Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

2021.04.04 新国立劇場チャイコフスキー「イオランタ」批評(No.2552)

2021-04-05 14:30:46 | 批評
観たのは、大野和士 新国立劇場オペラ芸術監督の「ダブル・ビル」で、前半がストラヴィンスキー「夜鳴きうぐいす」であったが、演奏の出来に圧倒的な差があり、「イオランタ」しか印象に残っていない。指揮者=高関健がオペラハウス中最も見える座席であったが、高関の棒も「イオランタ」の棒が桁違いに雄弁であった。高関は代役なので、選曲指揮者ではないが、これほどまでに表現に差があるのはオーケストラ演奏会を含めて初めてであった。印象が薄い曲を批評しても仕方無いので、「イオランタ」のみ批評する。


憑依したかに聴こえ映った 大隅智佳子


  チャイコフスキー「イオランタ」は「ルチア」「カルメン」並みの「プリマドンナオペラ」であり、恋人や父親がいくら素晴らしい歌唱を繰り広げても、プリマドンナが映えなければオペラ全体の印象は冴えない。
 「イオランタ」は「盲目である若い女性 = 王様の娘」であり、カルメンのような激しい動作はできない。冒頭シーン「階段をゆっくり降りる」から、大隅智佳子 は存在感を発散する。アリアでは、ピアニッシモから長いクレッシェンドでフォルティシモに至る時、初めのピアニッシモから通る声が響き、自然に響きが増す。チャイコフスキーらしい美しい旋律が朗々と鳴り亘る。バレエ「くるみ割り人形」との組み合わせのために作曲された「イオランタ」は「くるみ割り人形」の世界をオペラに移し替えたかのように、甘い旋律に満たされており、「スペードの女王」「エフゲニー・オネーギン」の暗い世界とは全く違う。主役イオランタ は冒頭から終曲まで、1度も幕が降りない(1幕モノ)中、半分以上のシーンに登場しているかの印象である。第7景の イオランタが恋に落ちる相手=ヴォデモン(内山信吾)との長い2重唱には「ブラヴォー禁止」のお触れが出ているにもかかわらず、4階席からブラヴォーが思わず掛かってしまったほど、「恋に落ちて行く情景」がありありと客席、しかも4階席まで伝わった。内山信吾 は直前の 第6景のロマンスも見事。
 プリマドンナオペラの王道通り、主役以外の主要なシーンは男声陣で彩られ、他の女声は目立たない。新国立劇場ではお馴染みの 妻屋秀和、新国立劇場「こうもり」でウィーンフォルクスオーパーメンバー面々と亘り合ったアルフレート役の 村上公太、新国立劇場初登場の 井上大聞 などが、ソロにアンサンブルに プリマドンナを引き立てる。
 最終第9景にて、眼が見えるようになった イオランタ が喜びを撒き散らすフィナーレは、ソリストだけでなく合唱も従えて、イオランタ=大隅智佳子 の声が突き抜ける。


  高関健 の指揮は、イオランタは見事。オーケストラを鳴らし「チャイコフスキー節」を、「バレエ風」でなく「交響曲風」に奏でる。それでいて、ソリスト陣の歌直前では「歌が映える」ように音量を絞る。私高本は、新国立劇場バレエで「チャイコフスキー3大バレエ」は繰り返し観ている(=聴いている)が、「高関健が新国立劇場バレエ チャイコフスキー3大バレエも振ってくれたら良いのに!」と感じた次第である。


  ヤニス・コッコス演出について。来日できず「リモート演出」と言うことで「カーテンコール時」にリモートパソコンからステージに上がっていた。相当少ない予算だったようで、「世界初演時の写真」が公演プログラムに掲載されていたが、それより随分簡素。だが、ソリスト陣の動きをスムーズに展開していた。大野和士芸術監督は「新演出」に拘っているが、初めて説得力のある演出を見せてもらった。
 「反響板」を設置出来たら、もっと良かったのに、とは思うが、予算&時間の制約の中では難しかった、と感じる。


  大隅智佳子は、「足利オペラ・リリカ音楽監督」と有料プログラムに明記されている。イオランタ役の年齢 → 多分20才前? よりは相当に上であろう。だが

大隅智佳子 の「声色」は多彩


であり、この日は「20才前らしいイオランタ」を見事に、声で、演技で表出していた。新国立劇場「フィガロの結婚」の伯爵夫人で歌っていた時とは、別人のようだ。


  私高本は、「大隅智佳子 の イオランタ」をもっと聴きたい。明日。4月6日公演は右側の座席で聴く。4日公演は左だった。

チャイコフスキーオペラの代表作 = 「イオランタ」


だと感じた。「スペードの女王」「エフゲニー・オネーギン」よりも感動的である。
コメント
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