Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

2012.01.28第9回東京音楽コンクール優勝者コンサート批評(No.1989)

2012-01-29 23:36:49 | 批評
異種楽器のコンクール優勝者5名が一同に会しての「優勝者コンサート」。どのように聴けば良いのか皆目見当も付かなかったので、何も準備しないで聴きに東京文化会館に向かった。八木寿子 に期待して行ったのだが、「八木寿子の曲目」だけ事前準備して行くのは「ちょっと違うだろう」が私高本の感覚。
 そんなワケで、「コンクール優勝者コンサート」なるものは、今は亡き「東京国際音楽コンクール」以来だと記憶している。「デイリー創刊」の遥か前に亡くなってしまったのはとても残念だったが。
 「お目当ての優勝者」がいないと、焦点の合わせどころがよくわからないので、乏しい財布の紐がキツくなるような気がする。


『ソリスト & 作曲家 のリズム感』が指揮者とオケメンバーを鼓舞し、聴衆にも伝わる!


 一見「異種格闘技競技」のように見えるコンサート。クラリネットとメゾソプラノとヴァイオリンが2名とピアノ。「ソリストの提出曲がそのまま」とのことで、プログラムに一貫性は一切無い。

 ・・・で、聴き通して真っ先に感じたことが「リズム感」である。まず、楽器と優勝ソリストと作曲家と曲名を書く。

  1. クラリネット:西川智也:コープランド「クラリネット協奏曲」


  2. メゾソプラノ:八木寿子:モーツァルト:皇帝ティートの慈悲」K621より「行きます、でも愛するお人よ」 + サン=サーンス「サムソンとデリラ」より「あなたの声に心は開く」 + ヴェルディ「ドン・カルロ」より「むごい運命よ」


  3. ヴァイオリン:岸本萌乃加:ワックスマン「カルメン幻想曲」


  4. ヴァイオリン:周防亮介:ヴィエニアフスキー「グノーのファウストの主題による華麗なる幻想曲」


  5. ピアノ:石田啓明:プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第3番ハ長調」op.26



 (聴く前に)プログラムノートを読んで真っ先に感じたことは「(楽器名)協奏曲」が2曲だけか! だった。まあ、声楽だけは「メゾソプラノ協奏曲」とかは皆無なんだが、ヴァイオリンの2名が外していたのは意外だった。どうやら「優勝者が2名出たので、時間制限が半分とは言わないまでも60%程度に制限されたらしい」と気付いたのは、ピアノ協奏曲が終わった後だった。やっぱ私高本は猫頭だわ(藁

 ・・・で、聴き通して真っ先に感じたことが「リズム感」である。これは「ソリスト」と「作曲家」の両面がある。良かったのは

  1. 八木寿子:モーツァルト + サン=サーンス + ヴェルディ


  2. 石田啓明:プロコフィエフ



 八木寿子 全プログラム演奏直後は四方から「ブラヴォー」が降り注いだ。あぁ、モーツァルトとサン=サーンスの後にも「ブラヴォー」が出ていた。石田啓明の演奏直後もブラヴォーが四方から掛かった。他の3名には「四方からのブラヴォー」は掛らなかった。なぜか?

ソリスト または 作曲家 少なくともどちらか一方の「リズム感」が欠如しているから!


をここに指摘しておく。どちらかわかるほど、クラリネットやヴァイオリンの曲は知らない。だが、明らかに「リズム感」が不足しているのだ > コープランド & ワックスマン & ヴィエニアフスキー


 「ソリストの申請曲がそのまま通る」との説明だった。その言質を額面通りに受け取るならば、

モーツァルト、サン=サーンス、ヴェルディ、プロコフィエフ > コープランド、ワックスマン、ヴィエニアフスキー の不等号が成立する


と思える。あくまで「私高本の眼」で見ると、この不等号式は「充分に納得」である。つまり「選曲段階」で問題を抱えた可能性がクラリネットとヴァイオリンのソリストには内包している可能性が極めて高い。
 ワックスマンは ビゼー「カルメン」を、ヴィエニアフスキーは グノー「ファウスト」から旋律を借りて作曲されている。多くの人は原曲となった ビゼー や グノーと「同じリズム感」が残っていると錯覚しがちだが、実際は「原曲のリズム感」は残存していない。残っているのは「原曲の旋律(と和声)」だけである。
 この2曲は時間が短く手頃なので、オケの演奏会でもちょくちょく演奏される。1度として感動したことが無い。「ヴァイオリン奏者の技巧のひけらかし」だけが印象に残る曲で、この日も同じ。「左手の音程、速いパッセージでも見事なものだ!」とは思うのだが、ブラームス や チャイコフスキー のヴァイオリン協奏曲を聴いて「共鳴」したような感動は来ない。大きな曲の必要もない。モーツァルト や バッハ や ヴィヴァルディ のヴァイオリン協奏曲でも感動することは多い。時間的には ワックスマン や ヴィエニアフスキー と大差無い曲だ。ヴァイオリン2名はまだ高校生なので、この辺りのことは師匠などが配慮してあげれば、さらに実力通りの人気を積み上げれるような気がする。他の楽器の優勝者の曲は(差し替えた人もいたが)本選曲目を想定すれば半分以上の確率で当たるだろうから。
 コープランド のクラリネット協奏曲については、第2部 が「ジャズやカントリーの雰囲気」の旨のソリスト自身による解説があり、それっぽいのだが、曲の出来なのか? 演奏なのか? はわからないが、スイング感 などが表には出て来なかった。

コンクール優勝 → 優勝者コンサート までに大きく飛翔したピアニスト = 石田啓明


 コンクール優勝時の演奏が高く評価されて「優勝者コンサート」出場になったのだが、コンクール時よりも数段「確信を持った手の内の演奏」が出来たのが、石田啓明 だった。
 今回のプログラムノートに「東京音楽コンクール本選」時が初のオーケストラ共演だった、とのこと。いろいろと不慣れなことだらけの中、見事優勝の栄誉に輝いた。自信も付き、経験も重ねた結果だろう。

第1楽章冒頭から、石田啓明 のリズム感がコンクール時よりも明確に表現された


 プロコフィエフピアノ協奏曲第3番は、「タッチの強靭さ」が無いと弾きこなせない曲だが、「バレエ作曲家としてもチャイコフスキーと並ぶトップ人気作曲家=プロコフィエフ」である。本当に「強靭さもリズム感も満ち溢れたプロコフィエフの世界」を聴かせてくれたことには感謝するばかりである > 石田啓明 + 円光寺雅彦 + 東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮者もオケも「ノリノリ!」だった。曲もいいからなあ!!!

 石田啓明 は今後ご縁があれば、注目して行きたい。(ご縁が無ければしゃーないわな)


 ・・・で、メゾソプラノの 八木寿子 である。これほど理知的なメゾソプラノは、猫頭の私高本は1名しか思い浮かばない。藤村実穂子である!

  1. コンクール本選では「ズボン役」は回避して、モーツァルトは「コンサートアリア」を歌った


  2. 「優勝者コンサート」では、モーツァルトオペラでは「フィガロの結婚」以外では唯一つの「ズボン役オペラ = 皇帝ティートの慈悲」の「セストのアリア」を歌う


  3. 日本ではほとんど上演されないオペラ(私高本が聴いたのは1991年が最後)なので「スカート姿で歌っても、大半の聴衆は違和感皆無」



 「ケルビーノのアリア」をスカート姿で歌われると違和感感じる人は多いだろう。かく言う私高本も同じである(爆
 だが、同じモーツァルト作曲「皇帝ティートの慈悲」の「セストのアリア」は、それほど有名で無いので、「スカート姿」で歌っても違和感はほとんど無い。少なくとも私高本には無い。う~ん、「コンクール本選にはコンサートアリア」で「優勝者コンサートはセスト」ですか!!!

八木寿子 が歌うと、メゾソプラノってこんなに感動的なのか!


が実感。「ズボン役(つまり男だわな) → 悪女 → 貴族(だったと思う)」を瞬時に切り替えられるメゾソプラノは、過去にも居た。藤村実穂子だ。聴いた時に「こんな世界あるの?」と思った。八木寿子 も「同じ境地」に達してほしい。上から下まで「声質が変わらない超絶技巧」は信じられないばかりである!


 「東京音楽コンクール」は、過去の優勝者(&入賞者)に拠って高められて来た。今回の優勝者たちが更なる高みに達する、と信じたい。八木寿子 と 高校1年生 ではちょっとした弾みだと、「親子の世代間格差」なんだが、声楽って時間が掛かるんだとねー(泣

 ご縁があれば、今後も追い続けたいメゾソプラノ = 八木寿子 である。本拠地が関西で、出身が九州なので、どうなることやら? 私高本はビンボーなので、佐伯周子 が発狂しない範囲でしか活動できないヒョーロンカだからなあ(爆

 ちなみに

八木寿子 の「次回東京演奏会 = 4/19東京文化会館文化会館モーニングコンサート」は速攻で購入した。500円(← マジ)




 最後になったが、円光寺雅彦指揮東京フィルハーモニー交響楽団 の演奏が素晴らしかったことを書き記しておきたい。12型編成であったが、ヴェルディ「ドン・カルロ」の巨大編成でもコープランドの小編成でも「和声を美しく鳴らし、ソリストを引き立てる」に徹していた。感度のとても良い演奏であり、特に弦楽器の美しさが印象に残る。1番クラリネットの技巧の良さは特筆しておく。
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