Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

踊り場で逡巡する隣人

2007-03-02 | 
霙交じりの空模様である。階段を下りて郵便桶から手紙と新聞をとり出す。暫らくすると、一転して空が室内を青く照らし始める。

語学学校の授業の中で一つだけ度々と思い出す内容がある。それは、踊り場での逡巡で、誰もが経験する階段を上り下りするうちに目的を忘れてしまうことを指す。

その時の古い語学のテキストの頁を捲ると、探していたものとは異なるカフカの「隣人」と題する一頁にも満たない短編が見つかる。そこでは、「隣は何する人ぞ的な」内容が描かれている。これも、共同住宅に住んでいると良くある情景である。

そこには、いつも急いでいて、偶に階段で顔を会わせると、既に鍵を手に準備していて、文字通りさっと傍を通り過ぎて、戸が開くか否や恰も鼠が尻尾をちょろと滑り込ませる様に身を隠す隣人が描かれている。

覚えているベテラン教師が語った内容は、それとは違う。今しがた鍵をかけて、階段の踊り場に至ると何処に何をしに行くのかを忘れて、逡巡する情景である。似たものをネットの老人問題のサイトに見つける。そこに、階段の踊り場で自らが今上りたいのか下りたいのか判らなくなる現象が投稿されている。

パリのアパートメントで、隣室の騒音とその原因をなした隣人と始めて顔を合わせたを読んで、階下に住む女性に先日話掛けられた事を思い出した。

夜遅く、振動と共に音楽が聞こえるのでどうしたものかとの苦情であった。オーディオについては覚えがあったので深夜は気をつけるとして、実はその振動には当方も苦慮していると反撃した。もちろん、階下からのものと確信していたので、半年ほど以前から、食器洗い機か洗濯機のように毎晩のように書き物机を揺らしていると苦情した。どうもその事が階下でも問題であったらしい。

その女性は、既に数年以上住んでいるので、半年前からのこの原因を作る筈はないと思い、近隣に事情聴取をしなければならないとしておいた。エネルギーを使う洗濯機は、子無し家族では週に二回の使用が限界であり、また皿洗い機があれほど振動するとも思わない。

そしてこの面談の後、なぜかその振動は収まり、嫌な振動を被る事はなくなった。さらに、階下の女性は引越しする事となった。すると、あれは一体何だったのか?引越しをする女性の事情はどうだったのかと、階段を上り下りする度に踊り場で考えるのである。



参照:「スーパーエッシャー展」、BLOG「夢のもつれ」より
コメント (2)
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