Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

熟成ワイン窟のパラドックス

2005-07-23 | ワイン
電解装置によるワイン熟成の記事を読んだ。ワインが熟成するのは果たして良い事なのだろうか?それは聖書に載っている世界の話で、実は熟成というのは必要悪であることを忘れてはいけない。本当は新鮮なものほど美味しい筈なのだ。

しかし、ボルドーワインを代表とするようなタンニン成分の多いワインは、残念ながら渋くて不味くて直ぐには飲めないのである。それでも小さな農家などは、これを美味くミックスして安く容易に熟成するワインを作っている。名門シャトーでも、実際天候によって、ヴィンテージによって配合も変わり容易に熟成するワインを 作 る 事 が 出 来 る。勿論、そこでは一二年の樽での熟成を厭うほどに土地の有効利用を考える必要も無い。

もし、この熟成期間を短縮・調整出来るとしたら如何だろうか?何よりも問題は、その後の瓶での熟成である。これで儲けるロスチャイルド家やそれを取り巻くネゴシアンたちが200年以上営んできた商売の基本に関わるからである。何故ならば抗酸化剤としてのタンニンなどの重合・融合を促進すると言う事は、商品としての価値を下げる事にしかならないからである。

「飲みやすくなり寿命が短くなる」と言うことは、ヴィンテージワインの価値を瓦解させる。「容易に熟成ワインを作ることは、ヴィンテージワインの価値を落とし、熟成ワインの価値を喪失させる。」と言うパラドックスが成立する。

つまり、「新しいぶどう酒を飲めれば、だれも古いものを欲しがらない。『新しいもののほうがよい』と言うのである」とルカによる福音を書き換えなければならない。本当は、飲む事が出来るものならば、新鮮なワインの方が風味もあり美味いのである。これを白の長寿ワインの代名詞であるリースリングワインに当てはめると、新鮮なうちは堅いと言うのが上質ワインの特徴である。これをイオン化装置によって熟成期間に強制的に加齢すると、当然の事ながらその後の瓶での経年変化を制限してしまう。経年変化の楽しみが無くなり、早く飲まなければいけないとなると高級ワインの価値が減少する。

イオン化自体のプロセスは、様々な方法で試せるだろうが、これによる経年変化の違いを観察するとなるとまた数年の年月が必要になる。何れにせよ醸造所での強制的な加齢作業は、ファストフードの典型のようで頂けない。こうしてコストを下げる事によって、美味しいワインが安く流通するのは嬉しいが、経年変化を楽しめないお座成りのワインを飲むぐらいなら、新鮮でプチプチと弾くような新鮮なワインを飲みたいものである。

それともワインを早く加齢させて、年月の変化を愉しむことも無く、見かけ上の人間の寿命を長くしようと言うのだろうか。なにかSFの時間の無い世界へとトリップするようで、これもまた気持ち悪い。



参考:
新しいぶどう酒を - 断食についての問答から [ ワイン ] / 2005-03-01
荒野に生えた葡萄 [ 歴史・時事 ] / 2005-04-29
コメント (9)
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