(1)「華麗なるロンド」作品70D895(1826.10作曲, 1827.04.19出版, 1827極めて早い時期初演)
休みなしに15分以上、ヴァイオリニストとピアニストが演奏し続ける曲。「ロンド」はロンド主題がグルグル廻るかのように現れる形式。ソナタ形式と異なり「素材の展開」は特に必要無いのだが、シューベルトは「副主題」をそれぞれ「展開」する独自の構造を作った。
『序奏 Andante 3/4ロ短調』(1 - 49) → 『ロンド主題A Allegro 2/2ロ短調』(50 - 109) → 『副主題B呈示 ニ長調』(110 - 218) → 『序奏と副主題B展開 ニ長調』(219 - 280) → 『ロンド主題A ロ短調』(281 - 344) → 『副主題C呈示 ト長調』(345 -412) → 『副主題C展開 転調箇所』(413 - 466) → 『副主題C再現 変ホ長調』(467 - 526) → 『副主題C展開 転調箇所』(527 - 585) → 『ロンド主題A ロ短調』(586 - 666) → 『コーダ piu mosso ロ長調』(667 - 713)
この曲を「ロ短調」にした理由は簡単明瞭。依頼ヴァイオリニスト = スラヴィーク の決め技のハイポジションを高々と披露するためである。大成功を収め、大好評が起こり、技巧的に難しい曲であるにも関わらず、即出版されることになった名曲である。コーダに入りテンポを上げる手法を器楽曲では初めて採用した曲であり、この後に作曲されたあまたの名曲を産んだ原動力でもある。
(2)ヴァイオリンソナタ第4番イ長調「大二重奏曲」D574(1818.08 作曲, 推定初演作曲直後)
「華麗なるロンド」を聴いた後に聴くと技巧的に易しい曲に聴こえてしまうが、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタと比較しても同等以上の技巧を要求される曲であり、D345&D438の2曲のヴァイオリン協奏曲を直後の作曲してしまうに至った名曲である。1816年当時の「シューベルティアーデ」がオーケストラを雇う潤沢な資金を有していたならば、シューベルトは「ヴァイオリン協奏曲の大作曲家」になっていた可能性も高い。特徴として
これまでのピアノソナタやヴァイオリンソナタに比較し大規模であり、かつ舞踏楽章を第2楽章に移動し、第4楽章と「動機的連動」がはっきり聴き取ることが可能で、全曲の統一感が高い。
全4楽章にソナタ形式の原理が用いられているにも関わらず、絶妙の調性配置になっており、「ソナタソナタ風」に聴こえない。「さすらい人幻想曲」の発想の元になったと考えられる。
出てくる調性は、イ長調→ホ短調→ホ長調→イ短調→ハ長調→変ニ長調→ハ短調→変イ長調→ヘ長調の順だが、半音で隣接する調性が隣り合わせに存在したり、『転調の天才』と呼ばれたシューベルト作品中でも稀有の成功作である。
(3)「わが挨拶を送らん」幻想曲ハ長調D934(1827.12作曲, 1828.01.20初演)
シューベルトが自作リート(または劇作品)の自信作を主題にした大変奏曲を緩徐楽章に置く曲は、1822年11月から1824年3月までの短期間に「さすらい人」幻想曲D760, 「鱒」五重奏曲D667, 「萎んだ花」変奏曲D802, 「サラマンカの友人たち」八重奏曲D803, 「ロザムンデ」四重奏曲D804, 「死と乙女」四重奏曲D810 と6曲にも数えられる。その後も変奏曲を作曲したが、創作主題かフランス歌曲を主題にしており、1827.02までの期間である。同年4月19日の「華麗なるロンド」出版直後からだろう、2人から委嘱され悩み抜いた末、「華麗なるロンド」と「さすらい人幻想曲」を併せ持った大構造を新発明した。
第1楽章 『序奏』Andante molto 6/8 ハ長調(1 - 36)
第2楽章 『再現部無しの協奏的ソナタ楽章』 Allegretto 2/4 イ短調(37 - 351)
第3楽章 『主題と4つの変奏曲』 Andantino 3/4 変イ長調(352 - 479)
第4楽章 『過去を振り返る序奏付き大コーダ付き再現部無しの協奏的ソナタ楽章』ハ長調(480 - 700)
『序奏再現』 Andante molto 6/8 終始静かだった序奏が短縮された上、ffでヴァイオリンの最高音がトリルで轟く ハ長調(480 - 492)
『第5変奏曲でありながら、再現部無しの協奏的ソナタ楽章』 Allegro vivace 2/2 ハ長調(493 - 638)
『第3楽章変奏主題の少し早めテンポの回想』 Allegretto 3/4 変イ長調(639 -664)
『大コーダ』 Presto 2/2 700小節に及ぶ大曲に相応しい急速で豪華絢爛なコーダ ハ長調(665 - 700)
ご覧頂いてお判りになる通り、拍子もテンポも大きく変わり、途中に休みの無い曲では表情の濃さでは「シューベルトの全ての曲」の中でリート「魔王」作品1D328 に比肩する、いや凌駕していると思われる。調性も大胆に設定されているが、
実はヴァイオリンソナタ第4番の主要調性の内最も大切な調性を利用しただけ なのである。
この曲の難点はただ1つ。演奏家が2人とも、「シューベルト音楽を熟知し、技巧が初演の2人よりも優れていることを要求される」ことだけ!