くと、「法貴彩子のラヴェルソロ」も聴きたくなる。あぁ、「ラ・ヴァルス」で優勝したんだったよね > 是非是非聴いて見たいモノである。
 第2楽章後半の「ピアノ と 管楽器 の会話」の何と楽しそうなことか! 「モーツァルト ピアノ協奏曲の精神(エスプリ)で作曲した」ラヴェルの息吹が伝わって来る。
 第3楽章の「疾走するアレグロ」の心地よいこと、この上ない!


飯森範親は、「ダフニスとクロエ」第2組曲は「ピアノ協奏曲ト長調の世界をデュナーミクを拡大した世界」として描き成功した


 独奏ピアノがいなくなった代わりに、基本4管編成(オーボエだけ3本)と打楽器とハープを増強し、管楽器にバランスを揃えて弦楽器を14型にした。
 「夜明け」で太陽が登り切った瞬間や、全3幕の終結での圧倒的な フォルティシモ は陶然とする美しさに包まれ、嫌味な音は全く出ない 大阪フィル!
 しかし、途中の表情は「お茶目」だったり、「はぐらかし」もあったり、ラヴェルの手練手管に聴衆は惹き込まれてしまう。管楽器首席のうまさは、在京オケでも相当に上位に来る感触。特に1番フルート のおどけた表情は、在京オケ では聴けないほど表情が豊かだった!

 アンコールはラヴェル「クープランの墓」より「リゴードン」。この日のテーマであった「リズミカルなラヴェル」を締めくくるにふさわしい選曲であり、演奏であった。「ラヴェルを堪能できた演奏会」である。
 「飯森範親のダフニスとクロエ」は是非是非全曲で聴いて見たい。


 「優勝者コンサート」として、2人にひとこと。

 村松稔之 は、カウンター・テノールとして「王道レパートリー」で臨んだ演奏会だったが、作曲家を4名並べたにも関わらず、あまり大きな変化が感じられなかった。4曲全てが「オペラアリア」だったが、カウンター・テノールは「レパートリー選択」が難しい。芸術監督 や 演出家 が「オルフェオとエウリディーチェ」以外だと、積極的に起用しようとはしないだろう。視覚的な問題が発生するからだ。R.シュトラウス「バラの騎士」オクタヴィアンは視覚的には最適だが、声量がカウンター・テノール向きでは無い。要求する声量があまりにも太いからだ! 演奏会を聴いて、村松稔之 に1つのオペラの主役を提案したい。

村松稔之 は シャブリエ「エトワール」の主役=ラズリ を演じることを提案する。


 東京芸術大学大学院在籍中とのこと、東京オペラプロデュース が「日本舞台初演」をした演目。過去ガーディナー指揮で「蘇演」されてからは、主なプロダクションは全て女声(メゾソプラノだったりソプラノだったり)が歌って来ていると記憶しているが、村松稔之 の声質にぴったりの可能性が高い。

 「法貴彩子のラヴェル」は素晴らしい!

「ABC音楽振興会審査員メンバー」が『ラヴェル両手を法貴彩子で聴きたい!』が結実した演奏会!


だったが、審査員の慧眼には目を見張るばかりである。これほど、相性良い曲で「優勝者コンサート」を披露できるソリストは、滅多にいない。法貴彩子 は「強運の星の下に産まれたピアニスト」と強く感じた次第である。
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2012.02.07新国立劇場バレエ「こうもり」批評(No.1998)

2012-02-10 19:07:53 | 批評

ヨハン・シュトラウス2世の「こうもり」ではない。ローラン・プティの「こうもり」だけがそこにある!


 ヨハン・シュトラウス2世オペレッタ「こうもり」の音楽を編曲したモノを中心に、適当に他の素材も混ぜ合わせて「ポプリ(接続曲)」にした作品が、ローラン・プティ振付のバレエ「こうもり」である。リスト、タールベルク、ゴドフスキー、ヴィエニアフスキー、ワックスマン、などなどが19世紀にさんざん行なって来た手法であり、出来には大きなムラがある。

ローラン・プティ振付バレエ「こうもり」は、リストには遥か及ばないが、ゴドフスキーやヴィエニアフスキーやワックスマンよりは良質


に感じる。「原曲を損なう割合が低い」ことが原因。もう1つは

「ストーリーをローラン・プティ好み」に全く差し替えたこと!


だと感じる。ロザリンデもアイゼンシュタインも一切出てこないぞ(爆

 リスト「グノーのファウストのワルツ」による幻想曲を聴く感じで、舞台を鑑賞できる人しか耐えられない演目であることを初めにお伝えしておく。ちなみに私高本はリスト「グノーのファウストのワルツ」による幻想曲は好きで焼酎呑みながら聴く頻度が高い(藁


 序曲が最初に来る(しかも途中で打ち切られる)こと以外は全て「ローラン・プティの思いのまま」に展開するバレエ「こうもり」。主役は

主役女性ダンサー = ベラ → この日はAキャストの ベゴーニャ・カオ


主役男性ダンサー = ヨハン → この日はAキャストの ロバート・テューズリー


 高さの感じられる振付が(おそらく)高い完成度で演じられたと感じる。脇役陣も「役を十全に踊った」感あり。

 ・・・で、

パッとしなかったのが、指揮者 = デヴィッド・ガルフォース。「J.シュトラウスの軽やかさ」が全く表現できずに終始した


である。ロシアのチャイコフスキーを振った時は、良かったので唖然。

ガルフォースの「リズム処理」の特徴



  1. ワルツでは、2拍目と3拍目が強過ぎる上、テヌート気味


  2. ポルカでは、2拍目が1拍目と変わらず「行進曲」風になる



 リズムはテンポには左右されないから、これはガルフォースの責任重大である。

 明日と明後日にCキャストとDキャスト公演があるので、興味を持った方がいたら、¥3150にD席でお試しに聴いて見ることをお薦めする。いきなりS券はギャンブルに近い。D券は7日公演開始前の掲示板表示では「○」だったので、ほぼ大丈夫だろう。バレエはオペラと違い「高い席から売れていく」ので、オペラファンはご安心を(爆


 前日、お隣の「東京オペラシティコンサートホール」で「沼尻竜典 + 読響:ストラヴィンスキー3大バレエの名演!」を聴いてハイになって聴きに行ったバレエだったが、正直「沼尻竜典指揮で ストラヴィンスキー3大バレエ」を新国立劇場に上演してほしくなった次第である。振付の選択については、芸術監督 = ビントレー を信じるぞ!
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2012.02.06読響「ストラヴィンスキー:3大バレエ」一挙演奏会批評(No.1997)

2012-02-09 13:49:55 | 批評
ストラヴィンスキー「3大バレエ」は名曲であることに異論は無い。好みに合うかどうかは別として。私高本は好きである。但し、研究する気が起こったことが無い。シューベルト、シューマン、リスト、ブルックナー に匹敵する「改訂好き」なことは前々から知ってはいるのだが、上記4名の作品の「改訂問題」は人並み以上には研究したと思うのだが、ストラヴィンスキーだけは意欲が湧かなかった。今になってわかった。

ストラヴィンスキー は著作権が残っていて、楽譜が極めて高額 が原因


 カネがあれば、ベーレンライター新シューベルト全集 やら ベーレンライター新モーツァルト全集縮刷版 やら ベーレンライター新バッハ全集チェンバロソロ縮刷版 など、著作権切れた楽譜を買い漁ってゼニが無かったからなあ、、、

 ・・・が、ストラヴィンスキー「3大バレエ」を聴いたり「観たり」するのは大好き。「稿問題」は全く気にならないが、「ストラヴィンスキー + 他の作曲家」を聴くのは音量的にバランスが良くない。必ず、ストラヴィンスキー の方が大音量になり、前半の演奏の余韻を飛ばしてしまうからだ。そんなワケで、ストラヴィンスキー「3大バレエ」一挙は産まれてからこれが2回目。

初めての ストラヴィンスキー「3大バレエ」は1996年2月10日の「東京バレエ団」公演で、CDをPAスピーカから大音量で垂れ流してのバカタレ公演


と言う悲惨な出会い(泣
 東京バレエ団の 佐々木忠次 がいくらご高説を垂れても、眉に唾して聞くことにした根本は「CD使ってPA三昧のストラヴィンスキー3大バレエ」公演のトラウマである。女性ダンサーの脚線美を味わうことが出来ない悲惨な経験であった(爆涙
 その後、「春の祭典」を得意にしている 秋山和慶 + 東京交響楽団が2001年12月に「オーケストラ演奏会」開いたのだが、この時は「川上敦子の第9」に専念していて聴きに行く時間が確保できなかった。


 そんな昨年晩秋、日本演奏連盟からDMが来た、「都民芸術フェスティバル」の案内。ざっと例年通り目を通したところ異変があった。

沼尻竜典 + 読響「ストラヴィンスキー:3大バレエ」公演が¥1,800!


 カネが無いので迷わず¥1800席を購入した。


 「都民芸術フェスティバル」は、在京オケにとってありがたい存在であると同時に「芸術的に突き詰めるだけの練習を時間的に積み重ねるのは難しい」金額のようだ。また、管楽器や打楽器の編成が大きい「エキストラを大勢雇わないと演奏できない大曲」は演奏された記憶は私高本の猫頭では皆無。「火の鳥」組曲は見た記憶あるのだが。今回の 都民芸術フェスティバルオーケストラ演奏会 にリンクを貼っておくので、ご覧頂きたい。ブラームスやチャイコフスキーの交響曲が最大編成が確認頂けることだろう > 「沼尻竜典+読響」を除けば


 私高本が 沼尻竜典 に注視したのは昨年4月19日。その日に聴いた 新国立劇場「バラの騎士」公演 で「下棒」を沼尻竜典が務めた、と書いてあったからだ! 新国立劇場には、石坂宏 を始めとする「指揮者陣」がいる。沼尻竜典 は 滋賀県立びわ湖ホール芸術監督を2007年から務めている。「代役で振る」ならともかく、「下棒」でも東京まで足を伸ばし『日本オペラ界のため』に尽力するのか!!! 当日公演批評号 にリンクを貼っておく。もう1つ 新国立劇場2012-2013シーズンオペラ「プログラム発表」批評号 にもリンクを貼っておく。2011年新国立劇場「バラの騎士」公演以来、注目していたのである > オペラ&バレエ公演での沼尻竜典


 さて、「予算がやや不足気味」の都民芸術フェスティバルにて、ストラヴィンスキー「3大バレエ」が名演になるのか? ならないのか? チケット到着してみてから 読響のHP を読んで驚いた。

2月4日に 静岡で「同一演目演奏会」が開催される!


 読響カレンダーにリンク貼っておいたのでご確認下さい。この「2つの演奏会」の予算を足せば「予算不足の壁」は突破できる。読響(?)は何と頭が良いのだ!!


 過去に ストラヴィンスキー「3大バレエ」の個別曲は名演を聴いたことがある。最も近くでは「カンブルラン + 読響:春の祭典」。こんな素晴らしい曲だったのか! と心が震えた。

 ・・・で、ふと思いだしたのだが、

最小に言って「春の祭典」は『指揮者がポジション持っているオーケストラで演奏』が原則


を思い出した。「カンブルラン + 読響」とか「秋山和慶+東響」とか「大植英次+大阪フィル」とか。私高本の猫頭理解では

「春の祭典」は5管編成で(超巨大オケの東フィルを例外として)エキストラ人数が多過ぎ経費負担過多


が原因と推測される。ここで不思議な感触がした。

沼尻竜典は、びわ湖ホールの芸術監督、群馬響首席指揮者、日本センチュリー響首席客演指揮者を兼務


だからである。普通に考えて、群馬響か日本センチュリー響で振る方が普通に感じられるし、希望すれば(おそらく)振れる立場だからだ。


 何も予習せずに当日会場に向かった。演奏する稿もわかってないからなあ。演奏は次の通り。

2012年2月6日 沼尻竜典指揮読売日本交響楽団「ストラヴィンスキー:3大バレエ」



  1. 「火の鳥」1919年版(2管編成)


  2. 「ペトルーシュカ」1947年版(3管編成)


  3. 「春の祭典」(5管編成)



 作曲年代順(バレエ上演順でもある)に従いながら、プログラムが進行するに従い大編成になる構成。しかも「火の鳥」の時間が大巾短縮されるので、21:00前後に終演見込み、となっている。

 いろいろと「贅沢な」演奏会で

「火の鳥」のオケピアノも 永野英樹 が弾き、スタインウェイD 使用!


は過去未経験の贅沢。永野英樹 にチェレスタ弾かせるようなことはせず、きちんとチェレスタ奏者が弾いていた。楽器数は(おそらく)1番トランペットがアシスタント付けただけで、他はスコア通り。弦は14型。


沼尻竜典の新境地を切り拓いた踏み込んだ 読響との「ストラヴィンスキー:3大バレエ」


 以前の沼尻竜典は「安全運転」傾向だった。だがストラヴィンスキー「3大バレエ」を安全運転だけで乗りきれるのか? は疑問があった。「春の祭典」が最も顕著だが、「ペトルーシュカ」も「火の鳥」も合わせるだけの「縦割り」になってしまったら『ストラヴィンスキーの魅力』は聴こえないからだ。
 3大バレエ1発目 = 「火の鳥」 演奏は「スビト」に表情が切り替わる魅力たっぷり。デュナーミクも2管編成 + 14型 には聴こえない「響きの豊かさ」である。基本的に弦楽器を中心の音にして、コントラバスから和声を積み上げている「読響の音」を信じてダイナミクスもテンポも自在に動かす。

特筆すべきは『リズム感の素晴らしさ』であり、新国立劇場同一演目の マーフィー指揮東フィル よりも遥かにリズム感に富んでいたこと!


 新国立劇場は ストラヴィンスキーバレエは「火の鳥」しかレパートリーにしていない。「火の鳥」しか比べられないし、「舞台上」と「ピット内」の違いがあるとは言うもののこれは特記しなければならない。ティンパニ の 岡田全弘 のリズム感の支えが読響全体を弾ませている。尚、「火の鳥」もフルコンサートグランドピアノで弾くと「音の伸び」が全く違うことを体験させて頂いたことにも深く感謝する。

 2発目 = 「ペトルーシュカ」は、ピアノ=永野英樹 の見事なさばきが鮮やか。あやつり人形が転がるように疾走する様はこれほどまでいきいきと描写できるものなのか!!!

 両曲とも「ブラヴォー」が降り注いだが、協奏曲以外の「都民芸術フェスティバル」では猫頭の私高本は記憶が無い。


 休憩時のロビーが「読響定期」以上に興奮していた人が多かったことを記す。曲が「興奮系」なことが原因だが、演奏が素晴らしかったことも起因。結構アマチュアオーケストラ団員の方が多くて「振り方」について喧々諤々、意見を交わしていた。私高本はアマオケに所属したことが無いので加われない雰囲気(爆


 3発目 = 「春の祭典」。踏み込みの良い指揮。テンポもデュナーミクも自在。異民族が大地で踊っているかのような

  1. 野蛮で
  2. 力感溢れて
  3. 狂ったかのようなテンポのチェンジと
  4. 「妖しい女性」のいざない

が同居した

「猥雑なストラヴィンスキー像」を見事に「音だけ」で実現した


演奏となった。
 終演後は圧倒的な「ブラヴォーの嵐」。最後の最後は「読響が立ったまま座らずに沼尻竜典を迎え入れて」やっと拍手を終結させた。放置したらいつまで続いたかわからん。


 木管首席全員が素晴らしいことは、沼尻竜典が真っ先に立たせたことでも明らか。ティンパニの岡田全弘は前述の通り。後、トランペット1番を交替で吹いた 田島 と 長谷川、ホルン1番を交替で吹いた(東フィルの)高橋、久永、松坂 も匹敵する素晴らしさだったことも記しておく。最後に1言。

沼尻竜典は「火の鳥」組曲は暗譜で、「ペトルーシュカ」「春の祭典」は『ミニチュアスコア』を見ながら振った。初めての指揮の可能性大。この演奏会に「沼尻竜典は指揮者人生を賭けた」瞬間だったと推測する!


 終演後の圧倒的ブラヴォーにステージマナーが前半に比べてぎこちなかったほど。「ブラヴォーの嵐」は初体験だったのでしょうか?
 『沼尻竜典のストラヴィンスキー』を聴衆は圧倒的に支持した。隣の 新国立劇場バレエで「沼尻竜典指揮:ストラヴィンスキー3大バレエ」実現してほしいなあ。びわ湖ホール でもいいぞ!

 今後の沼尻竜典は目を離せない。
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法貴彩子+飯森範親「ラヴェル:ピアノ両手協奏曲」直前に吠える(No.1996)

2012-02-08 21:56:59 | 演奏会案内
 「吠える」シリーズがなぜか人気高い。私高本のキャラクターは「囁く」とか「呟く」だと思っていたので、やや意外。本日号は標題の演奏会について吠える。


ラヴェル : ピアノ協奏曲ト長調(両手協奏曲)


  この協奏曲についてはズバリ次が聴きどころ!

管楽器の彩りが「全ての協奏曲(ピアノ協奏曲に限らない)」中、ガーシュウィン「ラプソディー・イン・ブルー」と並んで最も鮮やかであり、その上でピアノの技巧がド派手!


 協奏曲は『基本的にソリストの技巧をひけらかす曲』である。そのために、指揮者やオーケストラ団員のモチベーションが保てない演奏に陥る傾向にある。初期モーツァルトのピアノ協奏曲のファゴットとホルンパートは少なく言っても気合を保つには相当な集中力を要求されることだろう。プロオーケストラ団員だと「簡単過ぎて驚く」からだ(爆

ラヴェル「両手協奏曲」は、同じラヴェルの「ボレロ」に匹敵する「聴かせどころ」が各管楽器にあるのが特徴!


 これは聴衆には楽しみであるのだが、反面管楽器奏者は「万全で演奏するぞ!」と意欲(と技巧)を磨く必要性を意味する。私高本は良かった時に「聴いたままの絶賛批評」も掲載するが、悪いと「読響でティンパニの岡田全弘が降りると・・・」とか「N響の首席トランペット奏者=関山がブチ壊してくれた」と、ここ Piano Music Japan に掲載する。ブラヴォーが盛大に掛かった時はそのまま記載するし、ブーイングが出ても同じように記載する。先日も横浜みなとみらいホールでブーイングを聞いたばかりだ(泣
 ちなみに弦楽器も聴かせどころが多いことも附記しておきたい。

法貴彩子(ピアノ)


 今回が「法貴彩子 協奏曲デビュー」になるハズである。昨年までパリに留学していたのが原因。フランスでの活躍は全く知らない。仏語読めないからなあ(爆
 私高本が法貴彩子を聴いたのはシューマンのしかも歌曲。シューマンは歌曲に限らず、ピアノ曲に限らず、交響曲に限らず、「ガラッと風景が突然変わる」のではなく、「風景が晴れから曇りになってまた晴れになる」ような『細やかな情景描写の移ろい』的な変化が短い曲の中に描かれると映える。
 「法貴彩子のシューマン」はこれが素晴らしかったのだ。(岡原慎也のシューマン歌曲伴奏を越えて!)終演後に話したら話題がラヴェルばかり! 相当に入れ込んでいるようだった。
 それからわずか1ヶ月チョイの間に「2つのコンクール制覇」は唖然。どちらもシューマン使っていなかった(爆
 審査員が「提出協奏曲の変更を(指令と受け取って頂いても良い要請)に限りなく近い要請」で「ラヴェル両手」になった逸話が主催者発行誌に掲載されていた。この辺りの事情は「プログラムノート」や「ABC放送放映時」に流されることだろう。あれっ、関東在住の私高本は見れるのか?(泣

飯森範親


 公式ホームページにリンクを貼っておいたのでご覧頂いてほしい。

 以前も書いたが、私高本が「指揮者=飯森範親」にぶっ飛んだのは17年前の1995年の日本オペレッタ協会公演レハール「メリー・ウィドウ」。日本オペレッタ協会最高の「オーケストラ & 合唱団」演奏だった。(私高本が前妻に離婚されるまでの期間で、である。)
 但し、ソリストはこの1995年公演がベストでは無かった。また(まだ新国立劇場はオープンしていなかったが)同じオペレッタ日本語公演を実施していた 二期会 に比べるのは極めて困難なほどソリスト水準が低かった。その旨で飯森範親は寺崎裕則会長と衝突し、2度と日本オペレッタ協会公演の指揮台に立つことは無かった、と伝え聞いている。
 だが、翌年1996年秋公演からソリストを「歌えるソリスト」に替え始め、佐々木典子 を招くに至り「日本オペレッタ協会ソリスト全盛期」を迎えることになった。(関係者に尋ねると違った答えが返って来る可能性の方が大きい。何せ飯森範親を突き放したからなあ)

飯森範親HP の「ディスコグラフィー」を観て頂きたい。トップに ストラヴィンスキー「3大バレエ」が2枚に亘り掲載されている! 「20世紀の音楽」にも相当に興味を「今」寄せていることがわかる。今回の演奏会は

前半は村松稔之(カウンターテナー)を巡るオペラアリア&序曲&間奏曲、後半は「ラヴェル」で「法貴彩子(ピアノ)の両手」とバレエ「ダフニスとクロエ」第2組曲


 後半プログラムの「統一性」に注目! これは相当にラヴェルに力が入っている。

もしかしたら『飯森範親が今最も力が入っている作曲家の1人=ラヴェル』と思える


 追記すると、マーラーはCDを多くリリースしているだけあり、継続して力が入っている様子。

東京交響楽団の「2012年度シーズンテーマ」は「マーラーの歌曲」だが、飯森範親は マーラー/ベリオ「若き日の歌」を選択


 これは「歌曲作曲家マーラー」のカテゴリーを設けている私高本は聴き逃せない。チケット争奪戦に負けずに取りに行く所存である。

大阪フィルハーモニー交響楽団


 大阪を代表するオーケストラである。HPにリンクを貼っておいたのでご覧頂きたい。私高本も定期演奏会を聴きに伺ったことがある。東京のオーケストラに双肩するオーケストラである。久しぶりに聴けるのが楽しみでならない!

 この顔合わせで ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調 が聴けるのは楽しみでならない。安い 新幹線+ホテル を探索した結果「行きがこだま」になってしまう、と言う産まれてから初めてのアクシデントにも遭遇した(!)が、めげずに大阪に黙々と聴きに行くぞ。
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2012.01.12今川映美子「シューベルティアーデ Vol.9」批評 後編予告(No.1995)

2012-02-05 14:51:35 | 作曲家・シューベルト(1797-1828
2012.01.12今川映美子「シューベルティアーデ Vol.9」批評 前編(No.1974) の続きである。あまりに間隔が開いたのでリンクを貼っておく。

今川映美子 HP


小森谷巧 HP


にリンクを貼っておく。どちらも充実したHPなので、是非ご覧頂きたい。

(後編について書く予定だったが、体調不良で書けなかった。体調が戻り次第、後編は必ず掲載する。暫くお待ち下さい。2012.01.12「今川映美子のシューベルト」批評が終結できなければ、私高本の価値は皆無である!)
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突然ですが「来年のシューベルト誕生日に佐伯周子がソロリサイタル」(No.1994)

2012-02-04 21:39:14 | ピアニスト・佐伯周子
 標題はネタではない! 「シューベルト誕生日=1月31日」。この日に佐伯周子がソロリサイタル。もちろん、全シューベルトプログラム!

2013年1月31日=シューベルト誕生日 佐伯周子ベーレンライター新シューベルト全集に拠るピアノソロ曲完全全曲演奏会 Vol.11 東京文化会館小ホール



  1. 即興曲集第2集D935


  2. ピアノソナタ ハ長調D613+D612


  3. 「感傷的なワルツ」D779 op.50



 このブログは「シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等」が主旨なので、この手の記事がもっと掲載されるハズなんだが、、、
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